神をも恐れぬ外道

 少女達を運ぶ。


 ウラノス家ではなく、その裏山へと。

 とにかく何か食べ物を食べさせないといけないので、飛んで帰ってきている間についでにその辺の鳥を捕まえていた。


 裏山の財宝の隠してある洞窟の中に、ブラッドスーツで即席でベッドを作り少女たちを寝かせる。

 少女は二人とも真っ白な髪の女の子だ。歳は僕と同じくらいだろう。


「・・・んっ、ここは・・・」


 観察していると、少女が目を覚ました。


「起きたか」


 焚き火を起こし、鶏肉を焼きながら、彼女に声をかける。


「あの・・・助けて下さって、ありがとうございます」

「とりあえず食べるといい、腹が減っているだろう」


 塩を振った鶏肉を焼いただけではあるが、何も食べないよりはましだろう。

 骨付きの鶏肉を少女のベッドに置く。


「ありがとうございます!」


 少女は急に笑顔になり、肉を頬張りはじめる。

 よほど腹が減っていたのだろう。


 隣で寝ていたもう片方も目を覚ます。


「起きたか、食べるといい」


 そう言ってもう片方の少女の前にも鶏肉を用意すると、ガツガツと食べ始めた。


 その光景を見ながら、僕は考えていた。

 魔王とはどのような存在なのか、何をするのか、どこに住んでいるのか。

 今後少女のどちらかに魔王になってもらわなければならない。

 そのためには設定をしっかりと練らなければ・・・!


 そして、一つの解を導きだした・・・!


「助かりました・・・、ありがとうございました」


 少女は二人とも肉を食べ終わったようだ。


「それで、先ほど話していた世界が歪んでいるとは・・・?」


 聞かれる。

 ここからの話はすごく大切だ。

 緊張で震える手を握り混み、僕は彼女等に背中を向けて話し始める。


「この世界は、仮初めの神によって影から支配されている・・・」

「えっと・・・どういうことですか?」


 少女達は混乱したような表情をこちらに向けてくる。

 僕は練り上げた設定を読み上げていく。


「その昔・・・、古代の話だ。世界は魔王と神によって統治されていた・・・」

「おとぎ話であった話ですよね?あれは作り話なんじゃ・・・」


 おとぎ話?そんなのあったのか。

 まあいい。


「実はあれは作り話なんかじゃないんだ。神と魔王による戦いは、魔王の勝利によって終わった。そして今現在に至るまで、魔王が世界の頂点に君臨している・・・それも、神として・・・!」


 僕は歯を食いしばり渾身の悔しそうな顔をする。

 目線はずっと焚き火を見つめている。

 目が泳いで嘘を見抜かれないようにするためだ。


「そんな!ということは天恵を与えているのは魔王ということですか!?」

「そうだ・・・!だから君達のような・・・」


 僕は歯を食いしばりながら続ける。


「ただ敗北した神もなにも出来なかった訳ではない。神は後世のために贈り物を残したんだ。それが、魔王を封じ込めるための力。しかし、この力に気がついた魔王は天恵というシステムを人間の社会に作り、この力を持った者を天恵無しと称してこの世から消そうとしているんだ。それが、君達というわけだ」


「そんなっ!ということは私達は神に・・・魔王に貶められたということなんですか!?」


「そういうことだ・・・!」


 迫真の悔しそうな演技。

 目線は焚き火。


「だから、君達には僕の作る組織の一員となって魔王を倒すために協力してほしいんだ」

「わかりました!何でもします!」


 どうやらやる気になってくれたみたいだ。


「我々はダークリベリオン、世界の闇に反旗を翻すものだ・・・!」


 この名前、今即興で考えたとか言えない。


「君達はこれから、世界中の勇者と戦う事になる。実は魔王は勇者の天恵を受けた者の中に紛れ込んでいるらしい。だからまずは強くなってもらわないとね」


 これもたった今考えた設定だ。まあ別に魔王になってもらわなくても、勇者と戦ってさえくれたら何でもいいよね。


「はい!頑張ります!」

「そういえば、君達名前は?」


 僕は初めて彼女達の顔を見る。

 覚悟に満ちた顔をしている。


「・・・名前はありません。捨てました」


 覚悟を決めた顔でそう言ってくる。


「じゃあ君がアインで、君がツヴァイね」


 前世の世界で、数字の一と二という意味だ。

 まあ別に名前なんて何でもいい。


「はい!えっと、何とお呼びすればいいでしょうか?」

「んー・・・じゃあ、ゼロってよんで」


 彼女等が1と2なら、僕は0であるべきだろう。


「じゃあ特訓を始めようか」


 そう言って僕は剣を構えるのだった。


*

 後日の夜。


 僕は父さんの書斎へ忍び込んでいた。

 目的は、『魔石』と呼ばれる石ころを盗むためだ。


 『魔石』というのは古代の遺跡から出土するもので、大変貴重な物であるらしい。

 父さんはこの魔石を趣味で集めているようで、昔うっとりとしながらこの魔石を眺めているのを見たことがある。


 よっぽどこの魔石が好きなのだろう。

 その名の通り魔力をため込むことの出来る石ころで、魔力がある程度貯まると綺麗な虹色に輝いてくるのだ。


 なぜこれが必要なのかというと、アイン達のブラッドスーツを作るために必要だからだ。

 彼女等の魔力の量ではブラッドスーツを作ることが出来なかった。


 そこで、活躍するのがこの魔石だ。


 魔石から魔力を借りて魔物の血に流し込む。

 というわけで父さんには申し訳ないが全て盗ませてもらう。


 たしか引き出しの中にあったはずだ。

 魔石を盗み出した僕はアイン達の寝泊まりしている洞窟へと向かうのだった。


*

 翌朝。


「ぎゃあああああ!!!」


 早朝から屋敷内に悲鳴が響く。

 父さんの書斎からだ。

 何かあったのだろう。盗賊かもしれない。


 父さんが危ない!


 不安に駆られた僕は急いで父さんの書斎に走って向かう。

 そこには、うずくまって血を吐きながら、何かを叫んでいる父さんがいた。どことなく髪の毛も減っている気がする。


「父さん!大丈夫ですか!?」


 あまりに酷い光景だったので父さんに声をかける。


「ま・・・!ませ・・・!ま!グフゥゥ!!!」


 血を吐いて気絶した。

 命に別状はないようだ。脈も正常だし、息もしている。

 まあタンスの角に小指をぶつけたとかそんな感じだろう。


 僕は父さんを使用人に任せて、朝食を取りに食堂に向かうのだった。

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