夏休み編

大魔王様誕生

 僕は今、輝く太陽の照り付ける中、空を飛んでいる。


 天空の城に行くためだ。


 結局、夏休みに何をするかは決めていない。


 とりあえず外国に行って、世界を見て回って、面白そうなことがあったら突入してみようと思う。


 外国だから知り合いもいないし、好き放題しても問題ないよね。


 ヒロとコザは、実家に帰るらしい。


 面白いイベントが起こりそうと思って僕の実家に誘ったのだが、どうやら鍛錬で忙しくて来れないらしい。


 別にいいけどね。


 僕は僕で忙しいのだ。


 なんせいろいろとイベントは目白押しだからな。


 今、僕の目の前には無限の可能性が広がっている・・・!


 東にある国だと戦争なんかも起こっているらしいし、僕がその戦争に現れて戦争を終わらせるのも面白そう。


 神の使途が現れて、世界に平和をもたらした・・・!


 とか。なんか伝説になりそう。


 それか、北の国なんかは身分制度が異常に激しいらしい。


 突如として現れた正義のヒーローが身分制度を崩壊させ、国に平和をもたらした・・・!


 とか、素晴らしいな。


 ちなみに、北にある国と東にある国が戦争をしているらしい。


 確か、国の名前は・・・サウなんとかとイーなんとかだった。覚えていない。


 まあ名前なんてどうでもいい。


 なんせ時間は二か月間もある。


 どっちも行けるだろう。


 時間が余ったら西の国に行ってみるのもいいかもしれない。


「フハハハハハハッッ!!!!!」


 笑いが止まらない。


 今僕は一人だ。大声で叫んでも白い目で見てくる者はいないのだ。


 そういえば、黒騎士君と別れて二週間ほど経ったけど、元気にしてるだろうか。


 ちゃんと天空の城の掃除はしているだろうか。


 僕はスピードを上げる。


 早く黒騎士君に会いたい。


 彼も、そう思っているに違いない。


 なんせ、彼は孤独の魔物。


 相手にしてくれる人なんていないだろうし。



*

「「おかえりなさいませ!大魔王様!」」


 何が起こったんだろうか。


 天空の城についた僕は、ずらりと並んだメイドたちによって歓迎されていた。


 目の前には、大きな開いた門と、レッドカーペットが敷かれている。


 城前の噴水はきれいに修復され、辺りを色鮮やかな花園が美しく飾っている。


 空の太陽が、その光景をさらに明るくしている。


 まるで、王様が帰ってきたかのような歓迎っぷりだ。


「うむ・・・。ご苦労・・・」


 とりあえず乗ろう。


 よくわからない時は、流れに身を任せるのが一番なのだ。


「黒騎士君、どこにいるか分かる?」


 端っこのメイドに聞く。


「えと・・・魔王様・・・の事でしょうか?魔王様なら奥にいらっしゃいます」


「そうか。ありがとね」


 そういえば黒騎士君に魔王の座を譲ったんだった。


 僕はレッドカーペットの上を歩いて行く。


 すると、


「よくぞいらっしゃいました。大魔王様」


 黒騎士君が迎えてくれる。


 ところで、大魔王様とは僕の事なんだろうか。


 いや、僕の事なんだろう。


 僕はとうとう、大魔王にまでなってしまった。


 辺境に住む貴族、学園に通う司書、テロリストのゼロ、学園に突然現れた魔王、そして天空の城の大魔王。


 なんか、僕の称号も随分と増えたな・・・。


 まあいいか。僕には関係のないことだ。


「魔王君、これは?」


 これから黒騎士君の事は魔王と呼ぶことにしよう。


「はい。大魔王様の指示に従い、魔王城の修復と兵力の増強を行いました」


 なるほど。そう来たか。


 ここは魔王城だという設定。


 兵力とはさっきのメイド達だろう。


 皆華奢な体つきではあったが、内包する魔力はアイン達にも引けを取らないレベルだった。


 恐らく人間ではない。魔物かなんかだろう。


「うむ・・・。ご苦労・・・」


 魔王君も頑張ったのだろう。


 初めて来たときはこの城も結構ボロボロだったからな。


 というか、城には見えなかった。


 草木も好き放題生えていたし。


「有難きお言葉です。ところで、今回は何用で?」


 そういえば、何しに来たんだっけ。


 特に目的はない。


「とりあえず東の国に行ってみようかな」


 東の国。北にある国と戦争をしている素晴らしい国だ。


 ドキドキワクワクなイベントが待っているに違いない。


「はい。イーレシア帝国ですね。かしこまりました」


 イーレシア帝国。そんな名前だったか。


 すっかり忘れていた。


「そう。そうだ。そっちに迎え」


「わかりました」


 とりあえずはこれでいいだろう。


 東に行けば、僕の暴れる舞台も整っているに違いない。


「東といってもあれだ、北の国との国境に行け」


 危ないところだった。イベントが起こっている場所は国境だ。


 東の国と、北の国は戦争中だ。


 戦地に乱入してこそ、イベントには巡り合いやすいに決まっている。


「はい。到着まで1日ほどかかります」


 よし。若干舵を動かした。


 さて、到着するまで何しようかな。


 見たところ、この天空の城は広そうだし、面白そうだ。


 いろいろと見て回ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る