意外な結果

「健全なる魂は、健全なる精神と、健全なる肉体に宿る」


 これは、私の敬愛するゼロ様に言われた言葉だ。


 この言葉の示すように、強靭な肉体と、強靭な精神を作ることによって、魔力の容量が爆発的に上がるのだ。


 天恵などは関係ない。


 彼はその事実を身をもって証明してくれた。


 もちろんこれ以外にも数多くの言葉を頂いた。


 彼の発言には、必ず大いなる意味があるのだ。


 アインは考えていた。


「王都の事を頼むぞ」


 主様から言われた言葉だ。


 どういう意味なのか。


 何か大きなことが起こるのかもしれない。


 私は底知れぬ不安に包まれて、窓の外の空を見上げる。


 積乱雲のような巨大な雲の影から、月が美しく輝いている。


 何も起こるはずないか。


 そう思っていた。


 しかし、


「なに・・・、あれは・・・」


 突然雲の隙間から現れた謎の巨大な城。


 美しい月明かりに照らされているものの、その外見は不気味そのもの。


 気色の悪い寒けがアインを襲う。


「ナンバーズを召集しないと・・・」


 アインは状況を仲間に知らせるため、魔道具を手に取る。


「なんて伝えれば良いのかしら」


 見たところ、まだ何か城から出てきた訳ではない。


 それに、かなり速い速度で東に向かって移動しているようだ。


「念の為に集まれる人員だけ集めておきましょうか」


 ゼロ様に王都の事を頼まれたのだ。


 万全に備えておかないと。


*

 僕は今、絶賛迷子中だ。


 だって、天空の城広すぎるからね。


 東の国まで着くのに1日あるのだ。


 散策するのは今しかない。


 そうそう、東の国に着いたら、僕一人で行動する事にした。


 魔王君には魔王君の仕事があるのだ。


「魔王君、魔王って何する事が目的なの?」


 僕が彼に聞いた言葉。


 何をするにも、目的は大切だ。


「目的・・・ですか?そうですねぇ・・・。世界征服・・・とかですかね?」


 どうやら彼は世界征服がしたいらしい。


 なので、東の国に僕が着いた後はその辺の国を攻めて貰うことにした。


 少しだけだけどね。


 敵兵に力の差を見せ付けて戦意を喪失させれれば十分。


 目的は滅亡ではなく征服だからね。


 というわけで、僕は適当に歩き回る。


 今日は月が綺麗だなあ。


 いつもよりも綺麗に見える。


「大魔王様。ここにいらっしゃいましたか」


 僕が月を眺めていると、声を掛けてきたメイドがいた。


「うん。今日は月が綺麗だからね」


 本当はただ、迷っていただけなのだが。


 しかし、このメイド本当に強そうだ。


 魔王君もいい趣味してるね。


「そうですね。思えば、魔王様が私を拾ってくださった日も満月でした・・・」


 そういえば、彼らはどこで拾ってきたんだろうか。


「そうなんだ」


 話を聞くとどうやら、彼らは『名も無き大陸』という場所にいた魔物なんだそうだ。


 生きる事さえ大変な場所らしい。


 すごく、行ってみたい。


 そこで、魔王君に拾われて魔力を注ぎ込まれたらしい。


 そして生き残って進化する事が出来た者だけがこの城に住んでいるそうだ。


 魔王君も結構えげつないことするな。


 それにしても、何で全員メイド服なんだろうか。


 彼の趣味は良く分からない。


「そういえば、君名前なんて言うの?」


 彼女の出で立ちは聞いたが、名前はまだ知らなかった。


 というかこの城の住人の名前は誰も知らない。


「はい。私の名前は魔王城十二柱が一人、ホルスという名を頂きました」


 彼女が優雅に自己紹介してくる。


 なんだそのかっこいい名前は。


 ホルスって確か、なんかの神様の名前だったような気がする。


「そうか・・・」


 アイン達には申し訳ないことをしたな。


 彼女たちの名前は数字なのだ。


 もっとかっこいい名前をつけて、ナンバーズという呼び方も別の物の方が良かったかもしれない。


「その・・・、魔物なんだよな?翼とかあるの?」


 元魔物ということは、魔王君のように翼が生えててもおかしくない。


「はい。ございます」


 彼女は背中から大きな真っ黒い翼を広げた。


 どこに収納してたんだ。


「普段は、小さくしております。魔王様がそうするように指示されましたので」


 僕は焦りを感じていた。


 彼女たちが戦場で暴れる様子をイメージする。


 メイド服に身を包み、背中からは漆黒の翼が生えている十二人の戦女神。


 それに抗うダークリベリオンのアイン達。


 くそっ。


 完全敗北だ。


 実力は拮抗しているだろう。


 ただただ、消耗しあうだけの戦いになることは間違いない。


 しかし、


「空から舞い降りる十二人の悪魔たち・・・か」


 なんて、かっこいいんだ。


「それはどういう・・・」


 認めよう。僕は魔王君よりもセンスがない。


 たぶん、一生彼に届くことはないかもしれない。


 だから、今度アイン達に僕の新技の数々を見せつけてもっとスタイリッシュさに磨きをかけないとな。


 僕は夜空を見上げて、


「何でもないよ」


 夏休みが終わった後の事に思いを馳せるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る