次の街


「リダ様!見えてきました!あそこが聖都アッシュフォードです!」


 僕とアンは次の街に馬車で移動している。

 戦争が終わったからだ。


 北のノースガルド共和国が急に白旗を上げたらしい。

 どうやら謎の勢力によって軍が壊滅。

 これ以上戦争を続けるのが困難になったという。


 どうやら、空に浮かぶ巨大な城から魔王が舞い降りた。

 そういうわけの分からない使いが東の国のイーレシア帝国にやってきたらしい。


 そういうわけで軍は縮小。

 僕達は晴れて解雇となったわけだ。

 赤毛のアンは随分と軍に残って欲しいと懇願されていたようだが。

 もちろん僕は有無を言わせず解雇だ。

 給料は一月分。

 アンに比べるとかなり少ないが、まあそれなりに楽しめたので良しとしよう。


「聖都か。何があるんだ?」

「はい。大きな教会があります」

「・・・それだけか?」

「・・・はい」


 どうやら、アンも聖都には行ったことがないらしい。

 まあ、金はかなり貯まっているし、宿には困らないだろう。

 夏休みは残り一ヶ月ある。

 僕の夏休みはそれなりに充実したものになったと思う。

 思えば最初は何も考えずに王都を飛び出したのだ。

 それなりに素晴らしいものにはなった。


「楽しみだな。聖都」

「はい!楽しみですね」


 アンが微笑んでくる。

 僕とアンはまだ出会って一月も経っていないが、それなりに仲良くなった。

 たまには彼女の意見も聞いてみるのもいいかもしれない。


「何か、したいことある?」

「・・・したいこと、ですか?そうですねえ・・・」


 彼女が顎に手を当てて考え込む。


「『古代勇者の欠片』を探しましょう!」

「そうだね。そうしよう」


 そう言えばそうだった。

 僕らの旅の目的は、『古代勇者の欠片』を集めることだった。


 次の街には教会がある。

 もしかしたら、見つかるかもしれない。

 けど、これ集めてどうしようかな。

 王都に帰ったらアイン辺りに渡してみよう。


*

「わあ! ここが聖都アッシュフォード!綺麗ですね!」


 アンが喜んでいる。

 僕は今まで街の景観などどうでもいいと思っていたが、この街は綺麗だと思う。

 街に十字に大きな道が作られており、整然と家々が並んでいる。

 綺麗に区画された細い道。

 四つ角には噴水が置かれている。


「綺麗なもんだな」

「ですね!」


 街の中央には巨大な教会があるようだ。

 大きなステンドグラスに飾られた立派な建物。

 壊れるときはさぞ美しいことだろう。


「教会に行こう。まずは情報収集だ」

「はい!」


 僕らは歩き出す。


「しかし、思っていたよりも人が少ないな」

「そうですねえ。どこか元気のないような気もします」


 元気がない。

 確かにそうだ。

 しかも、たまに睨みつけるような視線も感じる。

 なにかあったのだろか。


 僕らが歩いている時。


「いたっ! 気をつけろこのガキ!」


 向かいから歩いてきていた大男と肩がぶつかる。

 ただ、僕はこの時の男の腕の動きを見逃さなかった。

 男は僕の懐に手を伸ばし、小さな袋をもぎり取る。


 そして、そのまま走り去ろうとするが、


「おい。待て下郎」


 アンが男の腕を掴み睨みつける。

 ミシミシと音が鳴る。

 すごい怪力だ。


「いててて! やめろ! 放せって!」


 男がわめいているところに、


「貴様ら! 何をしている!」


 衛兵が駆け寄ってきた。

 良かった。これで彼を殺さずに済む。

 そう思っていた。


「貴様らは旅の者だな? ついてこい! 話を聞く!」

「そうです! こいつらが急に!」


 男は衛兵の背後に隠れて何かを手に握らせる。

 僕は見逃さなかった。

 あれは間違いなく賄賂だ。

 どうやら、この街は根っこから腐っているようだ。


「なんだと! お前がぶつかって来たんだろうが!」


 アンが剣を抜こうとする。


「落ち着け。アン。ここは押さえろ」


 僕は慎重な男だ。

 ここでもみ合いになってもまた街が無駄に滅んでしまうだけだ。


「わ、わかりました・・・」


 アンがしゅんとして剣を納める。


「来い! 貴様らには罰を受けてもらう!」


 衛兵が僕らの腕に手錠をかける。

 罰も何も、悪いのは相手だ。

 そして、この衛兵も悪の塊だ。

 たぶん、悪いようにはならないだろう。


*

「判決を言い渡す! 旅の者、両名を死刑とする!」

「は?」


 とんだ茶番だった。

 衛兵についていった僕らは上司的な人に事実を話せばすぐに開放されると思っていた。

 だから僕は慎重に行動するために一旦何もしなかった。


 なのに連れていかれた場所は裁判所のような場所。

 カップラーメンすら作れないような短い時間での判決。


「死刑は明日だ! せいぜいそこの女とよろしくやってるんだな! ぎゃはははは!」


 僕とアンは荷物を没収されて牢屋に放り込まれた。

 むき出しの便所に、硬い床。

 ひどい臭いの充満する、狭い空間。


「っく! 殺せっ!」


 アンが衛兵に向かって叫ぶが、


「ああ! 明日大勢の目の前で殺してやるよお!」


 気味の悪い笑みを浮かべて兵士が言う。


「落ち着けアン。今はおとなしくしていた方がいい」

「・・・すいません。リダ様・・・」


 僕は慎重な男だ。

 たとえこんな状況であっても、出るべきタイミングは逃してはならない。


 いつでも出られるし、その気になれば街ごと吹き飛ばせばいいが、それでは興ざめだ。

 まったく面白くない。


「別に、出ようと思えばいつでも出られるじゃないか」

「・・・そうでした」


 今のアンなら、素手で鉄格子も壊せるんじゃなかろうか。

 ブラッドスーツを使えば簡単に出られる。


 だから、今は慎重になろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

外道が異世界転生した場合 香水 @ko-sui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