滅びた街

「リダ様、これが『古代勇者の欠片』です。どうぞお納めください」


「なん・・・だと・・・」


 僕は驚愕していた。


 アンの有能さに。


 彼女が手に持っているその破片は、確かに魔力を帯びており魔武器の一種だということがわかる。


 僕は昨日、シンシアという街に入り宿屋に泊まり、夜の間に彼女に教会の潜入を頼んでいたのだ。


 まさかこうもあっさりと行くとは思ってもいなかった。


「ありがとう。報酬なんだが・・・」


 金がない。


 彼女にはそれなりの金を渡したいのだが、宿代でかなり使ってしまった。


「リダ様、この街には『ギルド』という場所があります。そこで依頼をこなせばある程度まとまったお金が頂けるそうですよ?」


 彼女が僕の表情を察してか、提案をしてくる。


「ギルドだと・・・?」


 それはもしかしてあれなんじゃないか?


 例えば新人いびりと称して先輩たちから暴力を受けたりするイベントが起こったりするのでは。


「はい。このギルドで生計を立てている者は『冒険者』と呼ばれ、ランクによってはかなりの財産を築くものもいるそうです」


「行こう。ギルドに」


 僕は即断即決した。


 きっと、まだ見ぬ世界の幕開けに違いない。


 すぐさま僕が頂点に立ってやろう。


*

「着きました。ここがギルドです」


 目の前には僕のイメージ通りのギルドがあった。


 酒場のような入り口に、荒くれもののような格好をしたもの達が出入りをしている。


「うむ・・・」


 僕はワクワクしながら中に入る。


「あそこが受付の様ですね」


「うむ・・・」


 中もイメージ通りだ。


 バーのような形の受付に、掲示板に乱雑に張られた紙。


「私が話を聞いてきますね」


 アンが受付に向かう。


 それにしても、見た目は完全に思っていた通りだが、どこか雰囲気が暗いような気がする。


 真昼間から酒を呑んでいる人はいるものの、それでも皆ちびちびと飲んでいるみたいだ。


 まったくもって面白くない。


「リダ様、受付が終わりました。どうやら簡単な検査があるようです」


「検査?どんなの?」


「剣士や魔法使いといった、職業のようなものの適性を見てくれるそうです」


 ああ、天恵の事ね。


 まあ、僕は司書のはずだ。


「わかった」


 僕は彼女についていく。


「こちらの水晶玉に手をかざしてください」


 受付のお姉さんに言われる。


「うむ」


 僕は手をかざす。


 水晶玉は強く光り出し、虹色に輝く。


 眩しい。そう思っているとすぐに光は止んだ。


「こちらがリダ様のギルドカードです」


 水晶玉の前に置いてあったカードに文字が現れる。


 ランク:E、職業:** と書いてある。


「職業のところが読めないんだけど」


「え?そんなはずは・・・」


 受付のお姉さんが驚いている。


「ああ・・・。申し訳ありませんが冒険者は諦めた方が・・・」


 話を聞くと、僕はたまにいる適正のない人らしい。


 適性が無いと、ギルド内でも不当な扱いを受けたり、死亡率が高いため依頼を受けづらくなるらしい。


 僕の天恵は司書のはずなんだが。


「大丈夫だ」


 どちらにしても、金を稼がないといけない。


「私だったら高い報酬の依頼も受けられますよ!」


 彼女が誇らしげに胸を張る。


「どんな適正だったんだ?」


「はい!私は勇者です!」


 アンが僕にギルドカードを見せてくる。


 勇者。学園のヒロと同じだ。


 だから、飲み込みがやけに早かったのか。


「そうか。よかったな」


「早速、依頼を受けてきます!」


 彼女は掲示板の方に走っていく。


 その姿をみて受付のお姉さんは僕に声をかけてくる。


「あの、大丈夫なんですか?勇者の方と一緒に依頼をすると、適正なしの方は死んでしまうかもしれません」


「大丈夫だと言っている」


 ほんの少しだけだ。


 ほんの少しだけ魔力を開放し、僕の周りを漂わせ、彼女を睨みつける。


「っひ!か!かしこまりました!」


 おっと、すこしビビらせすぎたかな。


 周りを見渡すと、皆僕の事を見ている。


「リダ様!この依頼なんか楽でいいですよー!」


 アンが僕に掲示板に貼ってあった紙を持って走ってくる。


 紙には、『リフテンの調査依頼』と書いてある。


 リフテンとは、僕が滅亡させた街の名前だ。


「確かに楽そうだな」


 僕の声を聞いて、集中していた視線が離れる。


 まあいい。


「これを受けたいのだが」


 受付のお姉さんに渡すと、


「あ、あのこれですね・・・」


 お姉さんは冷や汗をかきながら話し始める。


 どうやら、一週間ほど前にリフテンが突然壊滅したらしい。


 建物も、人も全てバラバラなんだそうだ。


 辛うじて生き残った兵士によると、『魔王が蘇った』と声を震わせながら語ったという。


 僕の伝言ゲームは若干失敗しているようだった。


 僕が生き残りの兵士に伝えた言葉は、『魔王の怒りを買ってリフテンは滅びた』である。


 まあいい。


 そんなわけで、誰も依頼に手を付けようとはしなかったし、そのおかげで依頼料もかなり上がっているとの事だった。


「これは早速行くとしよう」


「そうですね!」


 次の目的地は、滅びた街リフテンだ。

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