悪と悪vs悪

「この街は、いつからこんな感じなんですか?」


 騎士さんについていきながら、僕は尋ねた。


 こんな感じというのは、この腐敗臭の漂う街の事だ。


 最初からこんなはずはあるまい。


「うーん。そうだなあ。俺がこの街に住み始めた時にはもうこんな感じだったなあ」


 なんてことだ。


「原因って、わかりますか?」


 すると騎士さんは驚いた顔をして、


「そりゃあ、分かりきってるだろ」


 どういうことだろうか。


「なあ、あんた本当に教会の人間なのか?あまりにも何も知らなすぎるぜ」


 ぎくりとした。


「な、なんのことですか?僕はこの街に来たばかりだから、わかりません・・・」


 ばれたらどうしよう。


 消そうかな。


「へえ、そうかい」


 騎士さんはにやりと笑う。


 気が付くと、路地裏の誰も通らないような場所に僕らは来ていた。


 こんなところに何があるんだろうか。


「あの・・・」


 僕が聞こうとしたとき、


「こいつは頂くぜ!」


 僕のコインの一枚だけ入った袋をもぎ取った。


「な!何をするんですか!」


 僕は叫ぶ。


「へへ、あんた、反逆の狼煙の小間使いだろ?」


 なぜバレた。


「こいつを返して欲しければ、アジトの場所まで案内するんだな!」


 別に返してほしいなんて微塵も思わないのだが、騎士さんはノリノリのようだ。


 僕も乗るしかないだろう。


「っく!汚いぞ!」


 渾身の演技。


「この街の人間は皆、貧乏人だからな。たかがこの程度の金でも命を懸けるバカが多いんだよなあ!」


「・・・わかった。案内すればいいんだな?」


 よく考えれば、別にあんな小さなテロリスト集団滅んじゃってもいいよね。


 僕をあんな牢獄みたいな部屋に泊めさせやがって!


 別に今ここでこの騎士さんを殺しちゃっても良いんだけど、タイミングがなあ。


 まだ超エキサイティンでスリリングなタイミングがこの後待っているに違いない。


「お?初めてだな。お前みたいに素直な奴は」


 まるで、今までも何人も同じような目にあわしてきたかのような発言だ。


「僕以外の人はどうしてたんですか?」


 テロリストのアジトでも、僕が初めてじゃないみたいなことを言っていた気がする。


「大体の奴はすぐに毒を飲んで死んじゃってたなあ」


 あの渡された錠剤か。


 あれどうしようかな。


 何かに使えそう。


「そうなんですね」


「それ以外の奴は全員抵抗したから拷問行きだな。いい声で鳴くんだよ」


 このゲス野郎が!


 でも待て。拷問イベントではあれが出来るじゃないか。


 くっころイベントが。


 まあ、僕は女騎士ではないし、捕まえる奴もオークとかそんな人外の存在ではないが、この際どうでもいいだろう。


「アジトはこっちです。ついてきてください」


 くっころイベントはまた今度にしよう。


 もうタイミングを逃してしまったしな。


「へへっ!これで俺も昇進出来るぜ!」


 騎士さんが嬉しそうに僕についてくる。


「ちゃんとお金は返してくださいね?」


 お金は大事だ。


 命よりも重いのだ。


「おう!俺は約束は守る男だぜ!」


 調子のいいことを言う。


 まるでコザみたいだ。


*

「着きましたよ。ここの中です」


 アジトに着いた。


 相変わらずひどい臭いだ。


「うわっ。きたねえな」


「僕もそう思います」


 じゃあこれで、と僕は立ち去ろうとする。


「いや待て。お前が先に入れ。罠かもしれねえしな」


 意外としっかり者の様だ。


 彼が一人で入って行ったらこっそり殺しちゃおうと思っていたのだが。


「わかりましたよ。その前にお金を返してください」


 お金は大事だ。


「ふんっ。金はここが本物だと確認できたらだ。さっさと入れ」


「・・・わかりましたよ」


 よく考えれば、たったあれっぽっちの金で人を死地に送り出す集団だ。


 このまま彼は生かしておこう。


 僕らはそのまま暗い通路を歩いて行く。


 そして、


「この扉の先にテロリストが潜伏しています。開けますね」


 ぎいぃっと鈍い音を立てながら扉が開く。


 その先には、


「おお!リダ!無事だったか!」


 赤毛のアンがいた。


 椅子から立ち上がり僕の方に歩いてくる。


「ん?後ろのそいつは誰だ?」


 そう言って僕の背後を覗き込む。


「っ!?失敗したのか!」


 アンは僕からすぐさま距離を取り剣を抜く。


「動くな!こいつがどうなってもいいのか!」


 騎士さんも剣を抜き、臨戦態勢に入る。


 どうやら人質は僕の様だ。


「ひぃ!逃がしてくれるって約束したじゃないですか!」


 そんな約束してない気がするが、今ここでは人質イベントが発生しているのだ。


 僕は人質として最善を尽くさなければならない。


「あぁん?そんな約束は知らねえなあ!もうすでにこの場所には衛兵を呼んでいる!おとなしく投稿するんだなっ!」


 僕はそんな騎士さんを見て、まるで悪役みたいだ。と思っていた。


 そして、僕の姿を見てアンは衝撃の一言を放った。


「そんな男さっさと殺しな!まったく・・・クソの役にも立たないんだから・・・!」


 ひどい。


 少なくともクソよりは役に立つぞ。


「そんな・・・ひどい・・・!約束してくれたじゃないか!僕らはズッ友だって!」


「ズッ友・・・?」


 おっと、感極まって言葉選びを間違えてしまった。


「っふん・・・。観念するんだな」


 騎士さんがそういうと、扉から次々に衛兵達が乗り込んでくる。


「こいつらは全員公開処刑で火あぶりの刑だ!殺さないようにな!ひゃははははは!」


 くそっ。僕はまた、出るタイミングを逃した気がする。


 でもこのテロリスト共もみんな本性を現してくれたし、結果オーライかな。


 これで心置きなく皆殺しに出来る。


 僕は両手両足を縛られ、担ぎ上げられて運ばれながら、そう思っていた。


 と、言うわけで冒頭の状況なわけだ。


 そして、この日、リフテンという街は地図から姿を消すことになる・・・。

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