黒猫、正義の刃と復讐と


 よっぽど慌てていたらしい。[転移]先を間違えた。

 あぅぅ、管理局に来ちゃったよ……。

[転移]して見えるはずの景色が見えなくて一瞬混乱したけど、すぐに遠くない場所だとわかった。魔法ギルドまで歩いていけばいいや。


 小さい前庭の隅から道へ出ようとした時、ヒヨコ色が横切って行った。


 ――――!!


 私はぎくりと立ち止まる。

 けど、なんか怖さより腹立たしさの方が勝った。


 ルベさんみたいに、大変なことがあってもちゃんとがんばっている人もいるというのに……ヒヨコ頭はギルドの職員で安全なクセにあんなことをしやがって、どういうつもりだ――――!


 文句の一つでも言ってやる! そう思って、ヒヨコ色の後をつけると、やっぱりヒヨコ頭のアイツ本人だ。魔法ギルドの方から歩いて来て管理局前を横切り、細い路地へと入って行った。

 念のため〈存在質量〉のスキルを使っておく。


 通りには、古い小さい家が立ち並んでいる。こんなところに何があるんだろう。

 病気の母親が住んでる家に帰るところとかだったら、どうしよう。そんなんじゃ許しちゃうかもしれない。


 一軒の古い家へヒヨコ頭は入って行った。

 扉はちゃんと閉まらないらしく、隙間から明かりと声が漏れていた。


「――――お前ら、ちゃんと書いていたか?」


「「「……はい」」」


「どれ、見せてみろ……全然だめだ。こんなのに金は払えないぞ」


「……でも……ちゃ、ちゃんと書きました……」


「まともに書けないくせに、口ごたえか?! 罰を与えるぞ!」


 ああっ……と声が聞こえ、がまんできずに私は家の中へ飛び込んだ。


「ゴラ待て!!!! ヒヨコ!!」


 ヒヨコ頭のコニーさん……や、コニーが、こっちを見てぎょっとした。

 左手は小さな子の腕を掴んでいる。

 周りを見れば、みんな管理局で見かけたことのある子たちばかりだ。


「おまえ……! いなくなったんじゃ……?!」


「おあいにくさまニャ! おのれの悪事を裁くために地獄からよみがえってきたニャ!!」


 偶然見かけただけだけど! 見かけてよかった! エライ! 自分!


「私の目はごまかせないニャ! その子たちに魔法札を書かせて、自分の財布にお金を入れてたニャ?!」


 コニーはうろたえたものの、すぐに立て直して笑みを浮かべた。


「…………で? そうだったとして、どうしようっていうんだ? 訴えるか? ギルド職員の俺の方が信用はあるし、トレッサさんだって信じると思うがな!」


 師匠は間違いなく私を信じるね。

 が。


「なんでそんな正当な方法で裁いてもらえると思ってるニャ? ヒヨコ頭はこんな悪事を働くクセに人がいいことよ……。ククク……」


 私はゆっくりと近づき、コニーの腕を取った。


「なっ……何を……?」


 慌てて振りほどこうとして、左手が子どもを放した。


「[同様動ダスチェフォロー][転移アリターン]!!」


「や、やめ――ろ――……」


 抵抗するなら魔量勝負となる。

 私に勝てるわけない!!


「[創風紐マエアホールド]!!」


[転移]してすぐに動きを封じた。


「おい!! 放せ!!!! ここどこだ!!!!」


 炊事場近くへ突然現れた私たちに、魔王とルベさんが駆け寄ってくる。


「黒猫! どうしたの?! ん? コニーさん……?」


「ミュナ様! その男は?!」


 まったくこの急いでいる時に……!! この男、本当に腹立たしいよね!!

 私は説明する間も惜しくて、コニーが身につけていた魔法鞄と魔粒入れを取り上げてから、顔の近くへしゃがみこんだ。


「……あの時、どういうつもりで私に近づいたニャ……?」


「……クソ。魔法がヘタな獣人のくせに[転移]の魔法札を書いたって言うからだよ! 生意気なんだよ! ちょっと痛い目に合わせて嫌がらせしてやろうと思ったんだ! 案の定出ていきやがったじゃねーか。けっ。ざまあみろ」


 ゆらぁと背後から殺気が二つ立ち上ったのがわかりましたよ。


「コニー……貴様、黒猫に何をした……」


「締めちゃっていいっすね。魔王様、焼いちゃっていいっすよね」


 私はにっこりと地面に転がっている男に笑いかけた。


「ここがどこかって? ここはワスラ火山地区の最深部『黒猫国』だよ。自力で帰れるもんなら帰るがいいよ。この荷物はトレッサ師匠に預けておいてあげるから。優しい黒猫でよかったニャ? ――――じゃ、あとはよろしく」


 二人のおまかせくださいという言葉を聞きながら、またマルーニャデンへと戻って行った。


 まずは古家へ行き、子供たちを管理局へ帰した。そして明日からは魔法ギルドへ行くように言う。子どもたちは不安そうな顔をしていたけど、ピンクの髪のおもしろいおばあちゃんが書写を教えてくれるよと言うと、少しだけ笑顔を見せた。



 元々の目的地、魔法ギルドへ着くころには、空は真っ暗闇で。トレッサ師匠はもう帰っちゃっていなかった。そりゃそーだ。


 書写室へ入り、魔法陣の資料や古い本などを引っ張り出して机に積む。

 なんか手がかりを探そう。

 召喚魔法について。魔人国にあった魔法陣について。魔法に対抗できる方法について。


 召喚魔法については、私もゴーレムを作り出す時に使った四大元素エレメンタルの召喚しか書いてなかった。私的にはあれは召喚とは断じて認めないけどね。

 魔人国の魔法陣については全く手掛かりなし。


 魔法に対抗できる方法は、いくつかある。[対魔盾]は魔法攻撃を防いでくれるけど、魔量をそこそこ使うからずーっと使いっぱなしにするのはむずかしい。[対魔壁]はさらに大量の魔量を使う。


 そうだよ。だから、魔法陣なんだよ。個人で使い続けるのはむずかしいもの。

 ちゃんと自然にある魔素と四大元素の気を使って、循環させる組立て文が書ければ魔量も資源も使わずに維持できるから。


 でもそんな召喚魔法を阻害する魔法陣なんて載ってないよ!

 眠気もマックス。寝袋の中から手を出して本を読むありさまだ。


 うう……もう寝ちゃう……。師匠、トレッサ師匠……、早く来ないかなぁ…………。





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