僕は悪くない

 おかしい。


 どう考えてもおかしい。


 これは新手のイジメだろうか?


 サバイバル訓練から帰った僕の机の上には、一凛の花が置かれていた。


 意味が分からない。


 天空の城で黒騎士君と壮大な冒険をした僕は、南の森へと帰った。


 なぜかわからないけど、森の入り口には誰もいなかったけどね。


 おかげで王都まで飛んで帰って来る羽目になった。


 天空の城の冒険は、およそ二日間という短い間ではあったものの、実に素晴らしいものだった。


 最後の最後まで、なんの遺跡かは分からなかったが、その複雑に入り組んだ構造と各所に散りばめられた罠は、まるで、僕の事を試しているかのようだった。


 結局、財宝は見つからなかったのだが、僕はすがすがしい解放感に包まれていた。


 そうそう、黒騎士君には僕の代わりに魔王になってもらった。


「君が、これから魔王だ。僕の代わりに、頑張ってね」


「わかりました。魔王様」


 そう言った彼の顔は、どこか寂し気だった。


 そういえば、彼と別れるときには彼の言葉も随分と上達していた気がする。どことなく身体もさらに大きくなっていたような・・・。


 まあいい。


 とにかく、僕はこの状況を何とかしなければならない。


 教室に入ってきた生徒が、僕の事を見るたびに悲鳴を上げるのだ。


 いったい、僕が何をしたっていうんだ。


 まあ、時間が解決してくれるだろう。


*

 僕は夜、久々に会ったアインに報告を受けていた。


「ゼロ様。ご無事で何よりです」


 彼女は最初に僕の身を案じてきた。


「南の森で行方不明になったと聞いたときは、私達も不安になりましたが、ご無事であることを信じておりました」


「そうか・・・」


 なるほど、そういうことか。


 さらに話を聞いていくと、どうやらサバイバル訓練は四日目で中止になったそうだ。


 だから、僕は死人のように扱われていたのか。


 特に僕を目にした王女様はなんか怖かった。


 めちゃくちゃ揺さぶって来るのだ。僕の体を。


 生きていることを確認できたのか、すぐにどこかへ行ってしまったが。


 ヒロとコザも、僕との再会を死ぬほど喜んでくれた。


 彼らの涙には、思わず僕もうるっと来てしまった。


「どうやら、南の森で魔王の配下を名乗る魔物が現れたようで・・・」


 ああ、そのことか。それは僕の部下だよ。


 言おうとしたところで、


「その魔物が、生徒たちに無差別に襲い掛かっていたそうです」


 僕は口を紡ぐ。


 彼らには申し訳ないことをしたと思う。


 たぶん、結構怖かっただろうに。


「それと、南の森だけでなく、学園でも魔王が現れたそうです」


 知ってる。というか僕だ。


「そうか・・・」


 アインは、僕の事を責めているのだろう。


 もう、馬鹿なことはやめろと。


「あと、もう一つ悪い報告が・・・」


 なんだろうか。


 なんでもかかってきなさい。


「実は、以前に報告した学長はディスパーダとは関係ないという件ですが・・・」


 ああ、そういえばそんな話あったね。


 確か、彼にはゼロの汚名を着せて僕が騎士団に突き出そうと思って、僕の嘘まみれのレポートを提供したはずだ。


「ここ数週間で、なぜか魔物の研究に実を乗り出してですね・・・」


 だろうな。そんなレポートだった。


「その頭脳を見込まれて、正式にディスパーダの組織の研究者になったそうです」


 なるほど。そうきたか。


 僕のせいだね。うん。


「そうか・・・」


 僕は、もう彼女の話を聞きたくなかった。


 まるで僕が責め立てられているみたいだ。


「それと、なぜか学園のレイ先生がゼロとして騎士団に突き出されたそうです」


 それは知ってる。僕の責任じゃないはずだ。


「どうやら、学園長が告発したようです」


 まじか・・・。学園長、許すまじ。


「すまない・・・。すべて・・・。全て俺の責任だ・・・」


 すべてではないけどね。


 最後のは僕は関与していない。


 けど、全てって言ったほうがかっこいいよね。


「そんなっ!ゼロ様は何も悪くありません!」


 そう言うと思ったよ。


 アインは優しいから、僕を出来るだけ傷付けないように、穏便に事を済ませたいだけに違いない。


 本心では、僕にこれ以上余計な行動を起こして欲しくないと思っているくせに。


「来月から夏休みだ・・・」


「・・・はい。存じております」


 僕はしばらく彼女たちから距離を置こう。


 夏休みの間だけでも。


「夏休みは、しばらく王都を離れる・・・」


「・・・はい」


 もうこれ以上アインには迷惑はかけたくない。


「王都の事を頼むぞ・・・」


「はい!」


 僕は彼女の声を聞いて、逃げるように部屋へと帰る。


 もう、顔を合わせるのも億劫だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る