閑話っぽい話

 僕の朝は早い。


 早朝。日が出る前に起床し、自室で魔力トレーニングを行い、その後は筋トレだ。

 最近、担任の先生と戦うようになってから自分に足りないものは筋肉量だと気付いたからだ。


 しかし、この日だけは違った。

 寝坊してしまったのだ。この僕が。

 だが大丈夫だ!

 僕はこんな時のことも想定している。


 遅刻しそうな女子高生が、道路の交差点で、主人公の誰かとぶつかるあれだ。

 ここは寮なので交差点どころか、車すら通らないのだが。

 というかこの世界には車すらないのだが。


(遅刻遅刻ー!)


 心の中で叫ぶ。


 まあ、僕は女子高生ではないが、この際性別などどっちでもいいだろう。

 僕は急いで支度する。

 制服と髪の毛を良い感じに崩し、食パンをくわえる。


 見た目は完璧だ・・・!

 僕は鏡で身だしなみをチェックする。


 完璧だ・・・!


 僕は走って教室に向かった。


*

 結局、道中は実に平和なものだった。

 なんせ誰も歩いてないからな!


 そういえば寮を出た時、視線を感じた気がする。

 もっと状況を見て臨機応変に対応していかなければならない。

 僕はバタバタと教室に潜り込む。 


 時計を見る。

 ギリギリセーフだ!


「リダが遅刻なんて珍しいな!」


 コザが陽気に話しかけてくる。


「僕も人間だからね。たまにはこんなこともあるよ」


 僕は笑顔を返す。

 そういえば、ヒロがいないな。

 いた。

 こちらに話しかけようとしているが、チラチラこちらを見ながらもぞもぞしている。


 ああ、そうだったな。

 コザとヒロは今喧嘩中なんだった。

 まったくもって面倒だ。

 僕にしてみれば、くだらなすぎて困ったものだ。


「ヒロと何かあったの?」


 僕はコザに聞く。


「いや・・・、別に・・・」


 顔をそらして明後日の方向を見ながらコザが動揺する。


「僕が取り持ってあげようか?」

「いや!大丈夫だ。これは俺の問題だしな」


 コザは無理やり作った笑顔で応える。

 そういうことなら、僕は何も手出しはしなくていいのだろう。


 なんせ彼らはまだ若いのだから。

 この後の話は、前の話を読んだ皆さんならもう知っていることだろう。

 なんやかんやで二人は仲直りするのだ。


*

 リダ君日記。

 私は自分の手記にそう名付けた。

 彼の事は、調べれば調べるほどに分からないことが増えていく。


 まず朝。


 いつもの彼は普通の時間に普通の服装に髪型、そして普通の歩き方で寮を出発する。

 毎日観察していたが、その時間の正確さはすごい。

 寮の玄関を出る時間も、校舎につく時間も、すべて1秒の狂いもなく同じなのだ。

 すごい。


 しかし、この日だけは違った。


 遅刻ギリギリの時間に寮をバタバタと飛び出してきた。

 制服は乱れ、髪はぼさぼさ、おまけに口にはパンをくわえている。

 私は瞬時にその映像を脳内に焼き付けた。

 一秒たりとも、一瞬たりとも見逃してはいけない。


 そう、自分に言い聞かせて。

 彼の後ろを追いかけながら、先ほどの映像を手記に記す。

 この時、私は自分が絵を描くのが苦手であるということを後悔した。


 剣を極めるためには、絵なんか必要ない。

 そう思っていた私は強く反省した。

 王女たるもの、全てを極めなければ!


 次に昼。


 彼は、勇者の馬鹿と魔剣士の雑魚といつも一緒に居る。

 彼らには話しかけるときもあるが、話しかけない時もある。

 なんとなく、その日は空気が重たいような気がしたので、話しかけずに、聞くことに集中することにした。


 それにしても、リダ君。ご飯を食べる仕草も愛おしく感じるのはなぜだろうか。

 彼を見ていると、心が安らぐ。

 彼が席を立つ。

 追いかけなければ。


 そう思ったが、彼をストーカーしているならず者がいた。


 あれはたしか・・・、彼のクラスの担任のレイ先生だ。

 私はレイ先生の後に続いた。


 放課後。


 私はいつもの場所に向かう。

 いつも三人で鍛錬している場所にだ。

 いつものメンバー、いつもの景色。

 だが、いつもとは少し違う雰囲気。


 馬鹿と雑魚の二人が無口なのだ。

 なぜだろうか。

 そう思っていると、魔王と名乗る存在が現れた。


「私は魔王。世界の頂点に君臨するものだ」


 どこかで聞いたことのある声。どこかで見たことのあるような現れ方。

 それに続いて、どこからともなくレイ先生が現れる。

 全員ワイワイガヤガヤしているが、私はその光景を見ながら、


(魔王ってリダ君と同じくらいの体格だなあ・・・)


 そんなことを思っていた。


 気が付くと、魔王はどこかへ行き、レイ先生も消えていた。

 そして、鍛錬はそのままお開きとなった。

 私は、今日こそリダ君が鍛錬に来てくれると期待していたのだが、今日もダメだったみたいだ。


 今度はもっと強引に誘えるように頑張ろう。


 私は決意を新たに寮に帰るのだった。

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