殺害予告

 僕が魔王として勇者の前に現れた時から一週間くらい経った。


 今は合同演習中。


 僕は、レイ先生と剣を交えている。


 僕が魔王として先生の 僕が魔王として勇者の前に現れた時から一週間くらい経った。


 今は合同演習中。

 僕は、レイ先生と剣を交えている。


 僕が魔王として先生の前に登場してしまったからだろうか。

 この学園内では、魔王が復活したという話題で持ちきりだ。そして、街中でも。

 まあ、僕の中ではいずれ魔王が登場する予定だったのだ。

 別に驚くことはない。


 そういえば、副学園長が指名手配中のゼロだったらしい。

 なんか騎士団の人に連行されていってた。

 かわいそうに。

 通報したのは誰だろうか。

 というか通報しても証拠がないと無駄だと思うんだが。

 まあいい。どうせ彼はゼロではないのだ。

 そのうち釈放されるだろう。


 それと、勇者のヒロと魔剣士のコザはいつの間にか仲直りしていた。

 今考えると、別に僕が動かなくても勝手に仲直りしてたんじゃなかろうか。

 なんせ彼らはまだ若い。

 若さというのはそれだけで大きな力を持つのだ。

 そして、相手を許す。ということにも大きな力を必要とする。

 若いというだけで、相手を許すというのは容易になる。

 つまり、僕は何もする必要がなかった。ということだ。


 そうに違いない。


「っ!」


 考え事をしているうちに、レイ先生の剣が目の前に迫る。

 レイ先生の攻撃パターンにも、もう慣れてきた。

 先生には申し訳ないが、音と気配だけで剣を避けることは簡単になってしまった。


「こんなときに考え事とは、余裕だね!」


 レイ先生の剣は、もう僕に届くことはない。

 僕は軽いステップで先生の剣を避け、反撃に転じる。

 だが、


「君には、速さが足りないね!」


 僕の剣は先生へと届かない。

 まさに先生の言うとおりだ。

 僕の剣は遅い。


 魔力の使用禁止。全身に100キロ以上の重りをつけているとはいえ、僕の剣は遅いのだ。

 僕には、筋力がまだまだ足りない。


「先生こそ!」


 僕はつい熱くなり、剣が大振りになる。

 先生に向かっていた剣はいとも簡単に避けられる。

 そして、


「僕の勝ち。だね」


 生まれて初めて負けた。

 僕はその瞬間自分の半生を恥じた。

 自分は今まで何をしてきたのか。自分は今まで何の為に生きてきたのか。自分は今まで・・・。


「・・・っ!・・・参りました・・・」


 僕は敗北した。

 その事実を再認識して、冷静になってくる。

 あれ?マリア王女にも負けたよね?


「もう一戦、お願いします!」


 よく考えれば、僕は無敗の人間を目指しているわけではないのだ。

 弱くたっていいじゃない。

 だって、司書なんだもの。


 僕は、魔力を少しだけ解放して、レイ先生をボコボコにするのだった。


*

 ああ!リダ君!どうしてあなたはリダ君なの!


