勇者と剣王の攻防

 勇者と剣王。


 二人は敵を目の前にして、剣を構えていた。


 敵は一人。

 その体躯は鍛え上げられ、隙のない構えで、二人を見据えている。

 人のようで、人ではない何か。

 今にも押しつぶされそうな殺気と気迫。

 まるで、先ほどの化け物だ。

 サイズは小さいが、その内包する魔力は桁違い。


「まだ、練習中だけど使うしかないか」


 ヒロが呟き、右手に魔力を込める。


「あなた、魔法が使えるのね。最初から使いなさいよ」


 マリアが溜め息混じりに言う。

 ヒロの手の中には、蒼白い電撃が走っていた。


「まだ使いこなせないんだよね。加減を間違えたら剣王といえども痺れちゃうよ?」

「私を誰だと思っているの?あなたの魔法なんて簡単に避けられるわ。さっさと打ち込みなさい」


 二人は呼吸を合わせる。

 極限まで高まった集中力は、まるで別の世界に来たかのような感覚を二人に与える。

 景色の色が淡い色になり、時間の流れを遅くする。

 敵の足音、自身の呼吸と鼓動の脈打つ音が激しく聞こえ始める。


「よし、いくぞ!」


 ヒロの掛け声とともに、蒼白い電撃が地面を伝い、化け物へと向かう。

 電撃を追いかけるようにして、マリアも走る。


「ぐっ!」

「やあっ!」


 電撃で動きの一瞬止まった化け物を、マリアが切る。

 しかし、


「くっ!やはり効かないっ!」


 刃の潰してある剣では傷一つどころか、痣すら作れなかった。


「やっぱり、使うしかないわね」


 マリアはゼロに与えられた剣を拾う。

 かなりの業物のようだ。


「これは・・・魔剣?」


 魔剣。

 古代遺跡から出土する武器の一つ。


 その名の通り、大気中に存在する魔力を吸い上げ、切れ味と強度を増す、失われた技術で作られた武器だ。


「変な意地張ってないで最初から使えよ!」


 ヒロが悪態をつきながら電撃を放つ。


「うるさいわね!あなたはこの使えない剣でも使ってなさい!」


 マリアは刃の潰れた剣をヒロに投げつけ、化け物に切りかかる。


「っは!身を守る程度ならこれで十分だな!」


 ヒロは電撃をさらに放とうとする。が、


「危ないわね!当たったらどうすんのよ!」

「さっき避けれるって言ってたじゃねえか!」


 マリアが悪態を付き始めるので、仕方なく。


「合わせろ!剣王!」


 ヒロは敵に近付き、化け物の剣を刃を潰した剣で防ぎつつ、間近で電撃を放つ。

 すかさず離れる。


「やるわね!」


 マリアが懐に入り込み、下から切り上げる。

 化け物の胴体に、浅い傷が入る。

 その傷は、浅いものの、確実に化け物にダメージを与えていた。


 傷口から血が滴る。


「いける!」

「この調子でいくわよ!」


 二人はその後も、連携を重ねる。

 一進一退の攻防が続き、剣が欠け、血が舞う。

 化け物の血だけではない。

 制服に身を包んだ勇者も剣王もその身に血を纏って所々服が破れていた。


「こいつ、なかなかタフね!」

「このままだと魔力が持たない!」


 マリアもヒロも、肩で息をしている状態だ。


「くっ!」


 マリアの剣が弾かれ、蹴り飛ばされる。


「大丈夫か!?」


 ヒロが駆け寄って彼女を起こすが、


「しまっ!」


 化け物の剣が二人に当たろうとしていたとき、


「なにっ!?」


 突然赤黒い影が会場全体に広がる。

 影はそのまま化け物を拘束して持ち上げる。


「ゼロか!?」


 空中で化け物が無惨に握り潰された。

 そのまま地面に落下する。

 息絶えているようだ。


「なんて力だ・・・」


 圧倒的な力を前に、二人は呆然と立ち尽くす。

 そしてすぐに、ゼロは何処かへと飛び去っていった。

 それに続くように、辺りに散らばっていた黒服たちも飛び去っていく。

 残されたのは、マリアとヒロ、そして潰されて息絶えた化け物たちだけだった。


「離しなさい!」

「助けてやったのに随分ひどいな!」


 マリアはヒロを払いのけて立ち上がる。


「この剣、貰っていいのかしら」


 剣をまじまじと見ながら、マリアが呟く。


「僕が知るか。けど、まあいいんじゃない?」

「それにしても、何が起こっているのかさっぱりだわ」

「僕も分からない。でもゼロは、この学園の人間だよ。それだけは分かる」

「あんな人間離れした奴が人間なの?・・・どうしてそう思うの?」

「前に僕の前に現れたとき、この学園の木刀を持っていた」


 ヒロは背を向けて、空を見上げる。


「それ本当?どうもあなたは信じられないわ」


 マリアは疑うようにヒロを見る。


「別に信じなくてもいいさ、君に信頼されても嬉しくない」

「あっそう!でもまあ、今日の所は信じてあげるわ!」

「ありがとう」


 二人は手を交わす。


「君のおかげで、僕は初めて全力を出せた気がするよ」

「私もよ、けどもうこりごり。あんな思いはしたくない」

「そうだね。僕もそう思うよ」


 ヒロは手を離して続ける。


「帰ろうか。あとは学園の先生方がしてくれるだろうしね」


 ふと辺りを見渡すと、観客席にも来賓席にも誰も居なかった。


「そうね。早くシャワーを浴びたいわ」


 二人は会場を後にするのだった。

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