犬猿の仲
武闘大会当日。
僕は闘技場の観客席で一人反省会をしていた。
マリア王女を倒す計画が大失敗に終わったからだ。
剣以外持ち込んじゃいけないなんてちゃんと説明してくれないと分からないに決まっているじゃないか。
よって今回の失敗は先生方がルール説明を怠った事が原因だ。決して僕のせいじゃない。
そういえば、マリア王女との戦いの後、女子どもからは距離を置かれるようになったな・・・。
今までは女の子はみんな僕の事には無関心だった。
だから僕が教室で座っていても普通に隣や後ろで座っていたし、廊下を歩いているときも普通にすれ違うだけだった。
けど今は、明らかにみんなに避けられている。
物理的に。
今日の朝、教室の僕の机の周りだけ、やけに広かった。
僕は少しだけ、ほんの少しだけ悲しくなった。
男子どもは高嶺の花のマリア王女の意外な一面が知れて嬉しかったようで、逆に感謝してくる者までいた。
今は彼らだけが僕の心の支えだ。
「リダ。その、応援してて!俺勝つからさ」
僕がセンチな気分に浸っていると、ヒロが声をかけてくる。
予選をヒロは勝ち進み、この武闘大会の大勢の見ている場で、戦う。
対戦相手がだれかは知らないが、たぶん強敵が来るに違いない。
「うん。応援してるよ!頑張って!」
ヒロは僕の声を聞くと、笑顔で出場選手の待機室に向かった。
ちなみにマリア王女も予選を勝ち進んでいる。
なんせ剣王だ。
そこら辺の人とはもう大きく差が開いているのだろう。
そして、コザは二回戦で惜しくも負けた。
相手が上級生で、しかもかなり強い方だったらしい。
まあコザだから負けても仕方ない。
「さてと、どうするかねえ・・・」
僕は、この闘技場で、魔王として派手に登場するつもりだ。
タイミングは、まだ決めていない。
アインの用意してくれた魔王変装セットはすぐに着替えられるように鞄の中にしまってある。
闘技場全体を見渡す。
円形の闘技場。屋根はなく、この前壊されていた来賓席は元通りになっていた。
来賓席には、ブデー伯爵とその護衛らしき人達が10人ほどいた。
ブデー伯爵の怪我はもう治ったようだ。
そして、闘技場の真ん中の高い位置に、水晶のような球体が浮かんでおり、選手達の映像が大きく映し出されている。
あの水晶で遠くからでも戦いの状況を見えるようにしているのだろう。
どういう原理かは分からないが。
考え込んでいるうちに、大会が始まる。
学校長の挨拶に始まり、ブデー伯爵の挨拶、そのあともいろいろあった。
そんなこんなで一回戦。
初戦を飾るのはマリア王女のようだ。
そして、対戦相手は見たことも聞いたこともない上級生。
「始め!」
審判の合図とともに、マリア王女の姿がスクリーンから消える。
この学園のほとんどの生徒は、目で追うことは難しいであろう速度。
そして、
「試合終了!マリア・アルカディアの勝利!」
一瞬で終わった。それも一撃で。
気が付けば上級生が倒れていたのだ。
ただ、一つだけ気付いたことがある。
彼女の最初の一振りは、いつもの右斜め上からの振り下ろしではなく、相手の真下からの見事な切り上げになっていた。
その後も、試合は進んでいく。
ヒロも苦戦はしていたが、何とか勝利したようだ。
そして、待ちに待った準決勝。
ヒロと、マリア王女が対峙する。
「あなたが、勇者ね。よろしくね」
普通、この距離だと何を言っているかは聞こえないのだが、読唇術を極めた僕には、彼らが何を言っているのかわかるのだ。
マリア王女が吸い込まれそうな笑顔でヒロに話しかける。
「僕さ、勇者って呼ばれるの、嫌いなんだよね。剣王様」
ヒロがニコニコと言葉を返す。
「あら、奇遇ね。私もよ」
マリア王女の額に青筋が浮かぶ。
「よろしく、王女様」
ヒロの輝くような笑顔が崩れかかっている。
「その王女様っていうのも嫌い。あなたには分からないでしょうけど」
どうやら、この二人の相性は最悪の様だ。
普通、勇者と王女様ってすごく仲いいもんじゃなかったっけ?
「始め!」
試合が始まる。
両者とも動かない。
剣を構え、時が止まったかのように敵の動きを観察し、集中している。
「あら、来ないの?勇者様?」
マリアが見下すような笑顔で挑発する。
「さっき勇者って呼ばれるの嫌いって、言わなかったっけ?病院に行った方がいいよ?」
ヒロも笑顔を引きつらせながら、挑発する。
そして、
「言われなくてもかかっていくさ!」
声とともにヒロが消える。
マリアも見えなくなる。
聞こえるのは、剣と剣の激しくぶつかり合う音。
見えるのは剣と剣がぶつかって出る火花。
・・・ヒロの奴、急に強くなりすぎではなかろうか?
でも、まだまだだ。
まだまだ弱い。
あの程度は十騎士とか言ってた奴よりも弱い。
ブデー伯爵よりも、ナンバーズよりも、もちろん僕よりも、弱い。
彼には、もっと強くなってもらわないといけない。
僕は誰にも見られない場所に移動し、魔王変身セットに着替えた。
なかなかに禍々しい仮面だ。剣も無駄に装飾が凝っていてかっこいい。
僕は試合の状況を覗く。
そして、飛び出そうとしたとき、
「がああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫び声と共に、地面に小さなクレーターを作るほどの、巨大な化け物が、二人の間に降り立った。
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