すれ違い

 いよいよ待ちに待った学園に通う日がやって来た。

 家の裏山に住んでいたアインは一足先に王都に向かったらしい。


「リダ!いよいよ学園だな!立派な騎士になって帰ってくるんだぞ!」

「休みの時には必ず帰って来るのよ!待ってるからね!」


 父さんと母さんが目に涙を浮かべて馬車まで送ってくれている。


「行ってくるよ!父さん!母さん!必ず騎士になる!」


 進みだした馬車の窓から顔を出して、両親に手を振る。


 父さんの頭がキラキラと輝いている。

 どうやら無駄な抵抗をやめたようだ。


 似合ってるよ。父さん・・・。


*

 ゴトゴトと馬車に揺られながら僕は、学園での僕の立ち位置を考え直していた。


 まず、僕の最終目標は勇者に魔王と戦えるほど、強くなってもらい、魔王を倒した後に僕と戦って勇者にかっこよく勝ちを譲ることだ。

 その後は、どこかの山奥で隠居暮らしをして、勇者のよき戦闘相手として、圧倒的な力で勇者どもを、蹴散らそう。


 ただ、その為には魔王を用意しなくてはならない。

 アインにその役目を頼むのもありだが、これ以上アインの人生を狂わせたくないので、別に用意しようと思う。


 学園内の誰かを魔王として噂を流してそいつを勇者にボコボコにしてもらうのはどうだろうか。


 いや、これではダメだ。学園内の人間の強さなど、たかが知れている。

 うーん・・・。

 いっその事、僕が魔王のふりをして勇者と戦うのはどうだろう。


 ・・・これはありかもしれない。


 自分が魔王になることは出来ないが変装したらたぶん何とかなるだろう。

 ただ、どうやって魔王として学園の舞台に潜入するがベストだろうか。何かのイベント中がいいのか、それとも授業中に急に現れるのがいいのか。 


 僕は予め貰っていた年間予定表を取り出す。

 中身を見ていると、まず4月は入学式やら魔力測定やら騎士団のオリエンテーションやらどうでもいい地味なイベントが乱立していてどうもうまいこと目立てるとは思えない。

 別の場所に目を向ける。

 5月に武闘大会というものがあるらしい。


 おそらく生徒同士の戦いが行われるのだろう。

 具体的な内容はわからないが魔王として乱入するにはこのタイミングがベストなんではなかろうか。


 王都についたら、アインにどうすればいいか聞いてみよう。


*

 王都についた。

 アホみたいにでかい城門と無駄に多い警備の騎士が立っていて、検問をしている。


 僕の馬車はどうやら顔パスのようでそのまま何にも調べられずに中に入っていく。


「リダ様、学園に到着致しました」


 御者にそう言われて、馬車から降りる。


 またしても無駄にでかい門があった。


「寮はまっすぐ行かれて、突き当りを左に曲がりまっすぐ進むと御座います。では私はこれで」


 御者に最低限の説明を受けて馬車が去っていく。


 それにしても、ここが学園か。思ってたよりもでかい。


 ここで僕は、三年間もの間、絶対に後悔しないように、全てを全力で挑もうと誓い、寮に向かって歩いて行くのだった。


 寮につき、受付の人に名前を言うと、部屋へと案内してくれる。

 僕の部屋は、最上階の角部屋というなかなかに条件のいい場所だった。

 ちなみに寮は4階建てで、1フロア50部屋ほどあるんじゃなかろうか。

 かなり広い。


 部屋の中に入ると、もう荷物が届けられており、床に並べられている。

 荷物の量は少ない。服とか食器類とか、最低限生活に必要なものしかもって来なかった。


 あとそうそう、家の裏山に隠していた財宝だが、あれはすべてアイン達にあげた。

 もともと他人のものだし、彼女たちの今後の人生のことを考えると、ある程度まとまった金は必要だろうしね。


 しかも荷物は少ない方が整理整頓がすごく楽だ。

 さて、部屋の整理整頓を始めよう。


 気持ちを新たに、僕は最初の木箱を開けた。


 驚いた。木箱の中に、メイド服を着た人が入っていた。


 というかこいつはツヴァイだ!


 ツヴァイはアインの双子の妹で、アインと一緒に保護した。

 ナンバーズの中では戦闘面では最強の強さを誇っているが、普段は無口である。

 戦闘が始まると急に人が変わった様に言葉遣いも行動も荒々しくなるので、最初の頃は他のナンバーズに怖がられていた。


「何をしているツヴァイ」


 驚きを隠して冷静を装いながら聞く。


「・・・おかえりなさいませ・・・ご主人様・・・」


 ・・・いったい誰に教えてもらったんだそんなセリフ。


「・・・学園・・・潜入・・・大変・・・荷物・・・潜入・・・」


 相変わらず人と話すのは苦手の様だ。

 だが、僕ならわかる!

