リフテン滅亡

残酷な描写があります。

苦手な人は飛ばしてください。

*


 これは前にも話したことがあるが、重要な事なので何度でもいうつもりだ。 


 僕は慎重な男である。


 慎重に作戦を練り、慎重に検証し、慎重に作戦を立て直してさらに検証に検証を重ねて最善の結果を導き出す男である。


 しかし、この僕の性格は時に失敗を生むこともあるのだ。


 練った作戦を見つめなおし、検証に検証を重ねてさらに作戦を立て直して、また検証している時には、すでに事は手遅れになっているのである。


 つまり、どういうことかというと、


「火をつけろ!」


 こういうことである。


 壁に吊り下げられている僕の足元の、乱雑に積み上げられた薪に火がくべられる。


 薄暗い霧に包まれた街の中で、僕の足元の火が少しずつ大きくなっていく。


 目の前には、僕達にヤジを飛ばし、石を投げつけてくる群衆の人々がいる。


 僕が何をしたっていうんだ。


 ああ。どうしてこんなことになったのだろうか。


「これじゃあ、もうどうしようもないじゃないか・・・」


 僕はため息交じりに呟く。


「ん?この期に及んで命乞いか?このテロリストめ!」


 目の前の衛兵が何か叫んでいる。


 よく見たら騎士さんじゃないか。


 まあ、どうでもいいことだが。


「なんだぁ?最期に言い残すことがあるなら聞いてやるぞ!ぎゃはははは!」


 瞬間。辺りを暗闇が支配する。


「えっ?」


 気が付くと、男の首から上が無くなっており、その前につるされていた男の姿も消えている。


「残念だよ。この街は消すことにしたんだ。なんせ、タイミングが合わなかったからさ」


 静かに響き渡る足音と共に、霧の中から漆黒が現れた。


 姿を現した男は、赤黒いコートに身を包み、袖口が剣の形に変わっている。


 そして背中からは、赤黒い大きな翼が生えていた。


「なっ!なんだ!?」


「せっかくだし、君たちには僕の新技の披露会に招待してあげよう」


 僕はブラッドスーツで作った翼の羽を剣の形に変えていく。


 一本ではない。何十いや、何百本かあるだろう。


 かなり緻密な魔力制御が必要になる技だが、それ相応の威力と演出がある。


「ふっ!」


 僕が手を振った方向に向かって、何百という剣が押し寄せる。


「や、やめ!」


「逃げろ!」


「助けて!」


 目の前に剣を構えていた衛兵と、僕達に石を投げつけていた群衆が阿鼻叫喚の嵐に見舞われ、僕の剣の大群に切り刻まれていく。


「人を呪わば穴二つ。ってね」


 他人に死んで欲しいとか、殺してやるとか、そんな気持ちを抱いただけで人は、簡単に呪い返されるのだよ。


「っひ!たっ!助けて!」


 おっと、取り逃がした兵士がいたらしい。


「君は僕がそんなことを言ったとしても助けてくれたかい?」


 彼らが僕に容赦しなかったように、僕も彼らには容赦してはいけないのだ。


 それが、マナーだよね。


 よく見ると、そいつは全身が切り刻まれて、片腕がちぎれて無くなっている。


「あー、そうか。誰か一人は生かしとかないといけないよね」


「え?どういう・・・」


「だって、観客がいないと披露会にならないじゃないか」


「くっ・・・。この、悪魔め!」


「君だけは生かしといてあげるよ。そのかわり、生きて帰れたらある噂を広めてほしいんだ」


「・・・」


「『魔王の怒りを買ってリフテンは滅びた』ってね」


 そう言って僕は彼を首トンで気絶させた。


「さて、残党狩りと行きますか!」


 僕は大量の剣の暴力で、この街の中にある建物という建物を全て潰して回った。


 もう、生きている人はほとんどいないだろう。


「あ、忘れてた」


 ふと、僕以外に吊るされていたテロリストたちに目を向ける。


 ほとんど焼け死んでしまっているようだった。


「た・・・すけ・・・」


 かすかに声が聞こえる。


 その方向に僕は向かう。


「やあ、生きてたんだね、アン」


 赤毛のアンがいた。


 薪が湿っていたのだろうか、足元の火が消えてしまっている。


 体に火は燃え移ってないが、体中痣だらけで弱々しく息をしている。


 このまま放置しておけば死んでしまうだろう。


「君はまだ、生きたい?」


 なぜ、こんなことを聞いたんだろうか。


 彼女は僕を見捨てようとしたというのに。


「い・・・き・・・たい・・・」


 ハッキリと聞こえた。


「じゃあ助けてあげるよ。その代わり、僕の旅についてきてもらうよ」


 よく考えてみれば、僕はこの国の地理を全く知らないのだ。


 別に彼女に同情したわけではない。


 僕は彼女の縄をほどき、魔力で全身の治療を施す。


「あ・・・りが・・・」


「礼なんていいよ。君にはまだしなければならないことがあるからね」


 僕がそう言うと、彼女は安心したように眠った。


「これで、良かったんだろうか」


 彼女を治療しながら呟く。


 でもまあ、これで良かったとは思う。


 ほとんどの住人がまともな人間らしい生活を送れていなかったのだ。


 きれいな服装、きれいな屋敷、きれいな食事をとれていたのは、衛兵や教会の関係者だけだったのだ。


 明らかな格差。明らかな区別。


 人々の努力や怠慢で起こった格差ならこうはならないだろう。


「よし、行くか」


 一通り治療の終えたアンを担ぎ上げ、僕は歩き始める。


 次は、とりあえず、右に行ってみよう!


 僕は右に向かって歩き始めた。


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