 私は合同演習で初めてリダ君の戦う姿を見た気がする。

 前にも合同演習があったが彼の存在には気が付かなかった。

 私は王女として、勉強にも武道にも全身全霊で挑んできた。

 だから、その人の戦いを見れば、どんな戦いであっても、その人の力量が分かるのだ。


 ただ、リダ君だけは違う。


 よくわからない。


 この言葉しか出てこなかった。

 リダ君はずっとレイ先生と戦っているのだが、ずっと見ていると睨み合いの時間が長い。

 あまりにも、長い。

 そして急にどちらかが動いたかと思うと、また距離をとってにらみ合う。


 リダ君の動きは遅い。

 誰でも目で追えるスピードで動いている。

 だが、レイ先生の動きは早い。

 私ですら見失うことがあるのだ。


 ただ、レイ先生の攻撃はリダ君には一度も届いていない。

 かといって、リダ君が反撃したかと思うと、その剣は余りにも遅い。

 まるで、100キロ以上の重りをつけているような、そんな重たそうな動き。

 ぱっと見、レイ先生の方が強く見えるかもしれない。


 しかし、状況は互角。

 そんな、不釣り合いの攻防を、私ずっと目で追っていた。


「こんな時によそ見か?王女様」


 私がリダ君を見ていると、勇者のヒロが切りかかってくる。


「うるさい!」


 私は勇者の剣を弾く。


「何を見ていたんだ?もしかしてリダか?」


 私の心臓が跳ね上がる。

 前方を見ると、勇者がニヤニヤとこちらをうかがっている。

 私の中に、イライラとした感情が燃え始める。

 そして、同時に恥ずかしさが湧き上がってくる。


「死ね!」


 私は勇者へと切りかかる。


「おっと!」


 勇者はひらりと私の剣を避けて距離をとる。


「よかったら手伝ってあげようか?リダは親友だし」


 勇者が張り付けたような笑顔で言ってくる。


「なんのこと?あなたには関係ないでしょ!」

「関係なくなんかないよ。リダは親友だ」


 勇者を何度も切りつける。すべて避けられたが。


「よかったら僕が、王女様とリダがくっつけるようにお手伝いしてあげるよ?」


 罠だと思った。ただ、罠だと思っていても引っかからなければならない時が、乙女にはあるのだ。


「条件は?」


 私は勇者の腕を掴み、聞く。

 全力で握って、押さえつける。


「条件?そんなのいらないよ。リダは親友だし」

「えっ?」


 私は力が抜け、勇者に剣を弾かれる。


「僕に任せてよ、王女様」


 尻もちをついていた私に、勇者が笑顔で手を差し伸べる。


「失敗したら、殺すから」


 私は手を取る。


「ははっ。末恐ろしいな」


 勇者は私の手を引く。

 本当にこの勇者は気に入らない。


*

 魔力を解放した僕は、たぶん興奮していたのだろう。

 気が付いたらレイ先生が気絶していた。


 何を言っているか分からないと思うが、少なくとも周りの人から見たらそんな感じだろう。

 僕の動きを目で追えた人はこの場所にはいない。レイ先生自身も、なにが起こったのか分からないだろう。

 だから、レイ先生が気絶した理由も、誰も分からないはずだ。


 確認のため周囲を見渡す。

 誰もこちらを見ていない。

 一瞬の出来事だったしな。


「ん?」


 ふと、勇者と王女様が目に入る。

 勇者のヒロが、王女様に手を差し伸べて起こしてあげている。


「なるほど・・・」


 そういうことか・・・。


 最初は嫌いだった相手がいつの間にか好きな相手になる。

 恋愛漫画ではよくある展開だ。


 僕は彼らの行く末をそっと応援しようではないか。


前に登場してしまったからだろうか。


 この学園内では、魔王が復活したという話題で持ちきりだ。そして、街中でも。


 まあ、僕の中ではいずれ魔王が登場する予定だったのだ。


 別に驚くことはない。


 そういえば、副学園長が指名手配中のゼロだったらしい。


 なんか騎士団の人に連行されていってた。


 かわいそうに。


 通報したのは誰だろうか。


 というか通報しても証拠がないと無駄だと思うんだが。


 まあいい。どうせ彼はゼロではないのだ。


 そのうち釈放されるだろう。


 それと、勇者のヒロと魔剣士のコザはいつの間にか仲直りしていた。


 今考えると、別に僕が動かなくても勝手に仲直りしてたんじゃなかろうか。


 なんせ彼らはまだ若い。


 若さというのはそれだけで大きな力を持つのだ。


 そして、相手を許す。ということにも大きな力を必要とする。


 若いというだけで、相手を許すというのは容易になる。


 つまり、僕は何もする必要がなかった。ということだ。


 そうに違いない。


「っ!」


 考え事をしているうちに、レイ先生の剣が目の前に迫る。


 レイ先生の攻撃パターンにも、もう慣れてきた。


 先生には申し訳ないが、音と気配だけで剣を避けることは簡単になってしまった。


「こんなときに考え事とは、余裕だね!」


 レイ先生の剣は、もう僕に届くことはない。


 僕は軽いステップで先生の剣を避け、反撃に転じる。


 だが、


「君には、速さが足りないね!」


 僕の剣は先生へと届かない。


 まさに先生の言うとおりだ。


 僕の剣は遅い。


 魔力の使用禁止。全身に100キロ以上の重りをつけているとはいえ、僕の剣は遅いのだ。


 僕には、筋力がまだまだ足りない。


「先生こそ!」


 僕はつい熱くなり、剣が大振りになる。


 先生に向かっていた剣はいとも簡単に避けられる。


 そして、


「僕の勝ち。だね」


 生まれて初めて負けた。


 僕はその瞬間自分の半生を恥じた。


 自分は今まで何をしてきたのか。自分は今まで何の為に生きてきたのか。自分は今まで・・・。


「・・・っ!・・・参りました・・・」


 僕は敗北した。


 その事実を再認識して、冷静になってくる。


 あれ?マリア王女にも負けたよね?


