千剣の勇者
『千剣の勇者』
彼女は、ギルドだけでなく、国内でも名を上げる冒険者である。
二週間。それだけの短い期間でギルド内のランクを最低ランクのEから最高ランクのAまで上げた剣豪。
本来、ギルドでのランクを一つ上げるには半年はかかると言われている。
しかし、彼女はその常識をぶち壊し、過去最速のスピードでランクを駆け上がったまさしく天才。
もちろん、勇者という適正を持っているのもあるだろうが、たとえ勇者といえどもこのスピードは異常。
そして、『千剣の勇者』と呼ばれる名前の由来は、その戦っている姿がまさしく千の剣が舞っているかのような光景だから。
そのため、彼女がギルド内に現れる度に人々は羨望の眼差しを向ける。
しかし、
「リダ様、今日はこの依頼を受けましょう!」
彼女のそばに常にいる存在がいた。
名前はリダ。
年齢も出身地も適正も戦い方も不明。
すべてが謎に包まれている。
「おっ、結構いい報酬だな」
「でしょ!ジャイアントウルフならすぐに終わりますしね!」
ジャイアントウルフ。
その名前を聞いただけでその依頼は誰も受け無くなる。
それほどの強敵。
それですらすぐに終わると言えるほどのコンビ。
彼らは、国始まって以来の天才と呼ばれている。
*
このシンシアという街に来てから二週間。
僕はギルドという場所でそこそこいい稼ぎを貰い、そこそこいい宿に住み、そこそこ安定した日々を送っていた。
「ジャイアントウルフならすぐ終わりますしね!」
「そうだね。早速行こうか」
アンはひたすら魔物を狩りまくっている。
強い魔物しか狩らないからだろうか、彼女のギルドのランクは最高ランクにまで上がってしまっているらしい。
あと、ここに住んでからこの国周辺の事情も少しずつ分かってきた。
ここはイーレシア帝国の最西端の街らしい。
だから、ちょくちょくお隣の国のノースガルド共和国と戦争をしているようだった。
その戦争のためにたまに兵士が募集されるのだが、兵士の給料は少なかったので僕らはまだこのギルドで金を稼いでいるというわけだ。
ただ、最近はだいぶ余裕が出てきたので、そろそろ戦争に行ってみても良いかなとは思っている。
「アン、そろそろこの国の戦争を終わらせてしまっても良い気がするんだが」
僕は唐突に聞いた。
「え!?戦争を終わらせるんですか?いいですよ!」
最近の彼女は戦闘狂だ。
もう三週間近くも一緒に行動しているのだ。
僕の考えが読めたのだろう。
その顔に笑顔が現れる。
「ちょうど明日、募兵が行われるらしいから行ってみようよ」
「いいですね!楽しみです!」
*
というわけで、僕らは募兵の行われるという広場に来ている。
人数は意外と少ない。
20人くらいだろうか。
ほとんどの人がそれほど金を持っていない様に見える。
剣や鎧に身を包んでいる人は少ない。
鎧とか結構いい値段するからね。
ちなみに僕らには必要ない。
あんなものあっても動きにくくなるだけだ。
「勇気ある兵士諸君!我らが帝国のために集まってくれたこと感謝する!!」
壇上で金色の鎧に身を包んだ人が叫んでいる。
腰に下げている剣も片手に持っている盾も金色だ。
あんな格好では戦場では無駄に目立つんじゃなかろうか。
「私はゴルダー・メッキという!これから君らの上司となる!よろしく頼む!!」
それにしても、無駄に声がでかい。
「これから君らには、適性テストを行ってもらう!その結果に応じて配属を決める!」
辺りがざわつき始める。
おそらく、天恵のようなものだろう。
そう言えば、僕の天恵は司書なのに、適性は無しだったんだがどういう違いがあるんだろうか。
「リダ様、同じ場所に配属されればいいですね!」
そうだとありがたいが、たぶん違う場所になるだろう。
彼女は勇者で、僕は司書なのだ。
扱いには天と地ほどの差がある。
「そうだね」
とりあえず返事をしておく。
その後は、全員が順に並び水晶に手をかざす儀式を始めた。
ほとんどが剣士。
もちろん僕は適正なし。
そして、アンは勇者。
「リダ君だね。君は・・・」
ゴルダーが僕の適性を見て悩んでいる。
そして、僕を睨みつけるように言い放った。
「君は先遣部隊だ!下がれ!」
先遣部隊。
つまり、切込み隊長だ。
敵の基地に潜入して情報を持ち帰る組織。
僕以外の人はほとんどが第三部隊という部隊に配属になったらしい。
アンも同じく第三部隊。
「一緒じゃなくて、残念ですね・・・」
「しょうがないさ」
彼女は勇者で、僕は適正なしなのだ。
仕方のないことだ。
*
翌日僕は、配属された先遣部隊が集まるというテントに来ていた。
「今日からこちらに配属されたリダです!よろしくお願いします!」
見たところ、この部隊は少数精鋭のようだ。
五人しかいない。
最初の挨拶はとにかく元気に明るく。
第一印象は大切だからな。
「うぃー。よろしくー」
完璧な挨拶だと思ったのだが、返事がほとんどない。
何か間違ったのだろうか。
服装に乱れでもあったのだろうか。
不安になっていると、
「そんな気張る必要ないさ。ここに来たってことはあんたも適正なしなのかい?」
「はい!そうです!」
「ははっ、元気だねぇ」
茶髪のお姉さんが話しかけてくる。
話を聞くと、どうやらこの先遣部隊には適正なしの者が集められるらしい。
そしてこの部隊の作戦内容はいつも同じ。
突撃して誰かを殺すこと。
「な、なるほど・・・」
「そゆこと。だからあんたも次の作戦でいなくなるかもしれないし、私がいなくなるかもしれない。無駄に仲良くなっても悲しくなるだけさ・・・」
彼女が悲しそうに俯く。
たぶん、今までも何人も失ってきたのだろう。
それだけの深い悲しみと、喪失感が瞳の奥底から感じ取れた。
だが、僕はそんなことは嫌いだ。
僕は死ぬつもりもないし、味方を死なせるつもりもない。
それに、
「別に、全員殺しちゃっても問題ないんでしょう?」
問題ないはずだ。
ついでに国を一つ滅ぼしちゃってもね。
「はっ!はははっ!やれるもんならやってみなっ!」
彼女はテントから出ていく。
さて、次の作戦で僕の実力を発揮するとしよう。
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