黒猫、打開策


「……おや、ミュナかい。ここで寝てるの久しぶりじゃないか」


「んー……ししょー……」


 …………遠くで師匠の声が聞こえる…………。んー…………師匠!?


 瞬時に覚醒して、寝袋から飛び出た。


「し、師匠ーー!! 助けてぇーー!!」


「なんだいなんだい。ちょっと落ち着いてごらん」


「落ち着いてられないの! 明日には成人になっちゃうから!!」


 落ち着かないと余計に時間がかかるよと言われ、ちょっとだけ冷静になった。それから師匠には話をした。魔人は成人したら召喚されてしまうのだと。

 友人の魔人が召喚されないようにするにはどうしたらいいかと私が聞くと、師匠は首をひねった。


「あたしゃ魔法界隈に長くいるがね、魔人を召喚する魔法なんて聞いたことないね」


「えっ、そうなんですニャ?」


「ああ。召喚魔法なんてのは召喚と言っているだけで、実際は操り人形のようなものだからね。四大元素エレメンタルを使ったものか、むくろを使ったものかどちらかしかないよ」


「でも、魔人の国はどんどん召喚されて誰もいなくなっちゃってるんですよ」


 そうかい……と師匠は深刻そうな顔をした。魔法に詳しい師匠が知らないって言うなら、本当におおやけには存在しない魔法だということなのだろう。


「召喚魔法はこの際おいておいて、その魔人の子をどうするかだけ考えた方がいいね。一つ有効な魔法陣があるよ。不便ではあるけどね」


「なんですニャ?! ちょっとの不便ならガマンします!!」


「あんたたちも不便だろうけど、その子が一番不便だろうね。町に守られているということは、他の町に行けないからね」


 ああ、やっぱり町に魔法陣を書くってことか。


「便利な方法はこれから探すとして、とりあえずの方法教えてください!!」


「魔法を使えなくする魔法陣があるんだよ」


 魔法を使えなくする……?


「簡単なものは使える。具体的には生活魔法と言われる初級魔法だね。それだけは簡単なゆえに使えるがね、中級上級魔法は使えない。[位置記憶]も[転移]も[治癒]も使えなくなるよ」


「ずいぶん安全な結界ですニャ……。攻撃魔法も使えなくなるってことですニャ?」


「そうだよ。この魔法陣は唯一王城ロイヤルキャッスルで使われているものさね。写しの巻物を見せてやるかね」


 王城!! 王城と同じ結界とかかっこいい!!!!


「見てもいいんですニャ?!」


「ああ、いいよ。この魔法陣は危険もないし正統な魔法陣だからなんの問題もない。ただね、使い道が限られているのと魔量がとんでもなくかかるから、一般的な魔法陣の類には入れてないのさ」


「魔量すごいですニャ?」


「たしか十万だったかね。普通の魔書師サークルライターなら五十人がかりだよ。コニーは魔量が多いから、来たら手伝わせようかね」


 あっ……。コニーは来ません……。

 私は魔法鞄からコニーの荷物を取り出し、師匠に昨日見たことを話した。

 師匠はふんふんと聞いたかと思うと「あの愚かもんは……」と、ため息をついた。


「コニーは一応休職にしておくかね。そして子どもたちが来るんだね。あたしが責任持って教えるよ。ありがとよ、ミュナ。――巻物を持ってくるからちょっと待っておいで」


 そう言って、トレッサ師匠は部屋を出ていった。

 その間に寝袋を片付けて、自分に清浄かけて、果実水をごくごくと飲む。

 準備ヨシ。

 王城の魔法陣よ。どっからでもかかってくるがいい……ククク……。




 ふー。書き終わった!

 術組立て文の中に、何があっても力を貸さないでくれという珍しい精霊へのお願い文が入っていた。それ以外はそんなに難しいところはなかった。

 あ、あとランデスっていう新しい単位を覚えたよ! 馬やフィルドよりも大きい単位っぽい。


 書き写している間に、ちびっ子たちがやってきて、真剣に魔法札を書いていた。

 教えている師匠はずっと目尻が下がりっぱなしだった。


「師匠、見てもらってもいいですニャ……?」


 魔力を入れてから間違ってたってわかっても遅いんだ。なんせ、この魔法陣は使用魔量が十万。普通なら何人かの人たちが何日もかけて魔力を入れるって言ってた。


「――――ふんふん……。よし、だいじょうぶそうだね。あとはあの子に回復液を作らせて……そうだ、あの子も魔量が多いみたいだし、手伝わせるといい」


「あの子? あの子って誰ですニャ?」


「ほらあの金髪のケイシーだよ。あたしに調合習いに来てる。あの子はえらい美青年だねぇ。あんたといっしょに暮してるって聞いたよ」


 ケイシー……? 金髪美青年……? 誰?

 師匠に調合を習っているというので、一人頭に思い浮かんだ。そういえば最近「調合調合」って浮かれている生き物がいた! 魔王の名前か!!

 って言うかいっしょに暮してるって、なんか意味がチガウと思う。


「まお……じゃなくて、ヤツも魔量多いんだ。よかった」


「あたしの魔力も少しあげようかね」


 そう言って、師匠は巻物を握って魔力を入れてくれた。


「……ありがとう、師匠」


「コニーも魔量が多いから使いな。――あの子もね、年上にはそうでもないんだけど、魔量が多いのを鼻にかけてるところはあったからね。いい薬になったかもしれないね。殺さない程度に鍛えてやっておくれ」


 めんどうみるのは、ごめんなんですけど……。私は仕方なくうなづいた。


「では行きます、師匠。なんかあったらまたきますニャ」


 部屋を出ようとすると、ちびっこの一人が、


「あっ、おねえちゃん! 昨日はありがとう!」


 と、言った。

 腕をつかまれてた子だ。

 そう言われるとなんかテレちゃって、私は変な方を向いて手を振った。


「が、がんばってニャ……」


「「「かわいい……」」」


 ……締まらないぃぃぃ……!

 お姉さんっぽくかっこよく決めたかったのに!!

 逃げるように部屋を出て、黒猫国へと[転移]した。





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