黒猫、悲願達成
ドワーフのお兄さんたちが村へ帰る時、道を作る時用の魔法札を使った。どこまで届いたかはわからないけど、しばらくは歩きやすい道になってると思う。
レンガの家も出来上がった。使役精霊たちの仕事はホント早い。そしていい仕事をする。落ち着いたたたずまいで、とてもかわいい家なんだよ。
でも、あれ? 城の予定だったような気がするんだけど……。魔王たちが住んでる家よりは大きいけど、どう
「ミュナ様! やっと住むところできましたねぇ! 早く引っ越ししましょう!」
「えー? でもお城じゃないよ」
ルベさんは白目をむいて、この期に及んでまだそんなことを! と言った。
いや、ホント、テント気に入っちゃってさ……。
温泉近くの土台の上に張ったテントは、もちろん[無魔法結界]の外側なものだから、魔法使いたい放題。そして魔法陣でいろいろ便利にしてあるので快適なんだよ。
なんたってすっぽり納まっている感がたまらない。
ルベさんが「ちゃんとした建物に住んでくださいよぅ!」と言うのをごまかしやりすごす日々。
とうとう念願のアレが出た。
――――出た! 出た!! 温泉出たーーーー!!
高く噴き出た温泉に、私と使役精霊たちはくるくると小躍りした。
とりあえず、溶けたら困るからツッチーとドロシーはもうちょっと離れようか。え? 泥から作られたけど、もう泥じゃないからだいじょうぶ? ――――泥じゃないなら今は一体何。
「えーっとね、えーっとね、お風呂。お風呂作りたいでしょ。あと炊事場に流れるようにしたいニャ。あとできたら、町全体が温まるといいニャー」
ふんふんとツッチはうなずいて、またみんなに指示を出した。監督! よろしく頼むよ!
「黒猫、温泉出たの?!」
走ってきた魔王が「おおっ」と吹き上がっている温泉を見上げた。
「成分、どんな感じ? 料理に使えたらいいな」
「魔王は料理のことしか考えないんだニャー。成分はわかんない! でもきっといいに決まってるよ!」
「そっか、わからないかー。黒猫はかわいいなぁ。じゃ、俺が鑑定していい?」
「え、鑑定できるの?!」
「うん! 鑑定[食物]っていうのが……あっ、これ言っちゃいけないやつだった!」
「……ナニモ、キカナカッタヨ?」
「ほんと? よかった。――――効能は切り傷、打ち身、神経痛など。飲料可、胃腸に良い。なかなかいい湯みたいだよ!」
……今のは聞いててもよかったんだろうか。
「そうだ、卵! 俺、卵買ってくる! 今日のお昼は温泉卵にしよう!」
魔王はあっという間に[転移]でいなくなってしまった。
ホントに料理のことしか考えてないと思う! でもそこが魔王のいいとこ!
温泉の噴き出し口の周りを、使役精霊たちがレンガを使ってぐるりと囲み始めている。
三か所出口を作って、一つを炊事場へ通して、そこから町の外へ流す水路を作るつもりらしい。残りの二か所は横に槽を作って貯めておくようにするみたい。ちょっとうちのゴーレムすごくない?! そんなのどこで覚えてくるんだろ?!
あとはよろしくねとみんなの頭をなでなでして、私も[転移]した。
『銀胡桃』では、トムじいがなんとなくさみしげな背中で作業をしていた。
「トムじい、こんにちは」
声をかけると、トムじいははっと振り向いた。
「ミュナか。いらっしゃい。――――ルベウーサはどうしてる?」
「ルベさんは道具作ってます。ドワーフの知り合いができたから、やる気だしてるよ」
「……そうか。元気にやってるならよかった」
どっちかって言うと、そう言ってるトムじいの方が元気がない。
うちの近くで採れたこれ見て欲しいんだけど――と、黒猫国で採れた鉱石を見せる。
「――――ん? これは、珍しい金属が出そうだぞ」
「ホント?」
「ああ。預かって製錬しておいてやろう。…………本当ならルベウーサに精錬の技術も教えたかったんだがな」
技術自体はドワーフの人たちに教わってもいいんだろうけど、そういうことじゃないんだよなぁ。
「……トムじいが[転移]を使えれば、いつでも来れるけど……」
「庶民はなかなか[転移]は使えんな」
転移は一回に魔粒を三千レト分くらい使う。このくらいお金がかかるレベルの魔法を何百回と唱えないと、転移が使えるスキル値まで上がらないんだって。
だから、そこまでのスキル値にするのは、貴族やお金がある商人などじゃないとむずかしいみたい。
スキルが低いうちはスキルも上がりやすくて、初級魔法の生活魔法くらいは使っていればそのうち全部使えるくらいになるって聞いてるけど。
「あ! トムじい、今日だけお店お昼休みにするのは? 私の[転移]でお昼ごはん食べに行こうよ!」
魔王が温泉卵って言ってた。きっとすごくおいしいよ。
いや、だが……と遠慮するのをせかして、お昼休みの貼り紙をだして、腕をつかんだ。
「[
黒猫国へようこそ!
ちょうど魔王の料理の手伝いをしていたルベさんが、こっちを見てあっと息をのんだ。
「師匠ーーーー!!」
赤い髪が跳ねる。
うれしそうに駆け寄ってくる姿を見て、トムじいはやっと笑顔を見せた。
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