ストーカー

 私は今、とある人を待っている。


 リダ・ウラノス。


 彼と模擬演習で剣を交えるようになって、私はずっと気になっていた。

 彼の強さの秘密が。


 私はディスパーダという組織に属しているが、その組織の中でも私は、非凡な強さを誇っていた。

 その非凡な強さを組織に見込まれて、私は学園という兵士生産工場に毎日通っているのだ。


 ちなみに私は学園では『レイ』と呼ばれている。

 そして、今日の私はいつもよりも早起きし、男子寮の出口を見張る。


 リダ・ウラノスを尾行するためだ。

 あれほど強いのだ。早朝から鍛錬しているのだろう。

 そう、思っていた。

 しかし、出てきたのは勇者のヒロ・カイノセと、魔剣士のコザ・モブリットの二人。


 彼らは学園始まって以来の天才だ。

 将来は、組織の上層部へと推薦するつもりだ。

 彼らは、才能だけでなく努力も怠らない性格らしい。


 私はその後も待った。

 リダ・ウラノスが出てくるのを。

 気が付けば、授業開始まであと少しだ。


 出てきた!リダ・ウラノスが!

 制服と髪は乱れ、口には朝食のパンをくわえている。

 バタバタと慌てているその様子は、まるで遅刻ギリギリで学園へと向かう生徒の様だった。

 あれが強さの秘密か・・・?


 そう思っていると、隣の木の陰から気配を感じた。

 私はおそるおそる見に行ってみる。


 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 王女様がいた。

 目を見開き一点を見つめている。

 私は何も見なかったことにして、授業に走って向かった。


*

 昼休みだ。

 私はいつも職員専用の食堂で食事をとるのだが、今日は別の場所に行くことにした。

 学生の食堂だ。

 教師でもたまに行く人はいるからおかしいことは何もない。


 どうやら、ウラノス君と勇者と魔剣士が仲がいいらしい。

 いつも同じ場所で食事をとっているということは、すでにリサーチ済みだ。

 私は座る。彼らの真後ろへと。

 なぜか彼らの周りには人がいなかったのでありがたく場所を頂いたのだ。

 私は彼らの会話に耳を傾ける。


「リダ!今日の鍛錬どうする?」


 魔剣士のコザ君の発言。

 鍛錬。彼らは一緒に鍛錬をしているのだろうか。


「いつものでいいんじゃない?」


 リダ君が答える。

 彼らはいつも一緒に鍛錬しているようだ。


「でもそろそろ本格的に上級生とも渡り合えるように魔力の鍛錬もしたいよね」


 勇者のヒロ君だ。

 勇者と魔剣士は魔力が使えるだろうが、司書が魔力を使いこなすという話は聞いたことがない。

 リダ君は、魔力が使えるのだろうか。


「うん。そうだねぇ」


 ・・・!!

 僕は驚いた。

 彼は魔力が使えるようだ。

 いや、正確にはこれから使えるようになるということだろうか。

 魔力を使わずに私の剣を見切るのは学生では絶対に不可能だ。

 きっと、使えると言ってもまだ上手くは使いこなせないといったところだろう。


「じゃ、じゃあまた放課後ね・・・」


 リダ君が席を立つ。

 彼らは放課後に鍛錬をしているのだろう。

 早速、今日見に行ってみるとしよう。


 ふと、隣を見る。

 またしても王女様がいた。

 何か、もじもじしている。

 トイレでも我慢しているのだろうか。


 まあいい。私は食堂を後にして、リダ君の尾行を続けるのだった。


*

 放課後。


 私は彼らの鍛錬を見るために男子寮の裏庭に来ていた。

 木の陰に隠れて、彼らが来るのを待つ。


 しばらく待っていると、来た。

 勇者と魔剣士だ。

 リダ君はまだ来ていないようだ。


 彼らは黙々と剣を交える。

 しんと静まり返った空気の中にどこか息苦しさを感じる。

 彼らの強さの秘密は、このひたむきな鍛錬への真剣さなのだろう。


 笑ってはいけない空気感。

 そんな空気をぶち壊すものが現れた。


「かかってきなさい!二人とも!」


 マリア王女だ。

 彼女も強い。

 武闘大会が中止になっていなければ、上級生を差し置いて優勝していたかもしれない程に。

 彼女が現れて、二人の空気ががらりと変わった。


 まるで、彼女を敵視しているような。

 一見、彼女が現れたことによって、空気が和んだかのように見えるが、私には分かる。

 勇者と魔剣士は、マリア王女を絶対に倒さなければならない目標として敵対視しているのだ。


 彼ら二人の闘争心は、かつてないほどに膨れ上がっているに違いない。

 私がそう思っている時、


 空から闇が舞い降りた。


「私は魔王。世界の頂点に君臨するものだ」


 どこかの馬鹿がふざけているのかと思った。


 しかし、この魔王の体の周りを渦巻いている黒い魔力は間違いなく強者のそれだ。

 人は圧倒的な力を前にすると、思考がおぼつかなるという。

 事実。王女様は魔王を見つめて、動けないでいるようだ。


 私はこれでも教師だ。

 長いことこの感覚を忘れていた。

 彼らを・・・守らなくてはならない。


「魔王様!矛をお納めください!」


 私は震える膝を押さえつけ、彼らの前に出た。


「どうか!どうかお慈悲を!我々はしがない学生です!」


 私は魔王を直視する。

 辺りを渦巻く黒い魔力がより一層激しくなる。

 殺されるかもしれない。

 そう思った時。


「ふん・・・。せいぜい足掻くことだな。どうせ無駄だろうが・・・」


 そう言って魔王は飛び去って行った。


*

 あの後、私は彼らの前からそそくさと逃げた。

 私がいたら、彼らの邪魔になってしまう。

 それにしても・・・。


「魔王復活か・・・」


 私は呟く。

 このことは、組織に報告しなければならない。

 もしかしたら、あらぬ噂が広がり、大混乱を生むかもしれない。


(ふん・・・。せいぜい足掻くことだな。どうせ無駄だろうが・・・)


 魔王の言った言葉が頭の中で反芻する。

 どういうことだろうか。


 きっと、何か大いなる意味を持っているに違いない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る