第16話 二次転職クエスト

 翌日、学校から帰ってFOにログインすると、


「あ、ツバサ。おかえりー」

「クリス! もしかして、僕を待っていてくれたの?」

「ち、ちがっ……た、たまたま! そう、たまたまだからっ!」


 昨日ログアウトした深淵の街で、すぐにクリスが声をかけてきた。


「ツバサ……今日も一緒に遊べる?」

「もちろん! だけど、ちょっとやりたい事があるんだけど、手伝ってもらっても良いかな?」

「いいぞ! と、友達の頼みだからな。手伝おう」

「ありがとう! そう言ってくれると、助かるよ」


 何となくクリスなら手伝ってくれるだろうと思って、昨日バードの二次職であるミンストレルの転職クエストについて調べておいたんだ。

 僕もせっかくレベル40になった訳だし、パーティバトルみたいな事もしたいしね。

 ちなみに、一次職であるバードの転職クエストとは違い、ミンストレルの転職クエストではアイテム集めや人前で歌うなんて事ではなく、ユニークモンスターという特殊なモンスターを倒さなければならないそうだ。

 先ずは、これからやりたい事を一通り説明すると、


「ふむ、なるほど。つまりツバサはミンストレルになりたいんだな?」

「そういう事。ユニークモンスターと戦わないといけないんだけど、手伝ってくれる?」

「当然だ! ユニークモンスターごとき、我の前では塵芥も同然!」

「ふふっ。じゃあ、よろしくね。クリス」


 そう言って、パーティを組む申請をすると、


『クリス・フォン・ヴァルモーデン レベル???がパーティに加わりました』


 すぐさまパーティを組んだというメッセージが表示されたんだけど……レベル表記がおかしくない?

 これは、何かレベルを隠すアイテムとか装備があるのかもしれないな。

 また夜にでも、ネットで調べてみよう。……ただ、クリスのキャラ名が黄色理由はネットにも載っていなかったけどさ。


「ところで、クリスは準備とか必要かな?」

「ん? 準備とは?」

「何か回復アイテムを用意したりとか、消耗品を補充したりとか」

「いや、我には必要ないぞ。攻撃、回復、防御……全て賄えるから、安心するが良い」


 凄い! クリスは何でも出来る万能キャラなんだね。

 何でも出来るキャラっていうと、前衛だとクルセイダーっていう防御重視のキャラだし、中衛だと僕がなろうとしているミンストレル。後衛だと攻撃魔法と回復魔法の両方が使えるセージって所かな。

 ユニークモンスターの居る場所まで暫く歩くだろうから、その時にでも何のクラスなのか聞いてみよっと。


「それで、そのクエストはどこの街で受けられるのだ?」

「えっとね、川の街っていう所があるんだけど……」

「よし、分かった。川の街だな」


 クリスがそう言った直後、昨日と同様に突然風景が変わり、のどかな街並となった。

 川の街は行った事が無いけど、きっとここがそうなのだろう。

 クリスが狙ったのかどうかは分からないけれど、すぐ目の前に冒険者ギルドの看板があるし、早速手続きをする事にした。


「じゃあ、ちょっと冒険者ギルドでクエストを受けてくるね」

「あぁ、わかった」


 相変わらず大きな扉を開けようとしたら、クリスがいとも簡単にスッと開けてくれたので、そのまま中へ入ってカウンターへ。

 一方のクリスは、入口近くの椅子に腰かけ、待ってくれている。


「すみません。二次職の転職クエストを受けたいんですけど」

「はーい。ツバサ様はバードなので、この二つのカードから、どちらかを選んでくださいね」


 そう言って、眼鏡を掛けた銀髪のお姉さんが二枚のカードを出してきた。


『ミンストレル。がっきをえんそうして、みんなをおうえんするよ。えんそうは、じどうでするから、しんぱいしないでね』

『ダンサー。かっこいいダンスをおどって、モンスターをひきつけるよ。モンスターは、ダンスにみとれてパワーダウン!』


 二次職になっても、カードに描かれたデザインは幼い女の子のままなのは、何故だろうか。

 一先ず、随分と肌の露出が多い、ふんどし? みたいな服装のダンサーではなく、ハープみたいな楽器を持ったミンストレルへの転職を希望する。


「すみません。このミンストレルでお願いします」

「畏まりました。では、この街の西にある川の洞窟へ行き、そこに現れるビッグトードを倒してきてください」

「わかりました。じゃあ、早速……」

「お待ちください、ツバサ様。失礼ながら、その靴で川の洞窟へ行かれるのですか?」

「え? はい。動き易くて良い感じなんですけど、ダメですか?」


 早速洞窟へ移動しようとしたら、いきなりお姉さんに止められてしまった。


「残念ながら。川の洞窟はその名の通り、途中から川の中を歩かないと奥に進めなくなっています。その服は丁度良いと思うのですが、靴は履き換えた方がよろしいかと」


 服は丁度良い……って、しまった。すっかり忘れていたけれど、バードへ転職した時に、何故か女の子用のワンピースを渡されちゃったんだよね。

 裾が短いから膝上まで水に浸かっても濡れないけれど、僕がワンピースなんて着てたら通報されちゃうよっ!


「あの、すみません。この服なんですけど、バードに転職した際に別のギルドで貰ったんですが、交換とかって出来ませんか?」

「申し訳ありません。アイテムの交換などは出来ないんです」


 受付のお姉さんに、深々と頭を下げられてしまった。システム的な事だから、お姉さんでは対応出来ないのかもしれない。


「いえ、気にしないでください。別の服も持っているので」

「そうですか。ですが、川の水で服が濡れると、敏捷性が失われますし、身体が冷えて徐々に体力も奪われますので、御注意くださいね」

「う……じゃあ、この服の方が良いのかな? けど……あ、そうだ。靴は、どんなのが良いんですか?」

「それでしたら、こちらのブーツをどうぞ。水系の防御耐性がありますし、ツバサ様には無料で差し上げる事が出来ますので」


 この靴のプレゼントは、低年齢プレイヤー補正とかいうサービスだろうか。

 今から行く洞窟には打って付けの装備だけど……見た目が完全に長靴なんだよね。しかも、ピンク色で小さなリボンが付いているし。

 どう見ても、小学校低学年の女の子向けだよね?


「あの、もの凄く厚かましい事を言ってしまうんですけど、この靴に他の色ってありますか?」

「すみません。この色しかないんです」


 どうやら色の変更は出来ないみたいで、そのまま靴を受けとると、


『レインブーツ(ピンク)+30を受け取った』


 いつものメッセージが表示されたけど、やっぱり長靴だったよっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る