サバイバル訓練編

今度こそ

「作戦開始だ」


 僕は一人呟いた。

 大量の槍を抱えて、南の森へ飛びなから。

 学園の寮では皆眠っていることだろう。

 目的地までは、一時間弱でつく。


 僕の今までの作戦はすべて失敗している。

 いや、コザとの模擬演習だけは成功したか?

 まああんなのカウントには入らないだろう。

 今考えると、あまりにも安直で、ずさんな作戦だ。

 もしもコザがしっかり者だったら気付かれて終わっていた。

 馬鹿で阿呆のコザだから成功したのだ。


 だが!

 だが!今回の作戦は違う!


 さて、サバイバル訓練のポイントは、魔物を倒した数で決まる。

 つまり、当日に出会った魔物の数が多ければ多いほど、有利になるわけだ。

 はっきり言って、運ゲーだ。

 だったらあらかじめ、魔物を集めておけばいい。


 僕は、学園に入学する前は、魔物の研究を行っていた。

 僕は魔物の行動には人一倍詳しいのだ。

 魔物は魔力の多い場所に集まる。

 しかし、魔物は魔物を襲わない。


 ただ、魔物にはある特性がある。

 それは、魔物は、死ぬ直前に魔力を大気中に放出する。という図書館の本にも載っていない事実。

 ブラッドスーツの開発中にたまたま発見した。

 つまり、半殺しにしておけば、魔力を放出し続けるのだ。


 もちろん、時間が経てば弱まっていくが。


 この原理を利用して、僕は魔物を捕獲する罠を設置しておくことにした。

 罠は至って単純だ。

 まず、魔物を一匹生け捕りにして、スタート地点から離れた場所にある木の枝とかに吊しておく。

 次に、その木の半径10メートルの周囲を深さ5メートルほど掘り下げ、地面に鋭い槍を指しておく。

 生け捕りにした魔物に魔物が集まり、魔物が罠にはまって動けなくなる。


 これを当日に僕がすべてぶっ殺すわけだ。


 完璧だ!


*

「完璧だ・・・」


 罠の設置が終わった。

 目の前の木には、半分くらい生きている狼型の魔物が吊り下がっている。

 半殺しの狼は魔力をちゃんと放出している。

 サバイバル訓練まで、あと二週間くらいあるけど、このまま放置しとけば、当日この周辺は魔物だらけになっていることだろう。


 それと、チームは組まない事にした。

 三人組だと、報酬を分けなきゃいけないからね。

 僕の取り分が減る。


「くくく・・・」


 ようやく貧乏定食から抜け出せる。

 僕は寮に帰る。

 希望を胸に秘めて。


*

 天は二物を与えずと言うが、この世界ではそんな法則は存在しない。

 なんせ、天恵があるからな。

 この世界では、強さを得るものが、権力を得る。

 そして、権力を得た者が、金を得る。

 なんて理不尽な世界だ。


 だから僕は、既得権益を牛耳っている人達の秘密を世に知らしめ、その天井知らずの長っ鼻をへし折ってやろうと思う。


 というわけで、まずはこの学園の無秩序で歪みまくった既得権益の塊、学園長の地位を上空からはたき落とし、地上を這いつくばってもなお、落ち続けるような存在にして見せようと思う。

 何が言いたいかというと、学園長をゼロとして仕立て上げてから騎士団に突き出すのだ!


 前回の標的は、副学園長のサボ先生だったが、彼はダメだ。

 頭が切れるし、何より生徒たちからの信頼が厚い。

 過去の僕は下調べもせず、何も考えずに行動してしまったのだ。なんて愚か者なのだろうか。

 おまけにその失敗が魔王降臨イベントの失敗を招いたのだ。


 マイナススパイラル。

 負の連鎖だ。


 そして、今回は前回の反省を生かし、きちんと下調べをしているのだ!


 学園長。

 名前はサンジオ・ツフーノイ

 年齢は、68歳。

 身長体重は不明。だがぱっと見ではゼロと同じくらいのはずだ。

 禿げている。話が長い。


 そして、天恵は賢者。

 アインにも調べてもらったが、ディスパーダとのつながりは無い様で、職歴も普通。


 ただ、先生方からの信頼は厚い。

 そして、魔法が得意。古代魔法の研究とかしてるらしい。


 隙があるようで、全くない。

 というかぱっと見普通のおじいさんだ。

 僕は権力にしがみつく彼を地獄に叩き落すべく、考えに考えた。

 そして、ある作戦を思いつく!


 というわけで、僕は忍び込んだ。

 学園長室・・・ではなく、学園長の研究室へと。


 そして、とあるレポートを置いた。

 僕がこの学園に入学する前に書き上げた、魔物の強化実験のレポートだ。

 このレポートの中身はすごい。


 図書館においてある本にも書かれていないことが多分に含まれている。

 下手したら国家機密レベルになるんじゃなかろうか。

 もちろんそのまま置いたわけではない。

 いろいろとありもしないことを脚色してある。

 タイトルも変えてある。


 『魔王の力の人への宿らせ方~序~』だ。


 そして、なんと指名手配中のゼロもそんな感じの実験をしているらしい!

 意気揚々と、このレポートを世の中に公表した学園長は世間からこうささやかれるようになるのだ。


「お前がゼロなんじゃないか!」


 とね。


 その波に僕は乗っかって、学園長を騎士団へと突き出すのだ。


 僕は未来を楽しみにしつつ、寮に帰るのだった。

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