初任務!

 僕が先遣部隊に配属された翌日。


「次の任務が決まったわ」


 僕の初仕事の日がやって来た。

 リーダーの鶴の一声で、僕らは視線を集中させる。


「ここから北西にある砦の強襲よ。敵兵は数も規模も不明。せいぜい死なない事ね」

「うーっす」

「わかりましたー」


 部隊のメンバーが準備を始める。


「すぐに出発ですか?」

「そうよ。急いで準備して」


 随分と急だな。

 別に僕は準備するものなんてないけど。

 荷物はすでにまとめてあるし、剣も持っていない。


「あなた、剣は?」

「僕は素手が好きなんですよ」


 素手が好きというより、僕に剣は必要ないのだ。

 ブラッドスーツがあるからな。


「あらそう。じゃあすぐに出発するわよ」

「わかりました」


 僕達は移動を始める。


「他の部隊は来ないんですか?」

「他の連中は遅れてくるのよ。私達が生き残れたら攻め込むし、帰って来なかったら様子見」

「そうですか・・・」


 まさに使い捨ての組織。

 ちょっとひどすぎるよね。

 別にいいけれども。


 今頃、アンはどこで何をしているんだろうか。

 元気にしているかな。

 うっかりキレて暴れたりとかしないだろうか。


 ・・・たぶん大丈夫だな。

 アンが怒ったところは見たことが無い。


*

「あそこね。周囲を警戒して」

「わかりました」


 目的地に到着した。

 道中、特に何か大きなことは起こっていない。

 せいぜい弱い魔物に遭遇したくらいだ。


「見張りは、正面に2と左右に1ずつね。今回は楽勝そうだわ」

「だな!ちゃちゃっと終わらせて酒飲むぜ!」


 仲間の男が三人、敵に向かって突撃する。


 僕とリーダーは状況を冷静に分析していた。

 外の見張りは二人でも、中からわらわらと出てくるかもしれない。


 ほら。


 突撃した三人は見張りの二人は仕留めたようだが、矢の雨によってすぐに絶命してしまった。


「これ、突撃しないといけないんですか?」

「当たり前でしょ。早く逝ってきなさい」


 笑顔で背中を押される。


「まったくもう・・・。どうしろっていうんだよ」


 僕は悪態を吐きながらも走り出す。


 どうやって調理しようかな。

 せっかくなら一回捕まってみるのもアリ。

 けど、たぶん捕まる前に殺されちゃうだろうしなあ。


「まあいいか。皆殺しで」


 でもやっぱり一人だけ残しておこう。

 なにか面白い情報を吐いてくれるかもしれない。


「剣よ!」


 掛け声とともに、イメージする。

 それは千の剣。

 一つ一つ丁寧に形を作り、辺りを漂わせていく。


 出来た・・・。

 剣のドラゴンだ。

 すごく・・・大きいしかっこいい。


 試験的な技だけどなかなか様になってるな。


 それを砦に向かって放つ。


 その波は、地面を抉り、壁を切り裂き突き破る。まさに暴力の塊だった。


「あー、でも少し単調だな。もう少し躍動感が・・・」


 生き物っぽくしたい。

 なんか無機物って感じがする。


 あと制御がちょっと難しい。

 形を維持したまま動かすのが地味に大変。

 うっかり砦が全壊してしまった。


 僕がブツブツ呟いていると、


「なに?あれ?あんたがやったの?」


 リーダーが話しかけてきた。


「ああ、そうです。でも少し失敗しちゃいましたね」

「え?どういうこと?」

「誰か一人残そうと思ってたんですけど、うっかり全員殺しちゃってですね・・・」

「お・・・おう・・・」


 リーダーが若干引いている。


「お前、あの力があれば誰も死なずに済んだんじゃねえの?」

「確かにそうかもしれないですね」

「じゃあなんで・・・!」

「それは、僕が慎重な男だからです」


 そう、僕は慎重な男なのだ。


 だから、慎重な行動を心掛けた結果、手遅れになるのもやむなしというわけだ。


「確かに、あの状況で突っ込むあいつらもわりいけどさ・・・」


 よくわかってるじゃないか。

 あの連中は僕にもどうすることもできない。


「それで、これからどうするんですか?」


 聞く。

 もう帰るんだろうか。

 それとも次の現場にそのまま行くのだろうか。


「今日のところは帰って報告だね。報告はあたしが済ませとくよ」

「わかりました。じゃあ帰りますね」


 僕は空に飛びあがる。


 もう少し新技の練習をしたい。


 それに、次の場所ではなにか面白い情報が出てくるかもしれない。



*

 千剣の勇者の異名を持つアンは悩んでいた。


 国の兵士になったが、配属された第三部隊は戦闘らしい戦闘はほとんどしないらしい。

 戦いを望んでいたアンにとっては酷くつまらないものだった。


「はあ・・・。リダ様、今頃何してるのかなあ・・・」


 空を見上げて呟く。


 リダ様が配属された先遣部隊は、恐ろしく死亡率が高いらしい。

 その理由は、戦闘が多いから。

 私もそっちの部隊に行きたかった。


「こんなところに居ましたか、『千剣の勇者』様」


 声をかけてくる者がいた。

 たしか名前は・・・。


「ゴルダーと申します。以後お見知りおきを」


 そう言って優雅にお辞儀をする。

 ・・・どこか気持ちが悪い。

 そう思った。


「えっと、はい。よろしくお願いします・・・」

「ああ!やはりあなたはその手のひらから足の指先まですべてが美しい!」


 そう言って、私の手を握ってきた。


 瞬間、背筋がゾワリとする。

 今まで感じたことのない嫌悪感。


 私は反射的に魔力を開放してしまった。


 あふれ出す魔力と殺意の奔流。

 この男は今まで修羅場を潜り抜けたことがないのだろう。

 目の前の男は気絶してしまった。


「あぶないあぶない・・・」


 私が怒ってしまったら、この街が消し飛ぶかもしれない。

 私はそれくらいまで、強くなっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る