くっころ

「っく!殺せっ!」


 僕は今、拘束されている。


 皆さんの大好きなくっころの時間だ。


 両手両足を縄で縛られて、壁につるされて、まるで悪魔でも見るかのような視線が目の前の群衆から向けられている。


 吊るされているのは僕だけではない。


 辺りを見ると、僕以外にも何人も吊るされている。


 足元にはよく燃えそうな木炭やら木片が積み上げられており、辺りには火のついた松明を持った鎧姿の男たちがニヤニヤと談笑している。


 たぶんこれから公開処刑なのだろう。


 なぜこんなことになったんだろうか。


 自分でもよく分からないが、タイミングを見計らっているうちにこうなった。


 事の始まりは、昨日の昼の事だ。


*

 魔王城から降り立った僕は、近くにあった街の中に忍び込むことにした。


 まるでスラムのような乱雑に建てられた家々と、どこか静けさと気味悪さの漂う街。


 周囲を高い壁に囲まれており、壁の中には腐敗集のような糞尿のような、異様な臭いがする。


 そして異様な臭いと共に話しかけてくる物乞い。


 僕はこの街に忍び込んだ。壁など空を飛ぶ僕にとっては何の意味もなさない。


 泥のついてない服を着ていたからだろう、通りを歩くたびに泥まみれの住民に金をせびられる。


 もちろん全てを無視する。


 なぜなら、タイミングが完璧ではないからだ。


 この街は救わなくてはならない。


 絶対に悪行がはびこっている。


 しかし、救うタイミングは今ではない。


 僕が今ここで何か食べ物を与えたところで、彼らの人生が一生報われるものでもないし、ただ単なる僕の自己満足で終わってしまうだけに終わるのだ。


 よって、この街の中に存在する一番きれいな建物に忍び込み、正義のヒーローよろしく領主的っぽい人とその取り巻きを虐殺してしまおうというわけだ。


 トップが消えればきっとこの街は救われるに違いない。


 というわけでとりあえず街を歩いているのだ。


「あなた、随分ときれいな服を着てるわね」


 僕が歩いていると、不意に声を掛けられる。


 振り返ると、コートを身にまとい、フードで顔を隠している人がいた。


「実は旅の者でして、旅の途中にここに寄ったのです」


 とりあえず旅をしていることにする。


「旅をしているということはある程度の戦闘経験はあるのかしら?」


 どうなんだろう。


 でも戦闘経験はないとおかしいだろう。


「はい。そこら辺の魔物なら倒せますよ」


 僕は笑顔で応える。


「じゃあ、私たちの秘密の組織の兵士になってくれない?報酬は弾むわよ」


 秘密の組織の兵士・・・。


 いい響きだ・・・。


 明らかに怪しさ満点の勧誘だが、その気になれば皆殺しにして逃げられるし、乗っておくとしよう。


「詳しく話を聞かせて下さい」


「よかった。ついてきてくれる?」


 僕を案内してくれるようだ。


 もしかしたらこの組織がこの街の惨状の原因かもしれない。


「秘密の組織って、どんな組織なんですか?」


 ついていきながら、僕は尋ねる。


「この街、リフテンの市民の解放と、自由を手にするための組織よ・・・!」


 リフテンというのがこの街の名前なのか。


 市民の解放と自由を手に入れるということはつまり、テロリストとかそんな感じの事をしているのだろう。


 ということは、この組織は余り悪さはしていないのだろう。


「そうなんですね。それは・・・、僕も出来る限りの事はしたいですね」


 この街の現状。


 さすがの僕にも無視できない。


 なんせ王都にあったスラム街よりもひどい。


「ありがとう。アジトについたら早速作戦に参加してもらうからそのつもりでいてね」


 というわけで僕はテロリストの一員になった。


「ここがアジトよ」


 案内された場所は汚い洞穴のような場所だった。


「なるほど・・・!」


 くさい。まさにその一言しか出てこなかった。


「そういえば、あなた名前なんて言うの?」


「リダです」


 苗字はまあいいだろう。


 身分とか明かすのはなんか怖い。


「そうなのね。私はアン。よろしくね」


 彼女はフードをとり自己紹介してくる。


 赤髪の女の子だ。


「きれいな髪ですね」


 無難に褒めておく。


「褒めても何も出ないわよ。ついてきて」


 僕の賛辞は切り捨てられた。


 そのまま僕は彼女についていく。


「ここよ。ここが私達『反逆の狼煙』の本拠地よ」


「ここが・・・!」


 その場所はまるでゲームに出てくる勇者の酒場のような場所だった。


 荒くれもの達が集い、酒を呑み交わし暴れる場所。


「おう!アン!新入りか!?」


 酔っぱらいの禿げた筋骨隆々の男が声を投げかけてくる。


「そうよ。たぶんこの前のよりは使えるはずよ」


「そうか!せいぜい足を引っ張らないようにな!新入り!」


 そう言って禿男が僕の背中をバンバン叩いてくる。


 この前の、とは何だろうか。


 なんとなくこの組織も潰した方がいいような気がしてきた。


「えっと、はい・・・」


 弱弱しく答える。


「ガハハハッ!頼むぞ!新入り!」


 まあ、この組織を潰すのはまた今度でいいだろう。


 この街の状況がもっとはっきりわかってから判断しよう。


「よろしくお願いします・・・」


 決めた。今回の僕は弱小キャラだ。


 このままこの街を取り巻く状況を探ろう。


 彼らに僕の実力を明かした時の驚愕の表情を思い浮かべて僕はほくそ笑む。


「ふふふ・・・」


「ん?どうしたの?リダ?」


 アンが心配してくる。


「いや・・・何でもない・・・」


 危ないところだった。いつもの悪い癖が出るところだった。


 とにかく僕は、彼らの小間使いとしてこそこそ頑張ろう。


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