ウラノス家編
プロローグ
いつからだろうか。気がつけば、俺は憧れていた。
世界の闇に潜み、影から世界を支配している裏ボス的な存在に。
漫画で例えると、コツコツと努力を重ねて強くなった主人公達が、ラスボスをやっとの事で倒した後に出て来て、主人公達に感謝の言葉を述べたり、戦いを挑んだりするような存在だ。
ラスボスなんか足元にも及ばないような圧倒的な強さと権力を持っているが、主人公達と戦ってあげたりするときはだいたい自分に不利な条件を付けたり、あえて油断して主人公に勝ちを譲ってあげたりするのだ。
そして、いつも主人公達を影から支えたり、すぐ近くから見守っているのだ。
しかし現実問題、そんな主人公的な存在は周りにはいない。
いたとしてもほぼ間違いなくただの勘違いナルシスト野郎だ。
だが俺は諦めきれなかった。
いつか現れる。必ず現れる。
たとえどんなに愚かな事だと言われても、俺はその夢を捨てることだけは出来なかったのだ。
だから主人公に遭うときの為に、自分を鍛えることにした。
裏ボスは常に最強でなければならない。
主人公を陰で支える以上、謎の勢力や謎の権力には、時には武力行使もやむなしというわけだ。
そして目立つことも許されない。
あくまで主人公を陰で見守り、導かなければならない。
その為に、僕は自身を鍛え、学び、どんな状況にでも対応できるようになる必要がある。
いつか巡り会うであろう、主人公達のために!
*
そんなわけで今俺は高校生だ。
世界中のあらゆる格闘技をマスターし、外を歩くときは基本常に全身に重りをつけている。
休日や学校が終わった後は全ての時間を己を鍛え上げることに専念した。
架空の敵は、昨日の自分だ。
昨日の自分に勝てなければ、明日の自分にも勝てない。
自分という影を作り出し、戦った。
時には方向性がわからなくなることもあった。断食をしながら腕立て伏せをどこまでできるか、滝の水に打たれながら逆立ちをする、薪を素手で割れるまで殴り続けるなど。
出来ること、考え付くことは何でもした。
だがこれではダメなのだ。
どんなに鍛え上げても人間は拳銃で一発撃たれたら死ぬ。地雷原を走り抜けても、爆撃を受けても、簡単に死んでしまう。
なんて・・・なんて脆い生き物なのだ。人間とは。
俺は自己の限界に気付き、絶望していた。
だがまだ可能性はある。己の限界を超えて力を発揮する事ができる可能性が。
念力や超能力といった、人知を超えた存在だ。
それに気付いた日から、俺の鍛錬は激しくなった。
岩を腕や足に積み上げていきどこまで耐えられるか、重りを身体に巻き付け海中に潜り込んでどこまで耐えられるか、どれだけの高さから落ちれるかなど。
己を死ぬ寸前まで追い込み、限界を超え、人知を凌駕する存在になるために!
だがそれでもダメだった。
確かに身体や精神は鍛え上げられた。
しかし、一向に人知を超えた能力に目覚めることはなかったし、自分が本当に死にそうになったときは自分の意思とは関係なく身体が動き、全力で生きるために体が動くのだ。
結局無理なのだろうか。
*
その日は、いつものように鍛錬を終えて、帰っているとある崖が目に入った。地面まで30メートルほどある。
いつも目についている崖だが、身体の引き締まった俺は、アドレナリンが全身を駆け巡り、興奮していたのだ。
これはもしかしたら、と思い、その崖の上に立つ。
限界を越える前に勝手に身体が生きようとするならば、それを出来ない状況に自分を置くしかない。
自分で限界を作るから限界が存在する。
だったら、限界を作れない状況に自分を置けばいい。
俺は崖から飛び降りた。
飛び降りた瞬間、時間の流れが遅くなる。
そして脳裏に、今まで行ってきた鍛錬が駆け巡る。
過去の記憶が全て映画のように流れている。
ヤンキーの根城の廃工場に乗り込んだ映像、自衛隊の基地へ乗り込んだ映像、そして、名前も知らないクラスメイトをヤクザの拠点から救い出した映像。
どれも真新しい光景のように感じる。
気が付けば、ゆっくりと、地面が近付いてくる。
周りの景色が今まで見たことのないほど美しく輝いている。
規則正しく光っている街路灯の明り。一本も枯れることなく咲き誇っている街路樹の桜。
目に映る、全ての光景が、美しかった。
俺は気付く。このすべてが、走馬灯のようにゆっくりと流れているように。
俺は今、時間を操っている!
見つけた!これこそが超能力!
やはり俺は間違っていなかった!
これこそが・・・!
そして地面に顔面がぶつかる寸前。
俺は気を失った。
*
目が覚める。
どうやら僕は気を失ったようだ。
きっと無理をしすぎたのだろう。
顔をのぞき込んでいる人が二人いる。
一見、外国人のように見える。
看護師でもないみたいだ。
「ーーー!ーーーーーー!」
真っ白な長髪の美しい女の人が何か言っている。
何語だろうか。
ここは、病院ではなさそうだ。
「ーーー、ーーーーー、ーーーー」
隣にいた吸い込まれそうなほどの真っ黒な短髪の若い男の人も何かを言っている。
何かあったのだろうか。
それにしてもさっきの俺は何を考えていたんだ。
崖から飛び降りるなんて自殺志願者もいいところだ。
ふと手をみる。
すごく小さい。赤子のようだ。
あれ?俺の体こんなに小さかったっけ?
それにしても眠い。
水中鍛錬をした日のような感覚だ。
あまりに容赦なく襲ってくる睡魔に屈して、眠ってしまう。
俺はそのまま眠った。
*
結論から言おう。
俺は人知を超えた能力を身につけることが出来た。
どうやら別の人間として全く別の世界に生まれ変わったらしい。元いた世界とは文明レベルが全く違う。
部屋の明かりなんて蝋燭ぐらいしかないし、窓の外がちらりと見えたときは馬車が走っていた。
だがその代わりに、前の世界に無かったものがあった。
物を浮かせたり、炎を出したり、水を出したり、土を耕したりが、勝手に起こっているのだ。
たぶん、念力とか魔力、気力。そんな感じのだろう。
顔をのぞき込んでいた母親と思しき人が俺に手をかざして、手が光ったかと思ったら、なんと手からそよ風が吹いてきたのだ。
こんなことは有り得ない。
生まれてから一度も味わったことはない。
だが、味わったことがないことが起こっている。
これは・・・、人知を超えた力に違いない・・・!
そよ風を感じながら、俺は以前行っていた瞑想を始める。
いつもと違う感覚だ。何か体の中に別の臓器を感じる。
今までこんなことは無かった。
身体の中に熱い何かを感じる。
(これは・・・)
試しに引っ張り出そうとしてみる。
動く。
動くのだ。
(間違いない!これは人知を超えた力だ!)
そして俺は、またしても急に襲ってくる睡魔に負けて、眠り始めるのだった。
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