次回、勇者死す!

 気がつくと僕は、騎士団に囲まれていた。

 全員剣を構えている。


 冷静に考えれば当たり前のことだ。

 僕は一年に一回しかない、それもお偉いさんがくるイベントに、怪しさ満点の格好で飛び込んだのだ。


「貴様!何者だ!?」


 姉のキーシェが剣をぶるぶる震わせながら聞いてくる。


「我が名はゼロ。ダークリベリオンの創設者だ」

「ダークリベリオン!?いったい何を企んでいるの!」


 何を企んでいるのだろうか。僕もよく知らない。


「ふっ、貴様らは何も知らないのだろうな、この世界の真実を。この世界の闇を」


 僕も知らない。


「貴様ら雑兵はせいぜい眺めているといい。この世界の終焉を」

「やあやあ、初めましてゼロ。さっきの騒動には驚かされたよ。ロゲン伯爵を打倒したその実力、見せてもらおうか」


 騎士団の間を縫って太った男が出てくる。


「私はブデー。これでも昔は一騎当千とか呼ばれててね。今では見た目通りだいぶ衰えたが、それでも先ほどの化け物よりは強いぞ!」


 ブデーが消える。


 その姿を騎士団の中に捉えられた者はいない。

 剣を振る音が鳴り響いた瞬間、剣を振り下ろしたブデーと、ブデーの背後から彼を見据えているゼロがいた。


「遅いな。その体で無理をするのは随分と苦しいだろう」


 ゼロが言った途端、ブデーの全身から鮮血が噴き出す。


「ブデーと言ったな。貴様もディスパーダとやらの仲間なのか?」


 ブデーは片膝をつき、ゼロを睨みつける。

 その顔には動揺と驚愕が浮かび、焦りが見える。


「・・・なっ、なんのことだ!?貴様ら!ぼさっとしてないでこの男を捕らえろ!」


 その場を呆然と立ち尽くしてみていた騎士団がたじたじと剣を構え始める。


「騎士団もこの程度の連中の集まりなのか。ディスパーダの壊滅も目に見えているな」


 騎士団がじりじり近付いてくる中、ゼロは消えた。


*

「なんか最近いろいろあったなぁ・・・」


 食堂で三人でいつものように貧乏定食を食べていると、ヒロが珍しく落ち込んでいる。


「なんかあったの?」

「なんかあったっておま・・・。ブデー伯爵が一撃でやられたのお前も見ただろ!?」


 コザが興奮気味に言う。


「あのデブそんなに強かったの?」

「リダはすぐ逃げ出して見てなかったかもしれないけど、凄かったよ。まったく目で追えなかった。あとデブって・・・」


 どうやら騎士団オリエンテーションの時、学生たちの座っていた観客席は阿鼻叫喚の大混乱でカオスな状態だったらしい。


 よかったその場にいなくて。


「ロゲン伯爵が化け物になった時は、僕たちも戦おうと思ってたんだけど、僕達の鍛錬中に現れたゼロとかいう奴が急に現れて、圧倒的な力でロゲン伯爵を倒してしまったんだ」

「やっぱあいつめちゃくちゃ強かったんだな!僕達では手も足も出ないほどに。しかも今テロリストとして指名手配されてるらしいぞ!」

「テロリスト?指名手配?いくらぐらいの賞金がかけられてるの?」


 テロリストとは心外だ。僕は一人しか殺してないぞ。


「あれだけ大暴れしてたからね。あのゼロという男は間違いなく学園の人間だ。僕たちを襲ってきた時に学園の木刀を持っていたし、この学園内にいないとあの場に急に現れるのは不可能だ」

「賞金は1000万ゴールドらしいぞ!捕まえたら貧乏定食からも解放される!」


 ヒロもコザもテロリストを捕まえるのに張り切っている。

 ・・・それにしても1000万ゴールドか。三人で割っても300万ゴールド以上。一生暮らしていけるような大金ではないが、学生の3年間ならば結構贅沢できる金額だ。

 僕もテロリストを捕まえるのに協力するとしよう。


「テロリストの目星はついてる?」

「お、珍しくリダが乗り気だね。一応僕のただの推測ではあるけど、副学園長のサボ・ブリアン先生が怪しいと思う。剣術では学園で一番強いらしいからね」


 サボ・ブリアン先生。

 たしかまだ結構若かったはずだ。しかしその剣の強さと聡明さで、多くの支持を勝ち取り副学園長の座まで上り詰めたらしい。

 見た目は髭を生やしたダンディーなおっさんだ。身長も僕と同じくらいだし、髪の毛もしっかりと生えている。


「先生ならこの学園の木刀も持ち出しし放題だしな!俺もサボ先生は怪しいと思ってた!」


 コザがヒロに同意する。

 確かにサボ先生ならばテロリストに仕立て上げて騎士団に差し出せば、信じてくれるかもしれない。


「しかも、騎士団オリエンテーション当日は体調不良で学園を休んでいたらしい。ますます怪しいね」


 アリバイもなし、と。


「間違いなくサボ先生だろうね。うん」


 サボ先生をテロリストとして言い訳できないような状況を作らないといけない。

 ただ、そのためには、


「僕もいろいろ調べるよ。みんなで協力していこう!」


 この二人に協力してもらわないといけない。


*

 というわけで、僕はゼロの格好で放課後の副学園長室に忍び込んでいる。


 作戦としてはこうだ。

 まず副学園長室の中に忍び込み、ゼロの着ていたコートと剣を隠す。

 そして翌日、ヒロとコザになんやかんやで忍び込んでもらってなんやかんやで発見してもらう。

 その後はみんなでサボ先生を騎士団に突き出して作戦完了だ。


 完璧だ!


 ちなみにゼロが着ていた見た目のコートと剣はアインが用意してくれた。

 仕事が早くて助かる。


 コートと剣をどこに隠そうかと部屋を見渡している時、


「君がゼロか。何をしている」


 開けられた扉の向こうには、サボ先生が剣を構えて立っていた。

 先生の背後には何故かヒロがいた。

 こちらを見て、びくびくしている。


「・・・」


 僕は何が起こっていて、どうすればいいのか分からなかったので、とりあえず沈黙する。


「なんだ、勇者が気になるのか。ついさっきのことだが、彼は私の部屋に忍び込もうとしていてね、少しだけ『お説教』をしていたんだ。ただ、君を見つけちゃったから、彼にはこの後もまた『お説教』をすることになるよ。いやー、残念だよ」


 『お説教』という言葉を聞くたびに、ヒロの肩がビクッとしている。

 拷問か何かされてトラウマでも植え付けられたのだろう。かわいそうに。


「この学園の男の教師は皆そんな趣味があったのか。実に気色の悪いことだ」


 僕はガラスを突き破り、逃げ出した。

 ヒロを救うのは諦めた。めんどくさそうだし。


「何を言ってる!そんな趣味はない!」


 割れた窓からサボ先生が叫んでいる。

 まあ今回の作戦は失敗だ。次のターゲットはもっとバカそうな人にしよう。


 残されたヒロにはご冥福を祈っておこう。

 まあ死にはしないだろう。


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