洗脳?調教?訓練?
「わかったか?この世界は、偽りの神によって支配されているんだ」
リフテンからアンを担いで逃げ去った僕は彼女を洗脳・・・、いや、彼女に教えを説いていた。
もう既に夜中だ。月が出てしまっている。
野宿をするため水場の近くに寝床を作り、焚火を見つめながら彼女と話している。
話の内容は、かつてアインにしたような話。
「うん。わかったわ!」
まあ、別に彼女が理解してようがしてまいが、結局どうでもいい気がする。
ただ、これから旅を共にするにあたって何か目的が必要だっただけだ。
「だから僕はね、この鉄片。君らの呼び方では『古代勇者の欠片』だったかな。これを集める旅をしているんだ」
彼女は真剣に話を聞いてくれる。
「そういうことね。だから、『古代勇者の欠片』は高く売れるのね」
「高く売れるの?」
「ええ、教会の関係者が法外な金額を払ってくれるらしいわ。だから私達も集めていたの」
「そうか・・・。まじか・・・」
どうしよう。次の街で売ってみようかな。
「そういえば、君の天恵は何?」
ふと思った。
外国とは言え、天恵は全員貰えるものだろうと。
「天恵?なにそれ?」
きょとんとしている。
「貰ってないのか?」
「貰う?どういうこと?」
どうやら、彼女は天恵というものを貰っていないようだった。
彼女だけではない。リフテンにいた住民は誰もそんな儀式はないらしい。
「そうか。まあ、関係ないか。ところで、魔力は使える?」
彼女にも少しは強くなってもらわなければならない。
「・・・魔力は使えないわ。誰も教えてくれなかったもの」
「魔力が使えないのか?・・・困ったな」
魔力が使えなければ、彼女のブラッドスーツが作れない。
「まあいいや。じゃあ今から教えるから」
「え?教えてくれるの?」
まあ、たぶん大丈夫だろう。
誰だって頑張ればブラッドスーツを使いこなせるし、強くなれるはずだ。
「教えてあげるよ。ちょっとキツいかもしれないけど、頑張ってね」
「・・・う、うん」
少し不安そうだが関係ない。
これはナンバーズの誰もが通った道だ。
*
リダに助けられてどれくらい経っただろうか。
一週間は経ったはずだ。
彼との訓練は、思い出したくもないほど過酷な物だった。
なんというか、見えるのだ。人間の死ぬ瞬間というものが。何度も。
水中にどれだけ潜り続けられるか、どれだけの高さから飛び降りられるか、など。
死にかける度に、彼は無理やり生き返らせて来る。
骨が折れたら魔力で強制的に治して、呼吸が止まったら魔力で強制的に肺を動かし、心臓が止まっても無理やり動かす。
何度も死にかけた。いや、実際に何度も死んだ。
それでも私を何度も助けてくれた。
リダ様には、本当に感謝しか感じない。
「そろそろ大丈夫かな」
彼がそう言った時、私の訓練は終わった。
いつの間にか、魔力も自在に操ることが出来るようになっていた。
死ぬことに対する恐怖心も、無くなった。
「はい。リダ様」
彼はそう言って、容器に入った何かの赤い液体を私に渡してきた。
「これに魔力を流して」
「はい」
私は液体に魔力を流し込む。
「もっと。もっとだ」
「はい・・・!」
少しきついが、さらに魔力を流し込む。
「よし、もういいぞ」
気が付けば、その液体は固体になっていた。
「魔力を流してみろ」
「はい」
魔力を流すと、固体から液体に変わり、自由自在に動かすことが出来る。
出力をさらに上げると、また固まる。
すごく硬そうだ。
「これは、君専用のブラッドスーツだ」
「ブラッドスーツ?」
なんだろう。
「これはね、魔力を流せば自由自在に形が変わるんだ。服にしても良し、剣にしても良し、翼にしても良しの優れものだ」
「・・・すごい」
こんなものがあるなんて。
「これを使って、君にはまずして欲しいことがあるんだよね」
「はい・・・。なんでもおっしゃってください!」
「君がこの前言っていた、ここから一番近くにある街、シンシアにある教会の秘密を探って欲しいんだ」
教会の秘密。それはもうあれしかない。
「『古代勇者の欠片』があるかどうかの捜索ですね」
「ん?あ、ああ。そうだったな。そうだ。探してきて欲しい」
どこか歯切れが悪いような気がする。
「このブラッドスーツがあれば・・・。見つけて見せます!」
彼の期待に応えなければ。
あれほど私の命を助けてくれたのだから。
「う、うん。頼んだよ。今日のところは寝よう。明日の朝に次の街に出発しよう」
*
アンの調教・・・、いや、訓練が終わった。
僕の思い通り、しっかりと成長してくれたようだ。
たった一週間でブラッドスーツを作れたのは意外だった。
とは言え、彼女にはまだ経験が足りない。
そこら辺の盗賊とか、兵士とかいればいいのだが、どうもこの辺りにはいないらしい。
なので、シンシアという街の教会の兵士辺りをサクッと殺ってもらおうと思う。
僕の経験上、教会を襲撃するとほぼ100%の確率でよくわからない敵と出会うのだ。
きっと、次の街の教会でもいるに違いない。
「あれがシンシア?」
「はい、そうです」
ちなみに今は徒歩で移動中。
アンはまだ空を飛べないからね。
たまにはゆっくり歩くのも良いだろう。
「楽しみだな」
「はい!そうですね!」
彼女は気持ちのいい笑顔を返してくれる。
次の街は、どんな場所だろうか。
面白いイベントでも起こればいいのだが。
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