リダの野望

 休み時間。


 トイレから帰ってきた僕は廊下の掲示板に人だかりが出来ているのを見つけた。

 どうやら舞闘大会のトーナメント表が掲示されているようだ。


 僕はヒロに勝手に出場させられたことを思い出し、トーナメント表を遠目に見た。


 大会は五日間かけて最大八回戦まで行われる。

 五回戦までは、演習場で行われて、その後は大会当日に、すべて行われるらしい。


 端から名前を確認していくと、自分の名前を発見する。


 僕の一回戦の対戦相手の名前は、マリア・アルカディア。


 アルカディアとは、この国の名前だ。

 猿でも大物だと分かるくらいの大物。

 というか王女様だ。


 僕は動揺を隠しつつ、踵を返して教室に帰る。


 マリア・アルカディア。

 『剣王』という珍しい天恵を貰った一年生。この国の、王位継承権第一位の王女様。

 剣王とはその名の通り、剣の王様だ。

 普通の剣士とは違い、異次元の強さまで成長するらしい。

 容姿端麗才色兼備。

 勉強に関してもずっとトップクラスの成績を維持している。


 ちなみにこの国では男女関係なく国王になれるし、領主にもなれる。

 そんなわけで、僕は彼女が気に食わないのだ。

 だから僕は、彼女を舞踏大会で蹴散らし、その自信と鼻っ柱をへし折ってやろうと思う。


「リダも不幸だよな!あの王女様が初戦だなんて!」


 教室に帰ると、コザが笑顔で声をかけてくる。


「ほんとだよ。勝てる気がしないよ」


 事実。僕が普段授業で発揮している実力では勝てないだろう。


「この前、三年生との模擬演習で勝ったらしいぞ!すげえな!」

「けどね、コザ。僕は勝つよ!彼女に!」

「おっ!いいね!昨日までやる気なかったのに急にどうしたんだ?」


 どうもこうもない。

 対戦相手が彼女じゃなければ僕は適当に一回戦で負けて魔王登場のタイミングを図るつもりだったんだ。


「僕は彼女のような完璧な女の人が嫌いなんだよ。へし折りたくなるんだ」

「お、おう。ただ、俺に勝った時のような幸運は起こらないと思うぜ!なんせ鉄の剣だからな!」


 そう。大会は鉄製の剣で行われる。

 もちろん刃は潰してあるが、それでも当たれば大きな怪我をする可能性もある。


 だが!心配はいらない!

 僕は来たるべき日のために、ある作戦を練っているのだ!


「くくく・・・」


 笑いがこぼれる。


「なんか今日のリダ、怖いぞ?頭でも打ったのか?」


 コザが本気で僕を心配してくる。

 だが何も心配する必要なんてない。

 勝つのは僕なんだからな!


「とりあえずリダ、保健室いこ?相談なら乗ってやるから?なっ?」


 コザが僕の袖をつかんで無理やり保健室まで引っ張っていく。


「ふふふ・・・」


 僕は笑みを浮かべたまま、彼に引き摺られていくのだった。


*

「ああー、痛いよ!ドールたん!僕の体がボロボロだよぉぅ・・・」


 この、気色の悪い猫撫で声を上げて人形に話しかけているのは、オリエンテーションでゼロにボコられたブデー伯爵。

 人間サイズの真っ赤な長髪で、綺麗な顔立ちをしている人形にドールという名前をつけているようだ。


「それにしても、あのゼロとかいう男・・・。この私が手も足も出なかった。強過ぎだよぉぅ!」


 ふいに、部屋をノックする音が鳴る。

 ブデー伯爵は慌ててドールをタンスの中にしまい、服を整え姿勢を正して、


「入れ」

「失礼致します」


 メイドが入ってくる。

 いつもの寝室。いつもの綺麗に整理整頓された机の上。

 だがしかし、タンスから人形の足が飛び出ていた。


「な、何のようだ。私は忙しい。手短に」


 あくまでも冷静に、違和感のないように振る舞う。

 いつもと違うところはさっき動いたせいで鼻息がブヒブヒ鳴っているくらいで、おかしなところは無いはずだ。


「・・・っち。ブデー伯爵様、お手紙が届いております。ご確認ください」


 メイドが冷徹な声で、ブデー伯爵に手紙を渡す。


「では失礼致します」


 メイドが出て行き、ブデー伯爵はすぐに手紙を破り開ける。


「なんなんだ!このくそ忙しい時に!」


 そして、ブデー伯爵は手紙の内容に驚愕する事となる。


「くそっ!ダークリベリオンめ!どこまで私の邪魔をしてくれるつもりだ!」


 手紙を握り締め、ブデー伯爵はその肉体をブルブル震わせるのだった。


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