謎のドラゴン

「何が起こったんだろうか・・・」


「わかりません・・・」


 僕が壊滅させた街、リフテンは見るも無残な状況だった。


 僕とアンは今、少し離れた場所からリフテンを観察している。


 溢れかえる魔物に、食い荒らされた人々。そして見る影もない建物。


「魔物が大量発生してしまっているようですね」


「そうだな・・・」


 魔物がおびただしい数はびこっている。


 こんな光景は想像もしなかった。


「なるほどな・・・」


「原因がわかるのですか?」


「おそらくだが、死んだ人間の魔力に魔物が集まったのだろう」


 たぶんそうだろう。


 そうとしか思えない。


「ドラゴンがいるみたいです」


 ドラゴン。


 それなりに強い魔物らしい。僕も初めて見る。


 古来よりその生態や、発生原因など、全てが謎に包まれた魔物。


 いや、魔物かどうかも分からない。


 もし魔物だとしても、こんな場所にいるはずがない。


「進化だろうな」


「え?進化?」


 アンがきょとんとした顔で僕を見る。


 仮にドラゴンが魔物だとして、ここにそんな強力な魔物がいるとしたら、魔物の進化としか考えられない。


 魔王君は魔物の集まる場所で進化した。


 つまり、ここでも同じ現象が起こっていてもおかしくはない。


「ああ。ただ、まだ魔物がこれだけ残っているということは、まだ完全に進化が終わったわけではないのだろう」


「そうなんですね・・・」


 アンは良く分からないようだった。


 別に理解などしなくてもいい。


 今、一番大切なのは金だ。


「ふん・・・。とにかくさっさと調査を終わらせるぞ」


「はい!頑張ります!」


 僕らは歩き出す。


 魔物の群れへと。


「結構うじゃうじゃいるな」


 魔物の群れは思ったよりもかなり数が多かった。


「見ていてください!リダ様!」


 彼女が叫ぶと、黒い剣が何本も宙を舞い始める。


 恐らく、ブラッドスーツで剣を作り出したのだろう。


 その剣は空を舞い、彼女の剣と共に魔物を次々と切り裂いていく。


 彼女が魔物の足を刈り取り、空から飛来した剣が魔物の心臓を刺す。


 かと思ったら、空中の剣が魔物の足を切り裂き、彼女が心臓を刺す。


 そして魔物の攻撃が迫っている時は、宙に浮かんだの剣が防ぎ、反撃する。


 まるで、踊っているかのような美しい剣の連続。


「なるほどな・・・」


 僕は敗北感に包まれていた。


 彼女は僕に無いものを数多く備えている。


 特に美的センスについて。


「リダ様!どうですか?私の新技、ソードガーディアンは!」


「くっ!」


 完全に負けた。


 名前まで付けているとは。


 今度僕も真似してみよう。


「ま、まあまあだな・・・」


 僕は曖昧な評価しかできない。


「ありがとうございます!」


「それよりも、問題はあのドラゴンだな」


 問題のドラゴン。


 魔王君と一緒で、喋ったりするのだろうか。


 仮に喋ったとしても今回ばかりは倒さなければいけない。


 さすがにドラゴンは仲間には出来ない。


「そうですね・・・。勝てる・・・でしょうか・・・」


 今のアンなら勝てると思う。


 けど、アンにばかり良いところを見せるわけにはいけない。


「いや、ドラゴンは僕に任せて。アンはその辺の雑魚でも狩ってて」


 ドラゴンは僕が倒そう。


「わかりました」


 アンは素直で嬉しいよ。


「行こうか。ドラゴンの場所へ」


 敵は一体。


 バラバラの瓦礫の山の上に立っており、非常に目立つ。


「そうですね。あんな場所に居られたら、景色が汚れますもの」


 アンが笑顔で応えてくれる。


 確かに景色が汚れるとは思う。


 というわけで、今僕の目の前にドラゴンがいる。


「グルルルル・・・」


 涎を垂らしながらこちらを見つめている。


「アン、下がって。危ないよ」


「はい。リダ様」


 アンが半歩下がる。


 その瞬間、


「ガアアアア!!」


 雄たけびと共にドラゴンが襲い掛かってくる。


 その鋭い爪は、瓦礫を吹き飛ばし、真っ二つに切り裂く。


 しかし、


「残念だったな」


 本当に残念だ。


 動きが単調で。


 僕ならば簡単に読めてしまう。


「まあいい、新技の実験台には丁度いい」


 僕は爪を避けつつ、ブラッドスーツに魔力を通す。


 そして、空中に散らしてそれぞれを槍の形に変えていく。


「君では役不足かもしれないけれど、しょうがないか」


 数えきれないほどの槍がドラゴンを襲う。


「流石です。リダ様」


 ドラゴンは一瞬で息絶えてしまった。


 これでは実験にもならないじゃないか。


 そう思っていたら、


「ありがとう。ん?」


 ドラゴンの死体の跡から、何かが出てくる。


「これは・・・・」


 なんだろう。指輪だ。


 魔道具であるということだけはわかる。


「指輪・・・ですね・・・」


「アンにあげるよ」


 僕はもう王女様から貰った指輪をつけてるしな。


「え!?ありがとうございます!」


 アンは少し照れながらも、嬉しそうに指輪をつける。


「さて、本格的に調査しようか」


「はい!」


 ギルドからの依頼内容では、リフテンの生存者の確認と、可能であれば原因解明。


 原因なんて魔王が降臨したということで終わってるよね。


 生存者はいないだろう。


 僕はちゃんと皆殺しにしたはずだ。


「リダ様、教会の地下からこんなものが・・・」


「ん?」


 彼女が握っていたものは・・・。

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