「もう一戦、お願いします!」


 よく考えれば、僕は無敗の人間を目指しているわけではないのだ。


 弱くたっていいじゃない。


 だって、司書なんだもの。


 僕は、魔力を少しだけ解放して、レイ先生をボコボコにするのだった。


*

 ああ!リダ君!どうしてあなたはリダ君なの!


 私は合同演習で初めてリダ君の戦う姿を見た気がする。


 前にも合同演習があったが彼の存在には気が付かなかった。


 私は王女として、勉強にも武道にも全身全霊で挑んできた。


 だから、その人の戦いを見れば、どんな戦いであっても、その人の力量が分かるのだ。


 ただ、リダ君だけは違う。


 よくわからない。


 この言葉しか出てこなかった。


 リダ君はずっとレイ先生と戦っているのだが、ずっと見ていると睨み合いの時間が長い。


 あまりにも、長い。


 そして急にどちらかが動いたかと思うと、また距離をとってにらみ合う。


 リダ君の動きは遅い。


 誰でも目で追えるスピードで動いている。


 だが、レイ先生の動きは早い。


 私ですら見失うことがあるのだ。


 ただ、レイ先生の攻撃はリダ君には一度も届いていない。


 かといって、リダ君が反撃したかと思うと、その剣は余りにも遅い。


 まるで、100キロ以上の重りをつけているような、そんな重たそうな動き。


 ぱっと見、レイ先生の方が強く見えるかもしれない。


 しかし、状況は互角。


 そんな、不釣り合いの攻防を、私ずっと目で追っていた。


「こんな時によそ見か?王女様」


 私がリダ君を見ていると、勇者のヒロが切りかかってくる。


「うるさい!」


 私は勇者の剣を弾く。


「何を見ていたんだ?もしかしてリダか?」


 私の心臓が跳ね上がる。


 前方を見ると、勇者がニヤニヤとこちらをうかがっている。


 私の中に、イライラとした感情が燃え始める。


 そして、同時に恥ずかしさが湧き上がってくる。


「死ね!」


 私は勇者へと切りかかる。


「おっと!」


 勇者はひらりと私の剣を避けて距離をとる。


「よかったら手伝ってあげようか?リダは親友だし」


 勇者が張り付けたような笑顔で言ってくる。


「なんのこと?あなたには関係ないでしょ!」


「関係なくなんかないよ。リダは親友だ」


 勇者を何度も切りつける。すべて避けられたが。


「よかったら僕が、王女様とリダがくっつけるようにお手伝いしてあげるよ?」


 罠だと思った。ただ、罠だと思っていても引っかからなければならない時が、乙女にはあるのだ。


「条件は?」


 私は勇者の腕を掴み、聞く。


 全力で握って、押さえつける。


「条件?そんなのいらないよ。リダは親友だし」


「えっ?」


 私は力が抜け、勇者に剣を弾かれる。


「僕に任せてよ、王女様」


 尻もちをついていた私に、勇者が笑顔で手を差し伸べる。


「失敗したら、殺すから」


 私は手を取る。


「ははっ。末恐ろしいな」


 勇者は私の手を引く。


 本当にこの勇者は気に入らない。


*

 魔力を解放した僕は、たぶん興奮していたのだろう。


 気が付いたらレイ先生が気絶していた。


 何を言っているか分からないと思うが、少なくとも周りの人から見たらそんな感じだろう。


 僕の動きを目で追えた人はこの場所にはいない。レイ先生自身も、なにが起こったのか分からないだろう。


 だから、レイ先生が気絶した理由も、誰も分からないはずだ。


 確認のため周囲を見渡す。


 誰もこちらを見ていない。


 一瞬の出来事だったしな。


「ん?」


 ふと、勇者と王女様が目に入る。


 勇者のヒロが、王女様に手を差し伸べて起こしてあげている。


「なるほど・・・」


 そういうことか・・・。


 最初は嫌いだった相手がいつの間にか好きな相手になる。


 恋愛漫画ではよくある展開だ。


 僕は彼らの行く末をそっと応援しようではないか。


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