 学園のセキュリティーが厳しいので荷物として潜入したということだ。


 でも別に潜入なんてしなくても良かったのではなかろうか。


「そうか。ご苦労様。じゃあ荷物片付けるの手伝って」


 ツヴァイはたぶん僕に会いたかったからうっかり来てしまったのだろう。

 まったくかわいい奴め。


 そういえば入学式まであと1週間ほどあるらしい。


 一週間もの間、何をしようか。


 昼間は町の中を観光するのもいいだろう。

 夜はゼロとして町の中を散策してみるかな。


*

 夜。

 ブラッドスーツを身にまとい、寮の屋根の上に立ち月明かりに照らされた王都を眺めていた。

 

 そういえばツヴァイはなんか用事があるらしく、日が沈んだらすぐにどっかに行ってしまった。


 久々に会ったのでまたドッジボールをしたかったのだが。


 ちなみにツヴァイとのドッジボールはその辺に転がっている石とか、木の枝とか、木の幹とかを投げ合う命懸けの戦いだ。

 大岩を投げつけてきて山を半分ほど抉り取ったことがあるので、その時以来やっていない。

 というか街中でやったら大変な事になるな。

 建物丸ごと投げてきそうだ。


 過去の思い出を振り返っていると、後ろから気配がした。

 恐らくアインだろう。


「来たか」


 振り返らずに聞く。

 名前を言わないのはもし間違っていた時のための保険だ。


「ゼロ様、今月の報告に参りました」


 またしても長い報告が始まる。


「ゼロ様が以前おっしゃっていた魔王を封じ込める武器の件ですが、ファンの調査により、裏が取れました。どうやら教会の聖堂の地下に何かが隠してあったようです。封印が強く中身までは確認できなかったようですが・・・」


「うむ・・・」


 そんなこと言ったっけ。

 言ったような気がする。

 だめだ思い出せない。


「ノインの立ち上げたロクビシ商会の主力製品である、シャンプー、ボディーソープ等の売れ行きは好調です。また炭酸ジュースに関しても様々な種類を展開し、更なる売り上げが見込める状況となっております。また、新しい商品としてカップ麺を開発中・・・」


「ふむ・・・」


 ロクビシ商会。そういえば学園に来る途中に見た気がする。

 大きな看板を掲げて。

 あの商会はノインが立ち上げたのか?

 いや、まだ僕の元から離れて1年くらいしか経っていないし同じ名前の別の店だろう。


「それと、ツヴァイの報告によると、王都の各所に謎の魔法陣が・・・」


「うむ・・・」


 ツヴァイは僕に何かを報告しに来ていたようだ。

 どうせ新作のケーキが美味しいとかそんな可愛らしくてどうでもいいことだろう。

 少なくとも今まではそうだった。


「ですのでゼロ様もお気を付けください」


「うむ・・・」


 大丈夫だ。気を付けるのは得意だ。


 そういえば、聞きたいことがあったんだった。


「あ、そうそう、5月に学校で武闘大会があるんだけどさ、そこに魔王として登場しようと思ってるんだよね。だから変装用の装備を作ってほしいんだ」


「・・・はい!?・・・理由を聞いてもよろしいでしょうか・・・?」


 どうしよう。勇者に強くなってもらうためなんて言えない。


 一応ダークリベリオンは勇者と戦う組織なのだ。

 敵に強くなってもらってどうする。


「理由は・・・今は言えないんだ・・・」


 僕は俯き悔しそうに答える。


「・・・はぁ・・・。わかりました。では、マントと仮面、そして剣を用意いたします」


 アインは少し悲しそうに答える。


「ゼロ様、あなたが昔から誰よりも重たいものを背負っている事は知っています。ただ、・・・ただ、少しくらいは私たちを頼ってくれても良いんですよ?」


「わかっている」


 そう言って僕は部屋の中に戻っていくのだった。


 屋根の上に一人残されたアインは考える。


(なぜ・・・、なぜわざわざ魔王として登場する必要があるんでしょう?そんなことしたら、敵に囲まれて、危険な目に合うだけなのでは・・・?)


(・・・まさか!?自らが魔王として登場し、学園内に魔王を信仰している者がいないかあぶり出すつもり?だとしたら私は・・・)


「今すぐナンバーズを全員王都に集めなければ・・・!」


 アインは闇夜の中に消えていくのだった。


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