終わりの始まり
「なあ、あんた結局昨日はあの後何してたんだ?」
僕が砦を壊した翌日。
唐突にリーダーから聞かれた。
「あの後は・・・」
何してたんだろうか。
いろんな場所を回って、新技の実験をしていた。
なにしろ結構な数の砦とか野営地があったからな。
犠牲になった人の数は数えきれない。
「すぐに帰りましたよ」
なんとなく、話さないことにする。
そもそも、僕がどこで何をしていようとリーダーには関係のないことだ。
「あっそう」
リーダーは興味なさそうに僕から目を逸らす。
そこからは、なんの会話もなく、ただただ静かな時間が流れた。
*
さらに翌日。
「今日の任務は、強襲作戦ではないわ」
唐突に、作戦を告げられる。
「そうなんですね」
ちなみにこの先遣部隊はリーダーと僕の二人のままだ。
補充はまだない。
「最近、敵の砦が謎の勢力によって襲撃を受けているらしいわ。いつの間にか全滅してるらしいの」
「そうなんですか」
リーダーがジト目で僕を見る。
僕が襲った場所は敵の砦だったんだろう。
「しかも、敵の砦だけじゃなくて、味方の砦も襲撃を受けているらしいわ」
「そうなんですね」
リーダーの視線が強くなる。
それもたぶん僕のせいだ。
疑われているのだろうか。
「すぐに発つわよ。準備して」
「わかりました」
急いで準備をする。
*
「目的地は北の砦。いや、砦だった場所よ」
「わかりました」
機械的に返事をする。
北の砦。
間違いなく僕が潰した場所だ。
最初は盗賊かなんかのアジトだとばかり思っていた。
「あなた、そんなに強いのにどうして兵士なんかになったの?」
道中、リーダーは僕の目をまっすぐ見て聞く。
どうしてだろうか。
僕の最初の目的は、戦争を終わらせる事だった。
でもこの先遣部隊ではあまりそんな未来が見えてこない。
「戦争を終わらせようと思ってですね」
正直に答える。
別に、戦争が終わるならば敵であろうと味方であろうと戦力が無くなれば勝手に戦争は終わるはずだ。
「っぷ!っはは!あんた馬鹿でしょ!適正も無いくせに!」
「適正なんて関係ないですよ。そんな思い込みは、最強に至る足かせにしかならない」
リーダーは、はっとした顔で僕の顔を覗き込む。
「あんたそれ本気で言ってんの?」
「本気も何も・・・」
当たり前の事じゃないか。
そう言おうとした時、
「なに・・・?あれ・・・?」
空から城が現れた。
天空の城だ。
日の光に照らされて美しく、妖しく浮かんでいる。
そして、その城から一人の魔物が目の前に降りてくる。
「やっと見つけました。大魔王様」
魔王君だ。
相変わらず綺麗な翼だ。
「やあ、魔王君。どうしたの?」
その光景を見て、リーダーは口をあんぐりと開けている。
「あ、あ・・・・、あんたって・・・」
震える声で何かを言おうとしている。
「大魔王様、この度、王都の支配を獲得致しました」
「そうなんだ」
良かったね。
そう言えば、ダークリベリオンのみんなはどうしてるんだろう。
「王都の秘密組織、ダークリベリオンと同盟関係を結び、彼女たちに代わりに支配をしていただくことになりました」
「うむ・・・」
また、僕の知らないところで勝手に話が進んでいる。
正直ちょっとだけ羨ましいけど、皆が楽しいならそれが一番だ。
「それで・・・、次に征服する国をどうするべきか助言を頂きに来たのですが・・・」
「そうだねえ」
次に征服する国。
どうしようかな。
東のイーレシア帝国か、北のノースガルド共和国か。
「北の国なんかどう?」
「北の国ですね。かしこまりました」
「次は別に敵は殺しちゃってもいいからね」
「・・・わかりました」
これで北の国はじきに滅ぶだろう。
「あ、そうそう。これをダークリベリオンの人に渡しといて欲しいんだけど」
僕は先日ドラゴンの体の中から出てきた魔力の纏った本を取り出す。
「たまたま拾ってね。たぶん研究した方がいいと思うから」
実の事を言うと、荷物になっていたのだ。
お金とか食料とかテントとか、荷物は必要なものが増えてしまっている。
少しでも邪魔なものは減らしておきたかった。
「本・・・ですか?かしこまりました」
「じゃあ、よろしくね」
「はい!では、これで」
魔王君は優雅に飛び去って行く。
「・・・あなた、本当に何者なの?」
完全に空気になっていたリーダーに話しかけられる。
「僕はただの人間ですよ。さて、先を急ぎましょう」
「本当に人間かどうかすら怪しいわ。ま、別にいいけど」
僕らは歩き始める。
次の目的地へ。
*
案の定、砦は見るも無残な状況になっていた。
詰みあがる瓦礫と死体の山。
「それで、これを見に来て何をするんですか?」
「さあ、分からないわ。ただ、連絡が付かなくなったから様子を見てこいとだけ」
じゃあこれで任務完了だな。
「任務も終わったことだし帰りますか!」
僕は跳んで帰ろうとする。
「あ、そうそう。さっきの話。誰かに話したら殺すから」
口止めは一応しておこう。
念のため。
そんな僕を見て彼女は、
「・・・わかったわ」
何かを覚悟した顔で、そう呟いた。
この国も、敵がいなくなったらどうするんだろう。
北の国ノースガルド共和国は魔王君の力で一瞬で敗北してしまうだろうし。
まあ、その時はその時考えよう。
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