黒猫、屈強なヒゲ男たちと対峙する


 絶賛レンガ工場の黒猫国。

 ゴーレムをもう一人(一体? 一匹?)作ったので、さらに作業効率アップ。

 その子は頭の上にお団子がふたつ乗っていて女の子みたいなので、ドロシーと命名した。


 ドロシーの方が掘りは得意だと言うので温泉掘り役が交代して、ツッチーは黒猫城建設の親方やってる。

 ツッチーがレンガ積んで、固めるやつ塗って、フレスが羽ばたきして乾かしている。固めるドロドロを作っているのはスライミーだ。

 上手に仕事を回してレンガ作りと城建設を進めている。

 火の使役精霊ペルリンは、私の足元でふさふさをすりすりしている。焼きの仕事が終わって、癒し係らしい。うむ、それ大事な仕事!



「――――ふぉー!! すごいのが働いてるだすなぁ!!」


「こらすげぇ!! どういう仕組みか分解してみたいだっす!!」


 ぶ、分解?!


「やめるニャ! 分解しちゃダメニャ!」


 慌てて振り向くと、私より少し小さいヒゲの人たちが立っていた。ヒゲ長い! けど、肌とかツヤツヤだし、多分、若いお兄さん。マントからのぞく腕がムキムキと屈強で、背中には大荷物を背負ってる。


「「……かわいいだす」」


「ええっと……お兄さんたち、誰かニャ? どやって来たの?」


「オイラはダースタ。そっちはドルガ。鍛冶職人だっす。ドワーフ村に帰るところだったんだっす」


「んだす。三叉のところで北に向かっていい道ができてるって聞いて、たどってきたらここに出ただす」


 このヒゲのお兄さんたちはドワーフで、聞けばマルーニャデンからドワーフの村に帰るところだったんだそうだ。


「あの道はいい道だすな! とても歩きやすかっただっす。これでだいぶ早く帰れるだっす」


「ドワーフの村、ここから近いんだ?」


「西に半日ってとこだすかね」


 結構近い。北東にある魔人国と同じくらいかな。

[転移]の魔法は使わないのか聞いてみると、ドワーフは魔法を使わないって。

 獣人も生活魔法以外はあんまり使わないって聞いてるし、魔人は魔法は使うみたいだけど飛ぶのに魔力も使うから魔法は控えめみたいだし、案外がっつり魔法を使う種族って少ないのか。


「今晩はここに泊めてもらってもいいだすか?」


「いいけど、宿とかないんだけど……」


「それはテントがあるから大丈夫だっす。途中は交代で見張りしながら休んでたで、ガーゴイル気にせずゆっくり休めるのはありがたいだすなぁ」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 ホント、ガーゴイルうっとーしいよね。


「ミュナ様ー! お客様ですか?」


 家から出てきたルベさんが、慌ててこっちへ飛んで来る。

 作業をしていたらしく、手には金づちを持ったままだ。


「うん、通りがかりのドワーフのお兄さんたち」


「通りがかり?! ここ、通りがかりますぅ?!」


「わははは。魔人の姉ちゃん、おもしろいだすなー! つーか、ここ獣人と魔人がいっしょに住んでるだか。おもしろい町だすな」


「金づち持って、何作ってただすか?」


「……ナイフですけどぉ……?」


「オイラたち、刃物作りを仕事にしてるで、作ってるところ見たいだっす!」


「ぜひぜひだっす! お礼にローカルメタルを分けるだすよ!」


「珍しい金属……?! 見ていいですぅ! ついでにちょっと教えてほしいです」


 ドワーフ村の特産金属を取引に出されて、ルベさんはころりと態度を変えた。

 盛り上がってわいわいと歩いていくのを見送る。


 ここから西へ半日ということは、ドワーフ村もワスラ火山地区にあるということだろう。ってことは、この辺でも金属が採れるんじゃないかな。


 掘り仕事をしているドロシーのところへ行って、このへんって金属採れる? と聞くと、何種類か気配があるって。北側にはすぐ山が迫っていて、そこかしこに気配はあるらしい。

 ちょっと掘ってみる? みたいに首をかしげられたので、じゃ、ちょっとだけとお願いしてみた。


 ドロシーはとてとてと森の中へ入っていき、座り込んだ。

 右手を細くしてぷすっと差すと、しばらくして左手が何かを吐き出す。


 ほうほう、これが金属なんだ?

