第32話 儀式魔法

 今回の準決勝の戦場は、中世ヨーロッパにありそうな円形の闘技場だ。

 観客席も移動可能なんだけど、それでも端から端までを見渡せるくらいに狭い。

 そのため、


「フレイム・アロー!」

「ファイアー・ボール!」

「ファイア・ストーム!」


 シュタインさんやコージィさんの予想通り、僕に向かって魔法攻撃が集中する。


「た、大変っ! ヒール……って、あら? ツバサちゃん、殆どダメージを受けてないわね」

「そうみたいだね。オジサンたちがくれた、この装備が優秀だからじゃないかな?」

「そ、それにしても、ダメージが少なすぎる気がするんだけど、まぁいっか。じゃあ、私はお兄ちゃんのダメージでも治してあげようかな」


 何気にアオイって、お兄さん――コージィさんの事を気にしていて、やっぱり仲が良いんだね。

 僕も渚に懐かれているし、妹は兄に懐いてくれるものなのかな?

 ほっこりしていると、相手に向かって魔法攻撃をしていたミユさんが血相を変えて叫び出す。


「ツバサちゃん、逃げてっ! 相手のギルドが儀式魔法を使ってくるわっ!」

「儀式魔法って?」

「魔法使い系のクラスが六人以上で、しかも時間の掛かる儀式を行わないと発動しない、ボス戦とかに使う魔法よっ! それをGvGで使うなんてっ!」


 よく分からないけど、何だかとてつもない攻撃魔法らしい。

 一先ず、言われるがままに相手ギルド側から離れてみるけれど、そもそも戦場が狭いから、障害物に身を隠さない限り、相手の視界に映ってしまう。

 僕が壁に隠れていたら、儀式魔法とやらが使えないと良いんだけど、


「メテオ・ストライク!」


 大きな声が響き渡り、頭上から轟音が聞こえてきた。

 何かと思って見上げてみると、上空から大きな隕石が僕に向かって落ちてくる。

 こんなの無理っ! ……って思ったんだけど、


「……あ、痛くないや」


 僅かにダメージを受けたけど、大した事が無かったので、皆が居る方へと駆けて行く。


「ツバサちゃんっ!? 大丈夫なのっ!?」

「ミユさーん! うん、大丈夫ー!」

「……そんなっ! 我らの必勝パターンが破られただとっ!?」


 元気よく皆の所へ戻ると、相手ギルドの人たちの一部が膝から崩れ落ち、戦意を喪失してしまった。

 とはいえ、戦う気がある人も居るので、


『勝利の曲』


 ミンストレルのスキル――攻撃力と攻撃速度を上げるスキルを使うと、皆があっという間に相手ギルドを蹴散らしていく。

 そして、


『GvG準決勝が終了いたしました。天使護衛団が魔法中年隊のギルドマスターを戦闘不能にしたため、ギルド「天使護衛団」の勝利となります』


 開始十五分で勝利のメッセージが表示され、僕たちは待機室へと転送された。


「皆、ありがとーっ!」

「いやいや、今回はツバサちゃんが、相手の儀式魔法を上手く避けてくれたからだよ。流石にあの魔法を喰らっていたら、いかに魔法防御力を高めていたとしても、戦闘不能になっていただろうしね」

「ツバサちゃん、流石っ! ツバサちゃん、可愛いっ! ツバサちゃん、結婚し……ぐはぁっ!」


 何故か後ろの方から何かが殴られたような音が聞こえてきたけれど……気のせいだと思う。

 ギルドメンバー同士でケンカなんてしないよね?

 それより、僕は魔法を避けてなんていなくて、このレオタードのセット効果のおかげなんだっていう話をしようとした所で、


「大変だっ! 次の決勝戦の相手と思われる、GvG優勝候補のギルド『聖母の癒し』が、ギルドレベル10なっているぞっ!」


 コージィさんが大きな声を上げた。


「何だって!? あのギルドはギルドレベル9で、我々の方がギルドメンバーの数が上だったはずなのに」

「俺たちがギルドレベル10になったからじゃないか? おそらく、俺たちに対抗すべく、全力でギルドレベルを上げたんだろ」

「マズイな。さっき戦ったギルドが魔法攻撃中心だったように、聖母の癒しも特徴があって、専守防衛型ギルド、つまり俺みたいな盾役――クルセイダーやナイトっていうクラスと、回復役――ビショップやプリーストが多い事で有名なんだ」


 何だか良く分からないけれど、優勝候補のギルドよりも人数が多くて有利だと思っていたのに、その人数が追いつかれてしまったらしい。


「えっと、相手が防御タイプのギルドだっていう事は、こっちが攻撃力を上げれば良いんじゃないですか? 僕、支援スキルを使いますよ?」

「いや、相手の防御が高過ぎるから、実はあまり有効じゃないんだ。それよりも、相手の防御力や回復力を下げるデバフ系のスキル――シーフ系やダンサー系が有効で、それを補う為に数で押そうとしていたんだが、そのアドバンテージが失われたのは厳しいな」


 シュタインさんが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。

 つまり、このままだと僕たちのギルドは負けてしまう可能性があるという事だ。

 だけど、僕たちのギルドは殆どが前衛職で、中衛職のシーフ系やダンサー系は一人も居ない。


「そうだ! ツバサちゃんはミンストレルだよね? だったら、クラスリセットを使えばダンサーになれるじゃないか!」

「そうかっ! ミンストレルはバード系の二次職だから、クラスリセットを使った場合、同じバード系の二次職であるダンサーに転職クエスト無しで即なれるんだっ!」

「ダンサー……ツバサちゃんがヒラヒラフリフリで、へそ出し脚出しのダンサー……」


 え? 何だか未だかつてない程の視線を感じるんだけど、僕の身に何が起こるのっ!?

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