騎士団オリエンテーション
「ククク・・・」
ロゲン伯爵は不気味に笑う。
「待っていた。この日を」
今日は学園で騎士団によるオリエンテーションが行われる。
簡単に言えば将来の明るい若者達に騎士団の魅力を伝え、勧誘するのだ。
騎士団は組織の小間使いであり、はっきり言って使い捨てだ。
そしてこのオリエンテーションには組織の上層部の者達が出席するらしい。
もちろん私も参加する事になっている。
私にはもう、後がない。
「標的はブデー伯爵。ついでにその場にいる騎士団と学生たちにも犠牲になってもらおう。娘を助けるためだ。なんだってしてやるさ」
「失礼いたします。ロゲン様、馬車の準備が整いました」
「分かった。すぐに行く」
ロゲン伯爵は学園へと向かうのだった。
*
今、僕は騎士団オリエンテーションとやらの茶番を見ている。
闘技場で、騎士団が全校生徒の注目の的となり、模擬戦闘をしたりしている。
学園のイベントの一つなのだが、新人の騎士団とその他のお偉いさん達がきて、騎士団の素晴らしさや、かっこよさ、強さなんかを教えてくれるみたいだ。
別に僕は騎士団なんか全く興味ないし、将来は山で自給自足の生活でも送れたらいいので、ただひたすらに眠たくなるだけだった。
「かっこいいよな!騎士団って!しかも今日は昔の英雄も来てるらしいぞ!」
「たぶん、あの来賓席に座っている人たちだろうね、一騎当千のブデー伯爵に剛腕のロゲン伯爵だと思うよ」
ヒロとコザが両隣から僕を挟んで会話している。
そういえばヒロとコザは僕が襲撃した時からずっと鍛錬を一緒にしているようだ。
随分と仲良くなったようで羨ましい。
まだ学生になって間もないのに華の青春を送っている。
うるさくて仕方ない。
彼等の間に挟まって僕は空気になろう。
僕には眩しすぎる。
オリエンテーションも終盤にさしかかり、それは起こった。
「なんだ!?来賓席から誰か降りて着たぞ!次は何をするんだろ!」
「あの人はロゲン伯爵だね。もしかしたら凄い剣術を見せてくれるのかもしれない!」
二人が興奮している。
「こんにちは、皆さん。そして、さようなら」
ロゲン伯爵はマイクを通してそう言った後、小瓶を取り出し、中身をすべて口の中に放り込んだ。
その瞬間、闘技場全体を禍々しく黒い魔力が覆う。
そして、
「ああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
ロゲン伯爵の体の皮膚が膨れ上がり、肥大化していく。
その姿は、目は血走り、片腕だけ異様に膨れ上がっていて体躯の左右のバランスがとれていない。
「ガアアァァァア!!!!」
叫び声と共に、ロゲン伯爵の姿がかき消えた。
そして、轟音とともに来賓席が吹き飛ぶ。
吹き飛んだ瓦礫の中に、人の姿はない。
「なんだあれ・・・」
「どうみてもイレギュラーだ。コザ、彼を止めないと」
ヒロが、剣を抜き立ち上がる。
その手は、震えていた。
「俺達も鍛えたからな!あれくらい何とかできる!」
コザの手も震えている。
僕は巻き込まれまいとひっそりとその場を離れた。
ロゲン伯爵は更に激しく暴れ続ける。
彼の次の標的は、騎士団のようだ。
騎士団の方に向かって走り出した。
ロゲン伯爵の腕が騎士団の集団にぶつかる前に、僕は気付いてしまった。
騎士団の中に、姉のキーシェがいた。
気付いた瞬間に、僕はゼロの姿となり、客席から飛び立っていた。
一直線に姉の下へ、最高速度で飛んで行く。
「なんだ!?」
キーシェが叫び、尻餅をつく。
轟音とともにキーシェとロゲン伯爵の間に割り込んだ僕はロゲン伯爵の腕を、剣で受け止めていた。
「我が名はゼロ。貴様を潰す」
この時、僕は本当に怒っていた。
姉のキーシェが殺されかけたのだ。
この男は死ぬよりも辛い目に合わせなければいけない。
横に一閃。
片足を切り抜く。
「効かん!今の私は、神に近い存在となったのだ!」
その一撃は肉を切り裂き骨まで砕いていた筈だった。しかし、傷口が泡立ち始め、途端に治る。
「見たか!貴様の一撃など無意味だ!最強の力を見せてやる!!!」
ロゲン伯爵が消える。
だが、ただ単に早いだけで単調な動きだ。
「・・・これが最強?」
気がつけば、ロゲン伯爵の体の節々から血が漏れていた。
「何故だ!何故再生しない!?」
ロゲン伯爵がまたしても目に見えない速度で動き出す。
それに合わせてゼロも動く。
飛び散る血と、漆黒の影。
その姿は、誰の目に追えない。
飛び散る血と、漆黒の残像だけが闘技場にいる者達に何かが起こっていることを告げていた。
しかし、次第にその攻防も勢いを落としていく。
「なぜだ。なぜ貴様は・・・」
ロゲン伯爵の動きが止まる。
「なぜ貴様は、それだけの力を持っているのに・・・」
ゼロも立ち止まり、
「貴様には地獄に落ちてもらう。それだけだ」
ロゲン伯爵の目が絶望に変わる。
「・・・それだけの力があれば!私の娘だって助けられるはずだ!」
「今の自分の姿を鏡で見てみろ。娘に会えるような姿ではないぞ」
「っ!じゃあ私は・・・!私はどうすれば良かったんだ!」
「・・・」
僕は沈黙する。さっきまで怒ってたからか状況がよく飲み込めないのだ。
「もう・・・もう殺してくれ・・・。ただ、私の娘達だけは助けてくれ!双子で、二人とも天恵を貰えなかったんだ・・・」
「いいだろう」
なんせもう助けているしな。
ロゲン伯爵の首が飛ぶ。
飛んでいるその顔は、どこか満足気だった。
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