夏休みの予定

「なあリダ、結局サバイバル訓練の時、何してたんだ?」


 コザが話しかけてくる。


 考えれば、僕はいったい何をしていたんだろうか。


 いろいろとしていたようで、結局は何もしていなかった気がする。


「ずっと隠れてたよ。魔物もいなかったし」


 隠れていたことにしよう。


「すごいね。リダ。もしあの黒い鎧の魔物に遭遇しなかったなんて」


 ヒロだ。


 黒い鎧の魔物とは、たぶん黒騎士君の事だろう。


 コザとヒロ、そしてマリア王女はこの学年で唯一、黒騎士君に遭遇して強制送還を食らわなかったメンバーだ。


 なんか、黒騎士君かわいそうだな。


 まるで、ゲームに出てくる死神みたいだ。


 強制的にパーティを全滅へと追いやるヤバい奴。


 話を聞いていると、そうとしか思えなくなってくる。


「どんな奴だったんだ?その、鎧の魔物って」


 僕は聞く。


 よく考えれば、黒騎士君が森で何してたか知らないんだよね。


「すごかったんだぜ!あの魔力!たぶんゼロよりも強い!」


 コザが興奮気味に話し出す。


 ゼロよりも強いだと?


 たしかに、魔力の量だけで見れば、黒騎士君の方が強いだろう。


 ただ、その扱いについては僕の方が圧倒的に上だ。


「でも、戦ってみないと分からないんじゃないかな」


 僕はむっとして、ぼそりと言う。


「確かにそうだね。ゼロの本当の強さは、まだ誰も見たことがないからね」


 さすがヒロだ。よくわかっているじゃないか。


「ゼロは鎧の魔物よりも強いわよ!」


 急に話に入って来る者がいた。


 マリア王女だ。


「そうなの?でも、どうして?」


「まだ、誰にも話していない事なんだけどね、あの鎧の魔物を操っていたのは、ゼロなのよ」


 な、なんだってー!


 確かに僕は指示は出したが、操っていたわけではない。


 生徒を襲えなんて、僕は言っていない。


 あらぬ誤解を招くようなことを言うな王女。


「な、なんだってー!」


 一拍遅れて、コザが叫ぶ。


「うるさいわね。静かにして」


 マリア王女がばさりと切る。


「そして、ゼロが持っていた指輪よ。説明してくれる?リダ君?」


 王女の手の中には、僕が森に入る前に彼女に貰った指輪が握られている。


 あ、これヤバい奴だ。


 恐らく、僕がゼロなんじゃないかと疑われている。


 ばれるのはまずい。


 僕はテロリストなんかじゃない。


 懸賞金は僕の物だ!


 僕は頭をフル回転させる。


 何とかして言い訳をでっちあげなければ!


「じ、実はね・・・初日にゼロに襲われたんだ・・・」


「え!?大丈夫だったの!?」


「う、うん。それでね、金目の物を出せば助けてやるって、それで・・・僕は・・・」


 ゼロの悪評がさらに広がってしまうが、この際仕方がない。


「それで、指輪を?」


「うん・・・。ごめんね、マリアさん・・・」


 僕の渾身の悲壮な仕草。


「いえ・・・いいえ。いいのよ・・・リダ君。私にとって・・・あなたの命の方がずっと大事なんだから・・・」


 そう言って王女は、俯く僕の頭に手を回す。


 彼女の鼓動の音が激しく聞こえる。


 なんて、慈悲深い女性なのだろうか。


「指輪は、あなたの物よ」


 そう言って、マリアが僕の手に指輪をそっと置く。


 その指輪は、なぜか不思議なくらい、重みを感じた。


「じゃ、じゃあ私はこれでね!」


 そのまま王女は走って教室から出て行った。


「リダ!森でゼロに会ったのか!?」


「う、うん」


 コザはいちいち声がでかいなあ。


「鎧の騎士も一緒だったってことか!?」


「いや、僕があった時は、いなかったかな」


「なんだ。いなかったのかー・・・」


「たぶん、僕と会った後に、彼らは遭遇したんだと思うよ」


「ゼロの配下に、あんな化け物が加わるとか・・・。どっちも化け物なのに・・・」


 そういえば、黒騎士君は天空の城に置いてきた。


 結構荒れてたからね。掃除とかしてもらおうと思って。


 だから、ゼロと黒騎士君が一緒に登場することはないと思う。


 彼らには申し訳ないが、そういうかっこいい設定は夢物語だ。


「もし・・・、ゼロと鎧の魔物が王都に突然現れたらどうなると思う?」


 僕は聞く。


 もしかしたら可能かもしれないのだ。


 天空の城の最深部には、ゲームとかで出てくる船の操縦席みたいな場所があったのだ。


 上空から突如として現れる魔王とその配下。


 かっこよすぎないか?


「そうなったら、王都は大混乱になるだろうね。想像もしたくないよ」


 ヒロが苦笑いをしながら答える。


 確かにそうだ。


 街中の上空に突然空に浮かぶ島が現れたら混乱どころではない。


 けど、楽しそうだ。


 まだ、天空の城はそれほど動いていないだろうし、今度行って、操縦できるか試してみよう。


「そういえば、二人は夏休み、どうするの?」


 話題を変えようと、夏休みの事を聞く。


 夏休みは七月と八月の二か月間。


 かなり長いが、この学園には貴族しか通っていないので、休みは長い方がいいのだろう。


「俺は実家に帰って鍛錬だ!」


「僕も帰って鍛錬をするつもりだよ」


 二人とも実家に帰るらしい。


 僕も帰らないといけないのだろうか。


 まあいいか。別に帰らなくても。


 とりあえず僕は外国を見てみたい。


 この国に引きこもっておくのは安全だが、あまり面白くない。


 どうせなら、天空の城で世界一周旅行とかしてみようかな。


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