ワスラ火山地区

黒猫、暗闇の邂逅

 ……………………。


 や、やっちゃったものはしょうがないよネ!!

 温泉の流れみたいなのは死んでないし、大丈夫。


[魔物除け建物結界]の巻物を使うと、あっさりと土台付きの土地ができた。

 三叉北の店よりも少し大きい。テントを張ってちょっと余るくらい。っていうか、こんな広く切り拓いたんだし、もっと大きい土台にすればよかった!

 でも、まずは[位置記憶]の魔法を。記憶石には『ワスラ火山地区』と記憶されていた。

 ポストにはこう書かれている。


 所有者:ミユナ・アマリ

 土地:国領 ワスラ火山地区

 税:0

 土地結界:正規

 建物名称:ミユナ・アマリの家[非公開]


 土地に領の名前がなく、国領だけなのが不思議。こんな山の中じゃ治める領主もいないってことなのかもしれない。


 できればここにテント張っていろいろしたいんだけど、生活するにあたって水場が必要な気がする。トイレとかお風呂とか。

 シャワー室やトイレに使える、水の浄化循環魔法陣は見本帳にあるんだよ。でも、いきなりそこに作るわけにいかない。温泉は最悪めっちゃ露天風呂と思えば許せないこともないけど、青空トイレとかさ……人いないし、いいか! ってなるわけない。断じてない。


 テント買ってこようかな。トイレ用テントがあればいいかも。

 マルーニャデンに[転移]して、管理局の近くの道具屋へ行った。

 前に買ったのと同じテントを買って、寝袋の中でくるまる暖かそうな毛布も買って、近くのパン屋でパン買って、ついでに管理局で早めの夕ごはんを食べて戻るとそろそろ空がオレンジ色になってきていた。


 暗くなってくると、青空トイレもそんなに気にならないような気がして……。いや! イカン! そこは女子として! 最低限!


 [暗視]の魔法をかけて、作業をする。

 まずは小さい土地(馬一頭分)用の[魔物除け建物結界]を敷く。

 トイレ用の水を流して浄化してまた流す水にする魔法陣を書いて使ったけど、魔法陣は展開されなかった。


 ――――やっぱり、これ単品ではダメなんだ。

 書きながらそうじゃないかとは思っていたんだけど、循環する部分だけの魔法陣だから。

 日本のトイレみたいな水を貯めるタンクはいらない。洋式トイレみたいな形で水がぐるっとまわる感じになればいいんだよね…………。

 土台と同じ土を使って、トムじいのうちの床みたいに樹脂コーティングで、洋式トイレ風なの作ってみたらどうだろう。


 空札を取り出して丸を書き、四大精霊へのご挨拶文を外円に書き込む。

 土を固い粘土にする術組立て文を書いて、形の説明…………う?! 形の説明?! あれってどういう形?!

 スライムを逆さにしたような……穴が開いてないな。洗面器の鼻の長いやつ……なんか違うな。じょうろを傾けたような? ん、じょうろ? じょうご? だったかな……? あの口の小さいビンに液体入れる時につかうやつ。あれの形でだいたいあってる!

 じゃ、って書いてみよ。

 大きさは馬五分の一頭分くらい……なんでも馬スケールってどうなのよとは自分でも思ってるけど。他にわかる単位がもっと大きいフィルドだからなぁ……。

 とりあえずこれでよし。

 術終了。[札封]。


 魔力を込めると[創水洗所・特殊]という札ができたから使ってみると、まぁカンペキなトイレですよ! 他のところで見たトイレと同じものがちゃんとできていた。

 先に書いておいた水の[浄化循環魔法陣]も展開。

 これで無事に上下水道のいらない無限トイレできあがりました!

 嗚呼ああ、自分の才能が怖い……!!

 ここで暮らす心配がなくなったも同然。


 とりあえず暗くなってきたことだし、寝よう。砦の宿はチェックアウトしてきたので、今晩からここが私の住処すみか

 寝る用テントの中に入り魔法陣の見本帳を眺めながらウトウトしていると、何かが近づいてくる気配があった。


 一瞬で覚醒する。

 脳裏を横切るのは、ひたひたと近づいてくる悪意の足音。あの時を思い出してしまう。

 な……なに…………。こんなところに誰が――――? 前と同じように寝袋の中で息を殺して固まっていると、外から男の声が聞こえた。


「……す……すみません……。あの……通りすがりの魔王ですが、泊めていただけませんか……」


「そんなアヤシイ生き物誰が泊めるかぁっ!!」


 即座にツッコんだね。

 間髪おかなかったね。

 通りすがりの魔王ってなんだ!! アヤシイにもほどがあるわ!!


 私は寝袋に入ったまま、テントの入り口から覗いた。

[暗視]がかかったままの目には、夜でもはっきり見える。土台の外にうずくまる金髪の男の人が見えた。背中にコウモリみたいな羽根が付いている。


 コウモリ人? そんな獣人もいるんだ。もしかして飛べるのかな。飛べるならちょっとうらやましいぞ。

 とか観察していると、そのコウモリ人の様子がおかしいことにやっと気付いた。

 あれ、なんか今にも死にそう……?


「……コウモリ、大丈夫? どっか悪いのニャ?」


「……コウモリ、違う……さっき……木の嵐に巻き込まれて……羽根とかあちこちちょっと折れたみたいで…………」


 木の嵐?

 大量の木が暴風でぐるぐるしてるってこと……? コワっ!! 異世界ってコワ不思議過ぎない?!


「……飛ばされてきた木の先に……こんな平和な楽園があったなんて……もしやここは天国……」


 飛ばされてきた木の先…………。

 その言葉になんとなく心当たりがあった。

 ――――[無土・特殊]。あの魔法札を使った時、光が広がり木を消し去っていたけれども、その木はどこに行ったかというと――――……まさか。


「……うっ……意識が……薄れて……すみませんが……国に魔王は亡くなったと伝え……て…………」


 とうとう、どさりとコウモリ男は倒れた。


「うにゃぁぁぁぁ!!!! コウモリごめんっっっっ!!!!  今助けるニャ!!!!」


 私は慌てて寝袋から飛び出した。





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