第30話 GvG一回戦

「しゅ、シュタインさん……この服、一体何なんですかっ!? 体操服といえば、普通は短パンですよねっ!?」

「ツバサちゃん。ツバサちゃんみたいに若い子には分からないかもしれないが、俺たちが子供だった頃は、体操服といえばブルマだったんだよ。あぁぁぁ……神だ。神がいる」

「ツバサ様ー! ツバサ様ぁぁぁーっ!」


 気付けば、何人かが僕の目の前で正座しながら拝んでくる。

 こんな格好が昔の体操服なの!? 本当に!? 流石に作り話だよね? ……だよね!?

 あと拝みながら、真下から見上げるようにして僕を見るのは止めて欲しいんだけど。神って何!? ツバサ様は止めてっ!

 こんな格好なら、元の魔法少女のコスチュームやワンピースの方がマシだと思って装備を変えようとすると、突然シュタインさんが赤い何かを差し出してきた。


「ちょっと待ってくれ! その体操服と、今ツバサちゃんが履いている上履き――もとい、学びの靴はセット効果があるんだっ!」

「セット効果って何ですか?」

「決められた特定の装備で固めると、装備の性能が格段に上がるっていう追加効果だよ。お願いだから、その格好のまま、追加でこれを装備して欲しいっ!」


『体育帽(赤)+7を受け取った』


 うん。小学校の体育の時間にかぶっていた赤白帽だね。

 ちゃんとアゴにかけるゴムまで付いてるよ。


「ツバサちゃん……頼む。どうか、それも一緒に装備して欲しい」


 シュタインさんにはお世話になっているし、一先ず装備するだけしてみると、


『運動着セットが装備されました。生命力と敏捷性が大幅に上昇します。尚、年齢制限モードのため、年齢適合により上昇率が五倍になります』


 何だか、凄いメッセージが表示されてしまった。

 年齢適合っていうメッセージは初めて見たんだけど、五倍って!


「ぉぉぉ……神々しい。何という美しいフォルムだ……」

「あの、フォルムって何ですか?」

「帽子、体操服、ブルマ、上履き……完璧だ。完璧だよツバサちゃん!」


 何がどう完璧なのかは分からないけれど、装備の性能が凄いのは分かったよ。

 けど、この格好はどうなんだろう。

 そんな事を考えていると、


『只今より、GvG第一回戦の相手とバトルフィールドを発表いたします。尚、発表直後にワープしますので、御注意願います』


 唐突にシステムメッセージが表示された。

 どうしよう。

 もうGvGが始まっちゃうんだよね!? けど、今から装備を変えて、中途半端な状態で戦場へ転送されちゃったら……


『天使護衛団の第一回戦の相手は、ギルド「お漏らしペガサス」。バトルフィールドは、森フィールドⅠです』


 大変な事になると思った時には、既に見知らぬ森の中へ移動していた。


「皆! 相手は聞いた事も無い弱小ギルドだ! 俺たち天使護衛団の敵じゃねぇぞー!」

「死んでもツバサちゃんに勝利をプレゼントするぞー!」

「野郎共っ! 変な名前のギルドをぶっ潰せーっ!」


 気付けば、オジサンたちが物凄く盛り上がっていて、


『戦闘開始、五秒前』


「ツバサちゃん! 俺たちが頑張れるように、何か一言お願いっ!」


 開始五秒前のシステムメッセージが出た所なのに、誰かが無茶ぶりをして、皆が僕に注目してしまった。

 とりあえず、今の格好のままで注目されるのが恥ずかしいので、体操服をブルマから出して、精一杯下に伸ばしてみる。


『戦闘開始、二秒前』


「あ、あの……皆、頑張って……」

「うぉぉぉっ! ツバサちゃん……みなぎってきたぁぁぁっ!」

「その恥ずかしがるポーズ、最高だっ!」


『時間になりました。只今より戦闘開始です!』


 何とか言葉を絞りだした所でGvGが開始され、アオイとミユさんを除いた皆が一斉に同じ方向へ走り出す。

 一体何があるのだろうかと思ったら、どうやら相手ギルドのギルドマスターの居る方角が表示されているようだ。


「……って、これって僕の位置も相手ギルドに分かっているって事!?」

「ツバサちゃん、安心して。万が一の場合に備えて私が残っているんだから。もしも敵が来たら、燃やし尽くしてあげるわよ。それに、圧倒的な人数差だと思うし、まずこっちまで敵は来ないと思うけどね」


 ミユさんが僕を安心させるように言ってくれた言葉の通り、開始位置から全く動いて居ない僕の所には誰もやってこない。

 それから暫くすると、


『GvG一回戦が終了いたしました。天使護衛団がお漏らしペガサスのギルドマスターを戦闘不能にしたため、ギルド「天使護衛団」の勝利となります』


 開始から五分程度で勝利のメッセージが表示され、僕たちは待機室へと転送される。

 その直後、


「ね、言った通りでしょ? 次もツバサちゃんが危険な目に遭う事は無いから、装備の性能は一旦脇に置いて、マジカルこむぎの姿になってみない?」


 GvGの一回戦を突破した事を実感するより早く、ミユさんに抱きしめられてしまった。

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