第四章 荒廃した町へと発展しよう

黒猫国

黒猫、有り余る力


 ルベさんの成人祝いは盛大に行われ(牛ステーキおいしかった!)、なぜかコニーは魔王の家に住み着き、平和な日々の黒猫国だった。


「いい加減、ミュナ様はちゃんとした家に住むべきです! 何かが襲ってきたらどうするんです! 城作るんじゃなかったんです?」


 またルベさんに怒られた。


「うーん、どうせならレンガとかで作りたいんだよニャー」


 自画自賛でアレだけど、魔王とルベさんの家は外壁も漆喰でとてもかわいい。そして、自分で作っておいてこういうこと言うのもアレなんだけど、私にはかわいすぎてハズカシー! メルヘンチック過ぎる!


 マルーニャデンの管理局や魔法ギルドは赤レンガでできているし、この世界にもレンガの技術はあるんだよ。

 あの赤レンガよりもっと、焦げ茶色とか灰色とか、いっそ黒のレンガでお城作れたらかっこいいのになー。


 パルドム茶を飲んで考えていると、向こうの方で掘っていたツッチーがとことこ近づいてきた。


「ん?! ツッチー、[無魔法結界]の中に入れるんだ?!」


 ツッチーはこくこくとうなずいた。

 ふんふん、ゴーレムは作る時だけが魔法で、あとは私の魔力と土の気を使って動いているから魔法ではないらしい。


 ツッチーはしゃべれないけど、意思疎通はできるのだ。


 で? ふんふん――――え、レンガ作れるの?! 他の四大元素の使役精霊たちもいれば作れるって?


 他の子たちを作るのは、それはまぁできると思う。やってみようかな。

 ツッチーがいつも座って穴を掘っている近くへ行く。

[無魔法結界]を使った時に、私があえて[対魔盾]で囲って無効にしていた場所だ。ようするにここらへんは中級上級魔法が使えるのだ。ルベさんは危ないから立ち入り禁止。


 見本帳をめくる手が止まる。

 ありゃー。土のゴーレムだけは土木作業とかに使うから載っているけど、他のはない。

 作業に特化したゴーレムを召喚する術組み立て文は、わかりやすく使いやすく改良され書かれている。

 けれども、本来の四大元素の召喚魔法自体は漠然としているのだ。難しくはないが、ふんわりあいまい。

 用途によるのだから、どういう人形を作って何の精霊を呼び出すかは術者がちゃんと考えろということみたいだ。


 火は火を使える子を作り出せばいいんだよね。溶岩マグマ人形とかじゃなく、火を扱える子。火を吐く感じ? ゲームのキャラでそんな子がいたっけ。


 ゴーレムを作った時のように指を差そうとして止め、魔法鞄から魔短杖を取り出した。

 ギルド会員になった時にもらったやつ、今こそ役立てよう!

 杖のおしりにしずく型の水晶が付いてて、かわいい。黒水晶とか羽根が付いてたりするともっといいのに!


 改めて杖を構えた。


「[火精霊召喚マサモンファイアエレメン]!」


 杖が差したところへ魔法陣が描かれ、炎のような球が浮かび上がった。ふわりと割れたかと思うと、ちょこんといたのはオレンジ色のふさふさの生き物だった。毛足の長い小犬みたいな形だけど、顔としっぽはトカゲとかヘビみたいだ。


「――うん? ペルーダっていう生き物の形なの? じゃ、命名『ペルリン』! よろしくね」


 ふさふさの頭をなでると、丸い目を細くして、舌をちろりと出した。


 同じように風の子を作ると、銀色の小鳥が出てきた。ワシっぽいね。フレスベルグという生き物の形なのだと言うので『フレス』と名付ける。


 水の子はわかりやすくスライムだった。じゃ『スライミー』! ホントにぷるんぷるんしてるよ。


 みんなの頭を撫でると、ツッチーが他の三匹(?)になんか言ってそれぞれ動きだした。


 ツッチーは右手で掘りながら、左手から土を出す。

 スライミーがそれの上に乗ってどろりと覆い、離れると四角い形になっていた。

 フレスは翼をばさっとはばたかせて、乾燥させていく。

 最後にペルリンがシャーっと火を吐き、焼いて完成。


 …………早っ! 驚きの早さ!

 しかも、ステキな焦げ茶色です! 荒廃感ヨシ!

 これで作った城なら住んでもいいぞ!


 喜びの舞をくるくると小躍りすると、使役精霊たちもくるくると踊った。

 それをちょっと離れたあたりで、他の三人がそれぞれが違う気持ちで見ていたのを、私は知らなかった。






 * * *



「アイツ……?!」


 ヒヨコ色頭の新米魔書師、コニーは目を剥いた。


(おかしいだろ……!! ゴーレム一体でも使役する魔量がすごいってのに、四体って、おかしいだろ!!)


 昔から「この子は魔量が多い。末は凄腕冒険者か魔法ギルドの主席」ともてはやされてきた青年は、ここで越えられない壁というものを見た。


「……すごいよねぇ、黒猫」


 となりでのほほんとそう言うのは、魔力がおかしい獣人少女に魔王と呼ばれている金髪の青年だ。


「いや、ケイシー! すごいってーか、おかしいだろ?!」


「おかしい……?」


 ケイシーはこてんと首をかしげる。


(黒猫がくるくると踊ると、周りの使役精霊たちもくるくる踊った。操り人形みたいですごい。やっぱりかわいい)


 それをギルド職員の青年はおかしいと言う。


(おかしい……? そうか、おかしいくらいかわいいってことか! 表現て奥深い!)


 ケイシーはふむとうなずいた。


「じゃぁ、おかしい!」


「ミュナ様はおかしくなんかないですっ!」


(まったく男たちときたら、わけのかわらない会話をするんですから!)


 ルベウーサはプリプリと二人を怒ったのだった。





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