黒猫、黒き血の覚醒
「ただいま」
「黒猫! おかえり! だいじょうぶ? ちゃんと寝た? ごはん食べた?」
魔王が飛んできて、心配そうに顔を覗き込む。
ごはん……と思ったらグギューとお腹が鳴った。
「あ……」
「すぐ作るから、ちょっと待ってて」
魔王は笑って、炊事場へ向かっていった。
ルベさんは見当たらない。コニーも見当たらない。
「魔王、ルベさんは?」
「コニーが逃げようとしてたから、ついていったよ。一人で丸腰じゃ危ないからって」
魔人たちのなんと優しいことよ。
あんなの放っておけばいいのに!
はいどうぞと、出してもらったのは野菜スープとチーズトースト。あっ! 野菜スープ、コショウが入ってる! ウマー!
「あのね、魔王。魔力がいるんだけど、わけてくれる?」
もぐもぐと食べながら、巻物を取り出す。お行儀悪くてごめん。
「うん、いいよ。俺、魔力多いからいっぱいあげるよ。回復薬も作った分出しておくね」
「ありがとう。せっかく作った回復薬なのに悪いニャ。――――これ持って魔力込めて。倒れない程度でいいからニャ。魔力なくなると意識なくすらしいから」
「わかった」
魔王は恐る恐る巻物を持った。じーっと固まっているのは、きっと魔力を入れてくれているのだと思う。見てるだけじゃわかんないな。
「ルベさんも魔人だしきっと多いんだよニャ。あとはコニーにも出させるニャ」
二人と師匠を3000の計算で、9000。魔王は4000くらいあるのかな?
で、私が45000だから58000。
魔王の回復薬と時間経過で回復する自然回復でどのくらい回復するか。他の人たちにも回復次第入れてもらえばギリ間に合うかな。
あっ、向こうの方に人影が。歩いている人と飛んでいる人がいる。ププッ。コニー、諦めたのか。
ルベさんは、私がいるのに気付いてさーっと飛んで来た。
「ミュナ様! おかえりなさい! あたしのせいでごめんなさい!」
「ルベさんのせいじゃないよ。ちょっと不便になるけど、とりあえず魔法が使えなくなる結界を作ることにしたよ。たくさん魔力使うから、魔王の後にルベさんも魔力入れてくれる?」
「もちろんです! ありがとうございます、ミュナ様……」
「お礼も泣くのもまだ早いの! 成功したらニャ!」
はい。とルベさんは泣き笑いだ。
魔王が巻物をルベさんに渡す。ルベさんはひとつ深呼吸して魔力を入れ始めた。
「……ぜぇぜぇ……こら、おまえ……! 一人で魔法ギルドに行ってたのかよ!」
息を切らせて走って来たコニーは、開口一番そんなことを言った。
そんな急いで聞くようなことかね?
「行ってたよ? あの子たちは師匠にちゃんと教わってるし、師匠はかわいい弟子が増えてにこにこで、ギルド内が明るくなってたニャー。もうこんな悪い職員いなくてもいいんじゃないかニャー。そうそう、荷物は師匠のとこに置いてきたから」
「くっ……。トレッサさん、なんか言ってたか……?」
ニヤリと笑ってやる。私の中の黒き血が騒ぐ……。
「私が答えるとでも? どうしてもと言うのであれば考えないこともない。しかし、その代償は高くつくぞ。キミに払えるかニャ……?」
うっ……最後が締まらないぃぃ。
「……くそっ……!」
「黒猫、悪かわいい……」
「ミュナ様、悪ぶりたいお年頃でしょうか……。かわいい……」
なんか言われている気もするけど、ルベさんから手渡された巻物をコニーに差し出す。
「これに倒れるまで魔力を入れたら、教えてあげようかニャ」
「するわけないだろ! なんで俺がそんなことしなきゃなんないんだ!」
「――――魔人はね、成人したら召喚されちゃうかもしれないんだって」
「い、いきなりなんだよ」
唐突に言われて、コニーは緑色の瞳を揺らした。
今までぬくぬくと暮らしてきたんだろうな。甘いもんなー。昨日だって、ただギルドに突き出されるんだと思い込んでたし、今も聞けば答えてくれると思ってるんだもんなー。
「召喚だよ、召喚。どこの誰かもしらないところに勝手に召喚されちゃうのって、どんな感じだと思う?」
「…………」
「いつ召喚されるんじゃないかって思いながら生きるのって、どんな気持ちだと思う?」
「…………っ」
「この巻物は、それを阻止する巻物。莫大な魔力を使うんだ」
「…………え。それってまさか王城の…………」
「そこのルベさん。さっきキミの逃亡についてってあげた魔人さんね、明日誕生日で成人迎えるんだよ」
「!」
「…………まぁ、コニーには関係ない話だったね。ほら、逃げるんじゃないの? 早く行けば?」
コニーは巻物をひったくると、両手で握りしめた。
「くそっ! 倒れるまでくれてやるよ! 約束は守れよ!!」
「約束は守るよ。ありがとニャー」
「そこでそれ言うか……反則だろ……」
コニーは本当に倒れる寸前まで魔力を入れてくれた。魔王がずぼっと口に回復液を突っ込んでいる。
最後は私が魔量空になるまで入れるよ。
手に戻ってきた巻物に魔力を込めていく。
全力で入れる――――!!
まだまだ入れている最中。
突然、巻物から魔力がパチンと切り離された。同時に金色の光がぐるりと巻物を巡る。
えっ――――?!
もう足りたってこと?!
おかしくない?! 計算が合わないよ!! どういうこと…………?!
「「「おおおおお…………!」」」
他の三人は金色に輝く巻物を見て、声を上げた。
金色の巻物は成功の証。
ルベさんに巻物を手渡した。
「これ持って、敷地の真ん中くらいで[
「……はい。わかりました……」
飛んでいく後ろ姿を見送り、私はせっせと働くゴーレムのとなりへ行って唱えた。
「――――[
ずっと向こうの方で赤い髪がふわりと広がり、ルベさんが地面に降り立つ。
そこを中心に金色の魔法陣が広がり、敷地の大半を輝かせて消えていく――――――――。
こうして王城と同じだという[無魔法結界]が、黒猫国に成された。
私にすっきりとしない何かを残して。
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