黒猫、抗えない


 お昼ごはんは温泉でゆでた青菜とソーセージとゆで卵だった。

 ふーん、とろとろの温泉卵じゃないんだ。こっちの世界では、温泉でゆでた固ゆで卵が温泉卵らしい。日本でも温泉地で売ってたけどね、温泉ゆで卵。

 青菜がほんのりしょっぱくておいしかった!


「魔王! 温泉料理おいしい!」


「よかった。黒猫が温泉引いてくれたおかげだよ」


 魔王はにこにこしながら私の頭をなでた。

 この間から、なんか気安くなでるよなぁ? 別にいいんだけど。


 トムじいも料理はおいしいし、かわいい弟子はいるしで、顔がゆるんでる。


「トムじい、こっちに住む?」


「……いや、そういうわけにもいかない。集落に細工屋なかったら困るからな」


 まぁそうかもしれないね。

 無理強いするわけにもいかないし、また遊びにきてもらえばいいか。


 ――――と、思っていた時もありました。


 炊事場まで引いた温泉を足湯にして、トムじいの痛めている足を浸けてもらったところ――――。


「――――?! 痛みが和らぐぞ?!」


「フフフ……。黒猫温泉の力、存分に味わうがいい……」


「黒猫、悪かわいい……」


「こっちに引っ越すか……」


「師匠! ぜひ来てください!」


 温泉の力には、みな抗えないのだ……。

 トムじいは、引っ越し検討するそうだよ。なので、レンガのおうちはトムじいのお店兼おうち用に空けておくことにした。ルベさんもいっしょに住んでもだいじょうぶなくらい広いしね。


 トムじいを送って行って、デガロン三叉へ。砦に魔法札を納品して、『漆黒堂』で品物を補充。

 魔粒も魔法札もよく売れる。

 新しい販売庫を買って魔王が調合液の販売を始めたので、より売れるようになった気がする。っていうか売れてる! 悔しいけど、魔王の調合液すごい売れるんだよ! おいしいから仕方ないけど! あのマズイ調合液がおいしいって、魔王すごい!


 魔法札は、誰が作っても同じ魔法が展開される魔法札だけど、調合液は味や効き目が作り手によって違う。それって作り甲斐があるよね。なんかちょっとうらやましいなぁ。




 黒猫国へ戻ると、なんとまたドワーフのお兄さんたちが来ていた。

 しかも人数増えててお姉さんたちもいる。

 この間お世話になったお礼って、荷車にドワーフ製の斧とかのこぎりとか短刀とか、金属とかを山にして持ってきてくれた。


「ミュナちゃん! オイラたちもここに住んでもいいだすか?」


「いいだすニャ!」


「「「「かわいいだす……」」」」


 ――――ってうつっちゃったよ!


「ここらは魔法使えないんだけど、ドワーフの人たちも使わないからいいんだよニャ?」


「んだすー。魔法使えないってとこも気に入っただすよ。オイラたちは使わないけど、相手は使うとなるとどうしても安心できないだす」


「街中で魔法使ってくる愚か者もいるだすよ。オイラたちが魔法使わないと思って、仕掛けてくるんだす。ここならそういうこともないだすし、町にも近いだすし、美味いものも食べられるだすし、オイラたちの力も発揮できそうだっす」


「んだんだ、ウチたちも力を発揮できる場所がほしいだすのよ。町の開拓手伝わせておくれだすね」


「はい! よろしくだすニャ!」


 うつっちゃうよ!

 ドワーフのみなさんの家は拓けた部分の西側、ドワーフ村側に作ってもらうことにした。

 自分たちで作れるのでお構いなく! というので見ていると、着々と建っていく。早い! そして独特! 石と木と金属を使うみたい。ちょっとスチームパンクっぽいね。


 私のなんちゃって魔法陣建築にも役立ちそうだし、見学していたいんだけど、やることもある。

 そう。温泉浴場を作らないと!

 大浴場と露天風呂と、あと風呂。のあのすっぽり感はたまらないよね……。解放感と収まり感を追求したゼイタクな温泉浴場にするのだ!


「――ミュナ様。お風呂などというものの前に、ミュナ様の住むところですよぅ!」


「う。――あ! 温泉の上に住む! だからだいじょうぶ!」


 ルベさんは白目をむいて、そんなに風呂が好きか! と言うけど、好きに決まっている。しかも温泉だよ。控えめに言ってもサイコー。


「黒猫、あの……蒸し風呂もあるとうれしいんだけど……」


 魔王からリクエストがあった。蒸し風呂……サウナ?

 別にいいけど、なんでそんなにもじもじしてるんだろう。


「おじさんくさいかなぁって……」


「そうなのかニャ? 私はあんまり思わないけどニャ……? 温泉の蒸気でいいの?」


「うん!」


 私はサウナに全然入らないから思いつかなかったけど、そういえばお風呂の横にあることが多い。


 黒猫温泉は源泉の温度が高めだから、まず温泉をサウナの部屋を通るようにして、少し冷ましてからお風呂の方に流そう。


 配管(?)はツッチーたちにまかせて、私は建物の設計を考える。

 お風呂場は石とか岩とかレンガで、他の休憩所とか二階とかは木造。男湯と女湯を分けて、それぞれにサウナ室と近くに水風呂、大きい浴槽。あと洗い場も。は露天風呂といっしょに外でいいな。


 露天風呂は山側に向けておけば、誰も通らないだろうから安心。そのうち、景色にもこだわりたいよね。滝流しちゃったり、ライトアップしちゃったり!


 これで休憩所で魔王のごはんが食べられれば、極楽温泉から一歩も出ないな!





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