サバイバル訓練初日
勇者と魔剣士が仲直りをして一週間。
いよいよ、サバイバル訓練の日がやってきた。
待っていた。この時を。
僕はこの時のために罠を仕掛けておいたんだ。
優勝して、賞金を手に入れるために。
普通は三人一組なのだが、僕は一人。
独りきりのチームだ。
僕ら学生は、全員馬車に揺られ、南の森へと向かっていた。
窓から外を覗くと、もう王都は見えなくなっている。
もうすぐ南の森に着くはずだ。
「くくく・・・」
笑みが小さく零れる。
「どうした?リダ。体調でも悪いのか?」
勇者のヒロが心配してくる。
心配する必要なんてないさ。君達は僕の単独優勝する姿をみてむせび泣いているがいい。
「ふふふ・・・」
そういえば、魔物を倒した数は全員に支給された魔道具が自動でやってくれるらしい。
一定のダメージを受けると強制的に拠点に転送される魔道具と一緒に配られた。
つまり、僕を監視する者は誰もいないということだ。
全力で暴れることが出来る。
「ははははは!!!!」
僕は堪えきれず笑う。
「先生!リダがおかしくなっちまった!」
魔剣士のコザが動揺している。
動揺を隠せないのも仕方ないだろう。
なんせ、勝つのは僕だからな。
*
森の入り口に着いた。
もう辺りは夕陽が差し込んでいる。
先生は簡易テントの準備をしている。
「なあ、リダ。本当に棄権しなくて良かったのか?一人じゃ危ないぞ!」
コザはどうやら僕の事が心配らしい。
「大丈夫だよ。一人の方が魔物にも見つからないだろうしね」
僕は彼に笑顔を向けて返す。
見つからないどころか、僕はこの森の魔物を一カ所に集めている。
むしろ魔物を見つけられないのは彼らの方ではなかろうか?
「・・・あの・・・リダ君、これ、お守り・・・」
背後から王女様が声をかけてくる。
手の中を見ると、美しい装飾をされた指輪があった。
微かに魔力を纏っている。
魔道具だ。
「えっと、ありがとう」
とりあえず受け取る。
王女様は、ヒロと仲良くなりたいからまずは僕と仲良くなるつもりなのだろう。
外堀から埋めていく作戦。
嫌いじゃない。
それにしても、何の魔道具だろうか。
サイズ的に、右手の薬指がちょうどよさそう。
僕は薬指にその指輪をはめる。
王女様はその指輪を見て、そそくさとどこかへ行ってしまった。
「これより、サバイバル訓練を始める!チームごとに別れてください!」
先生が声を張ると、生徒たちがチームごとに固まっていく。
僕は一人だ。
みんな楽しそうにわいわいとしている。
ちょっと寂しいな・・・。
「では、これより簡単にルールを説明する!」
先生が話し始める。
期間は一週間。
持ち込むものは、テント、食料、武器など。
食料が尽きたり、魔物だらけで助けが必要になったときは、全員に支給された魔道具の腕輪の装飾を五回叩けば拠点に強制送還されるらしい。
僕は助けなんて必要ないけどね。
ちなみに今回の訓練では僕は身体に重りはつけていない。
テントだけで、結構な重量があるからな。
「では、始め!」
全員が森に突入しだす。
僕も彼らの後を追うように走り始める。
目的地は決まっている。
罠を設置しておいた場所だ。
僕は一直線に森の中を駆ける。
今頃、あの周辺は魔物が大量に蠢いていることだろう。
楽しみだ。
*
着いた。
罠の場所だ。
いや、罠の場所だったはずだ。
なにが起こったんだろうか?
まるで、隕石でも落ちたかのように、クレーターが出来ている。
夕陽はもう沈み、月明かりが辺りを照らしている。
おかしい。
こんなはずでは。
僕はクレーターの中心に向かって歩く。
中心部には、一匹の魔物がいた。
黒い鎧を身にまとい巨大な剣を握っていて、立っている。
そして、背中からは巨大な黒い翼が生えている。
月の光に照らされて、鎧が不気味に淡く、黒く、景色に溶け込んでいる。
満月を見ながら佇むその様はまるで・・・。
まるで、魔王みたいだ・・・。
美しい。
僕はまず最初にそう思った。
そして、次に疑問が沸いてきた。
あれは何なのだ?と。
何が起こったらこんな事態になってしまうのかと。
僕は分析する。
そして、ある仮説を立てた。
それは二年以上前の話だ。僕は魔物に際限なく魔力を注ぎ込んだらどうなるのか実験していた。
ずっと魔力を込め続けると、気がつけば大きさや形が変わっていたことがあった。
存在進化、変化、変質。そんな類のものだろう。
図書館にある専門書にも載っていない、誰も知らない新事実だ。
そのほとんどは魔力に耐えきれず死んでしまうのだが。
そして、その変化をした個体の強さは桁違いになる。
もし、もしもその変化を何度もした個体が現れたらどうなるのだろうか?
その答えが、目の前の存在というわけだ。
恐らくそういうことだろう!
いやー、大変なことになった!
すっきりしたところで僕は引き返そうとする。
しかし、
「っ!」
僕は背後から気配を感じ、瞬時にブラッドスーツを展開して前方に避ける。
鎧の魔物の剣が僕の残像を切る。
僕は鎧魔物と距離を取り、剣を構える。
規格外だ。
この森にいる魔物や、生徒では認識する前に殺されてしまうほどのやばい奴。
今まで、僕はこんな敵と対峙したことがない。
ふと、辺りを見渡す。
満月がかなり傾いている。
もう、日はまたいでいるだろう。
「くくく・・・」
ワクワクする。こんな感覚は久しぶりだ。
鎧の魔物へと足を運ぶ。
「キザマ、ナニモノダ」
こいつ・・・喋るぞ・・・。
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