第44話 強くてニューゲーム

 前に一度来た事のあるクリスのお家へ、一瞬で連れて来てもらった。

 外見は大きなキノコの形をしているファンシーな家だけど、中は至って普通の家で、


「ツバサー。じゃあ、私は準備があるから、ちょっとそこで寛いでてー」

「あ、うん。えっと、お邪魔します?」


 クリスに言われた通り、リビングのソファへ腰掛ける。

 あ……物凄く、フカフカだ。

 思いの外、柔らかいソファに座りながら家の中をグルリと見てみると、今居るリビングの隣にキッチンと二階への階段がある。

 おそらく、二階がクリスの部屋なのかな?

 暫くキョロキョロしていると、キッチンからクリスが出て来たんだけど、


「エプロン!?」

「うん。可愛いでしょー! こういうのを着ると、女の子っぽいかなーって思ったんだー……じゃなくて、思ったんですの」


 フリルの付いたピンク色のエプロンを身に付け、湯気が立ち上るトレイを持っていた。

 なんていうか、初めて会った時に男の子だって思ってしまった事と、いつも全身真っ黒の服のイメージがついてしまっているけど、こうして見てみると、クリスはちゃんと女の子だよね。

 あと、さっきのは喋り方を直さなくて良いと思うよ?

 そんな事を思っている間に、ローテーブルを挟んで僕の正面に来たクリスが、トレイを置く。

 そこにはフォークとナイフ、そして二人で食べるにしても、大き過ぎる分厚いステーキが乗っていた。


「……クリス、これは?」

「ふっふっふ。ツバサに女の子らしい所を見せる為に、料理をしてみたんだー。さっき倒したばかりの、新鮮なドラゴンの肉を使った、ドラゴンステーキだよっ!」


 いや、新鮮なドラゴンの肉って。

 間違ってはいないけど、そんなお肉の説明は初めて聞いたよ。


「ツバサ、さぁどうぞ。グリーンドラゴンの肉は、クセが無くて、とっても美味しいんだから」

「う、うん。いただきます」


 せっかくクリスが作ってくれたので、赤い肉を小さく切って口に運んでみると、噛んだ途端に肉汁が口いっぱいに広がり、濃厚な肉の香りが鼻の奥を刺激する。


「美味しいっ! 何これ、凄い!」

「でしょー! 新鮮なドラゴンの肉を焼くだけなんだけど、とはいえ火加減とか、火から下ろすタイミングとか、いろいろ重要なんだからねっ!」


 女の子が作る料理って、ハンバーグとかを勝手にイメージしていたけど、これはこれで良いよね。美味しいし。

 クリスが作ってくれた物凄く美味しいドラゴンステーキを食べつつ、でも流石に量が多過ぎるので分け合いながら一緒に食事をしていると、


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル99です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 何故か突然レベルが上がってしまった。


「え? どうして?」

「あー、ドラゴンステーキは、食べるだけで大量の経験値が入る特殊効果があるんだった。けどまぁ、別に良いよね。経験値が減る訳じゃないし」


 まぁドラゴンのお肉だもんね。

 そういう効果があっても不思議じゃないか。

 それから、クリスが事前に焼いたっていうクッキーと紅茶をいただいた所で、家に他のプレイヤーがやってきたみたいで、お開きになった。

 お礼を言って、クリスに深淵の街まで送ってもらった所で、


『転生条件を満たしました。女神ロジェニツァの所へ移動しますか?』


 とメッセージが表示された。


「転生かぁ。確か強くなるけど、レベル1になっちゃうんだよね? またレベルを上げなおすのは大変だけど……って、そんなに大変じゃなかったかも」


『転生条件を満たしました。女神ロジェニツァの所へ移動しますか? ……というより、来てよー』


 メッセージを前にどうするか考えていたら、催促するかのように同じ……いや、ちょっとだけ違うけど、再びメッセージが表示された。

 一気に強くなっちゃったし、アオイと一緒にゆっくりレベルを上げるのも良いかな。

 女神様のお誘いを無視するのもどうかと思ったので、「はい」を選択すると、一瞬で視界が変わり、


「おめでとう! この世界で貴方が最も早くレベル99に達したわよ!」


 いきなり満面の笑みを浮かべた女神様に抱擁されてしまった。


「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、早速転生しちゃう? しちゃうよね?」

「あ、あの、女神様。どうして、そんなに転生を推すんですか?」

「ご、ごめんなさい。ようやく一人目が来たから、これからここに来てくれる人が増えてくるかと思うと嬉しくて。今まで凄くヒマ……こほん。女神としての役割を全う出来るのが嬉しいのですよ」


 えっと、要は退屈だったんですね?

 流石に口に出しては聞かないけど。


「では、ツバサ。今から貴方を転生させます。よろしいですね?」

「え……あ、はい」

「わかりました。では、貴方に女神の祝福を」


『転生しました。レベルが1になり、クラスがアドベンチャラーになりました。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


「おめでとう! そして、これは私からのサービスよ」


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル10になりましたので、一次職が解放されます。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 ヒマを持て余した女神様のおかげで、あっという間に転生して、あっという間にレベル10になってしまった。

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