 ごろりと落ちたこぶし大の岩のかけらみたいのには、ところどころ金色のものが見えていた。


 何回か場所を変えて、違う感じの岩がいくつか集まった。

 この辺りで採れる金属の見本らしい。

 私にはそのへんの石ころとの違いが全然わかんないなー。トムじいに見てもらおうと魔法鞄にしまいこむ。


「あ、黒猫!」


 近くへ[転移]で現れた魔王が、手を振った。

 [無魔法結界]がかかってないこのあたりに、みんな[転移]してくる。

 続いて現れたコニーも手を上げた。なんか普通にこっちに帰ってくるんだけど。もう荷物も返してもらって復職したんだから、マルーニャデンの家に帰ればいいのにと思うんだよ。


「おかえりー。あのね、魔王! 今日、お客さんがいるんだよ! ごはん多めに作れる?」


「お客さん? うん、だいじょうぶ! 食べれないものとかないかな」


「客?! こんなところにか?! どんなのだ? 変なのじゃないだろうな?!」


「ドワーフのお兄さんが二人。ドワーフ村に帰るところで、ここを見つけたって言ってた」


「……ああ、ドワーフ村ならたしかに近いな。――――ケイシー、酒のつまみみたいな料理がいいと思うぞ。あいつら酒飲みだから」


「わかった! 人数多いと腕が鳴るー!! さっそく仕込むよ」


「俺、酒買ってくる」


 戻ってきたばかりなのに、テンション上がった魔王は走って炊事場に向かい、コニーはとんぼ返りで町へ戻っていった。

 お客さんが来るとか珍しいことがあると、やっぱり楽しいよね。

 もし、ドワーフ村の方がイヤじゃなかったら、道を作るのもいいかも。




 夜は肉づくし。骨付きのスペアリブはみんな泣きながらしゃぶりついてた。だってウマ過ぎだよ! ハチミツが入ったタレがたまらん! けしからん!

 骨付きの羊肉もおいしかった! スパイシー!

 魔王の料理ヤバいよ!

 私と魔王以外はみんな成人で、ごきげんでお酒飲んでる。つまみにサイコーらしいよ。


「ウマー! ウマー!」


 骨付き肉にかじりついていると、となりの魔王がうれしそうに笑った。魔王は私たちがごはん食べてる時、いつもうれしそうな顔をしている。


「黒猫、羊気に入った? じゃ、羊飼う? 牧羊とかする?」


「ううん。飼わない……」


 だって、飼ったらかわいそうで食べられなくなるよ、絶対。


 ――――と。

 頭に手が乗せられて、ふわふわとなでられた。


「――む?」


「俺、おいしいって食べてもらうのが一番幸せだなぁ」


 魔王の料理はホントに美味しいし、黒猫の料理番になってもらうのもやぶさかじゃない。

 けど、もっとたくさんの人に知ってほしい気もする。


「じゃ、魔王レストラン作るニャ? みんなに魔王の美味しい料理を食べさせちゃう?」


 ちゃっかり聞いていたドワーフのお兄さんたちが、持っていたカップを高々と上げた。


「賛成だっす!」


「兄ちゃんの料理を食べに、遊びに来るだすよ!」


 三叉のあたりでもいいなって思ったけど、この感じだとドワーフ村とも交流持てそうだし、ここに宿屋とレストランとか建ててもいいかも!

 私は温泉掘るし、ルベさんには好きな道具を作ってもらいたいなと思うし、魔王にもやりたいことをやってほしい。


「黒猫国は、やりたいことができる国にしたいなと思う。だから魔王もやりたいことあったら言うといいよ。そして、やればいいよ」


 頭に手を乗せたままの魔王を見上げる。


「黒猫……。ありがと……」


 魔王は眉をへにゃっと下げたかと思うと、私の頭をくしゃくしゃくしゃっとかき混ぜたのだった。





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