帰りたい

 王都にあるダークリベリオンの秘密の屋敷の一室で、私は考えていた。


「アイン、準備を整えておけ」


 主様からの大いなる意味を込めた指示。

 武闘大会でゼロ様は魔王として登場するつもりだと言っていた。

 目的は、敵の組織の上層部の壊滅。

 ただ、調べ上げた情報によると、敵の上層部は一人しか来ないらしい。


 ブデー伯爵。


 一騎当千の異名を持ち、その力は衰えてもなお、健在だ。

 恐らく、主様の指示の意味は、『敵をおびき寄せろ』ということだろう。

 主様が直接手を下すのだ。

 ブデー伯爵一人程度で、彼が直接動くのはどう考えても、不釣り合いだ。


 だから、私は手紙を書くことにした。ブデー伯爵に。


 内容は単純。

 武闘大会で、ダークリベリオンンが現れる予定だという、果たし状のような内容。

 だが、これで十分なはずだ。これまでの我々の活動は、ディスパーダにとって無視できないものになっているはず。


 上層部の人間を、多数連れて来てくれるに違いない。

 アインは大いなる野望のために筆を進めるのだった。


*

 武闘大会当日。


 アインはゼロの合図で動き始めた。

 闘技場から空高く、雲に大穴を開けるほどの魔力が放出されたのだ。


 ゼロ様からの合図。


 そう確信できるほど、荒々しく、強大な魔力。

 私たちは、すぐに行動を開始した。


 私たちのメンバーは、ツヴァイに私、そしてナンバーズのドライによって育成された組織のメンバーの精鋭10人。


 全員、実力には申し分ない能力を持っている。

 闘技場に到着した時、ブデー伯爵はもう逃げだしていた。

 残されているのは、ディスパーダによって体をいじくりまわされ、異形の物へと変わってしまった者達。


 主様が囲まれている。

 どうやら、魔王としてではなく、ゼロとして登場したようだ。

 私は指示を出し、全員で主様の元へと飛ぶ。


「ゼロ様!後はお任せください!」


 理性を失っている敵とゼロ様の間に降りる。

 私に続くように、他のメンバーも闘技場に降り立つ。


「・・・ゼロ様・・・大丈夫?・・・」


 ツヴァイもまだ理性を保っている。


「作戦通りにいく!散開!」


 事前に決めていた作戦は各個撃破。メンバーが辺りに散る。

 私とツヴァイはその場にとどまる。

 主様を守るためだ。


「かかってきなさい・・・。愚か者ども・・・」


 私は構える。

 そして、ゼロは、無言で虚空を見つめていた・・・。


*

 僕は驚き立ち尽くしていた。


 今回の作戦は失敗だ。

 原因は僕が服装を間違えてしまった事。

 ヒロを貶めるために作った服が、まさかこんな形で失敗を招くとは。


 ちくしょう。


 人を呪わば穴二つ。他人の不幸を望めば、それは自分に帰って来るのだ。

 僕はもう、いろいろと面倒になっていた。


 早く帰りたい・・・。


 最初は良かった。

 登場のところまでは。

 僕はノリノリで登場したが、いきなりヒロに正体がばれてしまったので、魔力をぐるぐる回転させて、姿を消すつもりだった。


 ただ、目の前に気色の悪い生き物がいたら殺したくなるよね。


 謎の生き物を殺した後、立ち去ろうと思ったら、またしても気色の悪いデブが現れた。

 変な生き物を連れて。


 僕はもう、皆殺しにしようかと考えていが、失敗した。

 デブを取り逃がしてしまった。

 ぶっ飛ばそうと思っていたのに。


 そのあと、立て続けにアイン達が現れた。

 そして今、彼女たちが暴れている。


 あのデブの置いていった化け物たちは、劣勢の様だ。

 アインが連れてきた人数は10人とツヴァイ。


 その上、勇者のヒロと、剣王のマリアも戦っている。

 勇者と剣王は、共闘して1人を相手にしているようだ。

 さっきまで仲悪くなかったか?


 まあいい。


 敵の全滅はすぐに訪れるだろう。


「アイン、彼女たちは?」


 僕は彼女に聞く。


「はい。ダークリベリオンの精鋭です」


 精鋭。要するに、それなりの実力を持った護衛なのだろう。

 雇うのはよほど金がかかったに違いない。

 ただ、まだ実力は大したことない。

 あの化け物共には勝てるかもしれないが。


「そうか・・・。あんなものなのか・・・」


 この国の護衛のレベルはあの程度なのか。

 僕でも余裕で勝てる。たぶん目を瞑っていても勝てるだろう。


「・・・っ!申し訳ござしません!」


 アインが謝ってくる。


 なにかあったのか?

 なにがあっても気にするな!

 というか話さなくてもいい!

 僕は早く帰りたいんだ!


「気にするな。さっさと終わらせよう」


 僕はブラッドスーツを操り、敵を9人、すべて拘束する。


「眠れ・・・」


 そのまま全員を握りつぶした。


「さすがっ・・・!」


 アインが驚いている。

 僕はすぐに空へと飛び立つ。

 このまま寮に帰って寝よう。


 そういえば、僕の作戦、失敗ばっかりだな・・・。

 泣きたくなってきた・・・。

 僕に足りないのは、注意力。

 注意力がないから、失敗するのだ。

 行動する前に、まず一息考えるようにしよう。


 僕は決意を新たに、寮に帰るのだった。

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