サバイバル訓練三日目

「ふふふ・・・」


 僕はクレーターのど真ん中の地面を掘り、小さな洞窟を作っていた。


 その中に玉座っぽい椅子を作って、ゼロの格好で王様っぽくふんぞり返って座っている。


 僕の隣には、マリア王女が眠っている。


「マオウサマ・・・イケニエ・・・シッパイ・・・」


 こいつはずっとこの調子だ。


 黒い鎧の騎士の魔物。


 背中からは巨大な翼が生えている。


 僕はこいつに、僕の事を『魔王様』と呼ばせているのだ。


 こいつは強かった。


 なんせ南の森の一角が半壊というか、きれいに整地されてしまったからな。


 戦っている時間は実に充実したものだった。


 久々に全力を出せた気がする。


 魔力を極限まで引き出し、かつてないほどの集中力と闘争心が、僕の中に生まれていた。


 特に、黒騎士君が自分の羽を空中に散らしてそれを魔力で操り、四方八方から無差別に襲い掛かる攻撃。


 実にかっこよかった。


 これは、僕も真似して、新技として今度使ってみようと思う。


 しかし、楽しい時間には必ず終わりが訪れる。


「・・・うんこしたいんだけど」


 僕は人間で、彼は魔物だ。


 そして人間は、生理現象には逆らえない。


「・・・」


 黒騎士君はどこか不服そうだったが、戦いは終わった。


 そのあと、僕は彼と言葉を交わす。


「マタ、タタカイタイ」


 彼は僕の事を良きサンドバッグとして認めてくれたようだ。


「僕の配下になってくれたらいいよ」


 こうして、彼は僕の部下になった。


 彼には僕の事を『魔王様』と紹介した。


 ちなみに僕は彼の事を黒騎士君と呼んでいる。


 だって、どう見ても魔王の部下っぽい見た目してるもんね。


「黒騎士君。魔物、生きたまま連れてこれる?」


「マカセロ」


 僕は彼にお願いをした。


 このままだと、ポイントゼロだ。優勝はまずできない。


「しばらく眠るよ。明日の朝には起きると思う」


 かなり疲れた。魔力もすっからかんだ。


 こうして、僕は眠りに落ちた。


 そして翌朝、彼が連れてきたのは、気絶しているマリア王女だった。


 僕は急いでゼロの格好になった。彼女に黒騎士君を僕が従えているのを見られるのはまずい。


 今回、魔王の服は持ってきてないからな。


 というか、魔物を生け捕りにして来いと言ったはずなのだが。


 まさか生徒たちを襲っているんだろうか?


 まあいいか。敵が減るのは良いことだ。


 そんなわけで僕は今、黒騎士君の帰りを待っているのだ。


 けれども、どうやらこの森にはもう魔物がほとんど残っていないらしい。


 たぶん僕らがこの森に来る前に黒騎士君が全部倒しちゃったんだろう。


 というか、普通の魔物が黒騎士君の一撃に耐えられるだろうか。


 ・・・間違いなく無理だろう。


 僕はため息をつきつつ、マリア王女の目覚めを待つ。


*

「ん・・・。うぅ・・・」


 マリア王女が目を覚ます。


 辺りはもう暗くなり始めている。


「起きたか」


 僕は立ち上がり、彼女に声をかける。


「ここは・・・?いったい何が・・・」


 彼女は辺りをきょろきょろと見渡す。


「起きたか」


 僕はもう一度声をかける。先ほどの僕の声は聞こえていなかったらしい。


「っ!ゼロっ!?」


 彼女が立ち上がり、剣を抜こうとするが、


「剣が・・・!」


 彼女の腰には剣は刺さっていない。


「・・・くっ!」


 彼女がよろめく。


 まだ、黒騎士君との戦闘が尾を引いているようだった。


「無理をするな。これを食べるといい」


 僕は鞄の中から携帯食料を取り出し、彼女に与える。


「テロリストの施しなど・・・!」


 彼女は悔しそうにしながらも、僕の手から携帯食料をもぎ取り貪り食う。


「ふぅ・・・。ごちそうさま」


 彼女はハンカチで口を拭きながら満足気にしている。


 なんて図太い奴だ。


「ふん・・・。それにしても、あの黒騎士の一撃を耐えるとは随分鍛えているようだな」


「あれはあんたの仕業なのね・・・!よくも!」


 僕の仕業ではない。僕が出した指示は、魔物を生け捕りにして来いという内容だ。


 生徒を襲うなんて僕も予想外。


「あれは・・・、そう。古代の話だ・・・」


 僕は話し始める。


 かつて、アイン達にしたような話を。


「つまり、あの黒騎士は元魔王の部下で、あんたを魔王と勘違いしてるってこと!?」


「そういうことだ・・・」


 僕は渾身の悔しそうな演技をする。


 実際のところ、あれは僕の設置した罠が生み出した魔物だ。


 だが、こう言っておけば、もし黒騎士君が帰ってきて、僕の事を魔王様と呼んでも違和感ないだろう。


「これからどうするつもりだ・・・?」


 僕は彼女に聞く。


 出来れば早々にここから立ち去って欲しいところだが。


「ヒロとコザを探さなきゃ!・・・きっと、心配してるわ」


 彼女はここから出ていくようだ。


「だったら、これを持っていくと良い・・・」


 僕は右手で彼女に携帯食料を渡す。


 この森は広い。


 最低限食料だけでもと、思って彼女に渡す。


 しかし、


「・・・」


 彼女が俯いている。


「どうした?いらないのか?」


 どうしたんだろうか。


「その指輪・・・リダ君の、リダ君をどこにやった!!!!」


 彼女が急に怒り出し、僕を殴りつけてくる。


 ああ、そういえばそうだった。


 彼女からはこの森に入る前に指輪を貰っていたんだった。


 どうしようか・・・。


 僕は頭をフル回転させる。


「・・・ふふふ。なんだ、貴様、あいつの知り合いか?」


 こういうパターンは・・・。


「あいつの鳴き声は実に気持ちが良かった・・・。助けて・・・助けて・・・。と、何度も呟くんだ・・・」


 こういうパターンだと、僕は悪役に徹しなければ!


「くくく・・・。今思い出しても笑いが出てくる・・・」


「貴様・・・この外道が!!!」


「戦うのか?丸腰の貴様が・・・?」


「私は・・・、私はリダ君のためなら、命など惜しくはない!」


 彼女は王女の中の王女の様だ。


 民の為に命を惜しまない。


 かっこいい・・・。


「ここは狭い・・・。外に出よう」


 僕は洞窟から出る。


 気が付けば、辺りは真っ暗だ。


 いつの間にか、日をまたいでしまっているようだ。


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