黒猫、召喚魔法


 そういえばルベさん、トムじいのカップ気に入ってたっけ。思い出して細工屋『銀胡桃』に連れて行くと、ちょうど作っているところだった。

 金属の板を熱してジュッとしてコンコンしてカップができていく。

 カップのうろこっぽい模様って、形を作る時に金づちでトントン叩いてできたものなんだ! おしゃれで付けてるのかと思ってた!

 ルベさんは私以上に真剣に見ていた。


「ミュナ様! すごいですね!! あの熱する加減すごいですよね?! あんな風に火を自在に扱えるようになるには長くかかるんでしょうねぇ」


 なんか目線がマニアック。

 ルベさん、火の加護があるとかで、火を扱う魔法が得意なんだって。


「そうか、興味があるなら作ってみるか?」


 トムじい、うれしそう。魔人国が気になってたみたいで、その最後の一人だというルベさんも気になるらしい。

 結局、ルベさんはトムじいの弟子になることになった。






 今日も魔王は魔法ギルドへ調合を習いに。どうもトレッサ師匠が教えてるっぽい。えー? 師匠ってば魔書師じゃなかったの? 魔法生産職の天才なの?


 ルベさんはトムじいのところへ細工を習いに。送り迎えは私がする。二人で『漆黒堂』に寄って行くからついでにね。


 で、私は何をしているかというと、温泉掘り! 温泉掘りですよ! だってなんのためにガーゴイルと死闘を繰り広げてここまで来たと思ってるの! や、ホントは死闘なんて繰り広げてないけど。ちょっと焦げ目作っただけど。


 もう場所は決まっていて、その近くにテント立ててるんだから。あとはが掘るだけ。

 こういう掘ったり道作ったり整地したりするゴーレムの召喚魔法陣は、見本帳に載っていたんだよ。でも、魔法陣ちゃんと読むと、召喚じゃなくて作成の魔法陣だとわかる。粘土で作って土の精霊の力を借りて動かすんだもん、召喚じゃなくて作成だよね。

 ちゃんと意味を理解して読めれば、簡単な魔法陣くらいは――――。


「[泥人形召喚マサモンゴレム]!」


 書かずに唱えても使えるのだ!

 指さした場所へ魔法陣が光り、むくむくむくと土が盛り上がったかと思えば、私の腰くらいの高さの小さい泥人形になった。


 ……あれ? 思ってたよりちっちゃいな……。


「えっと……命名『ツッチー』。温泉掘ってほしいんだけど……できる?」


 ツッチーはこっちを見上げて、こくんとうなずいた。

 こんなちっちゃい子が掘れるかな、だいじょうぶかな……。

 温泉予定地の前に座り込んだツッチーは右手をぺたりと地面に付けた。手は大きくなったかと思うとバケツのような円柱に変わり、土の中へと潜っていった。


「うわぁ……すご……」


 右手の先だけがごんごんと少しずつ下へと進んでいる。手でスコップみたいに掘るのかと思ってた……。

 やっぱ、餅は餅屋。土のことは土の精霊におまかせだねぇ……。


「じゃ、ツッチー。よろしくね」


 頭をなでなですると、ツッチーはこくりとうなずいた。

 ツッチーがいるあたりに、柱を立てて屋根を付けておく。雨降って溶けちゃったら悲しいし。


 ついでにトイレを囲う小屋を設置して、炊事場を含むテーブルのあたりに屋根をつけた。

 お昼は久しぶりに一人ごはんかと思ったら、[転移]した管理局で魔王と鉢合わせた。


「魔王、もうすぐルベさんのお誕生日だよ。成人のお祝い何する?」


 魔王はかぶりついていた鶏肉を飲み込むと、人差し指を立ててにっこりとした。


「俺、ごちそう作るよ! 牛肉のステーキとかどう?!」


「採用!」


「あと、サラダとスープとデザート」


「デザート?! すごい! どんなの?!」


「うーん……なんか甘いの。考えておく」


「はい! 楽しみー!」


「黒猫はどうするの?」


「う。なんか考える……」


 お洋服とか? 雑貨とか? どっちにしても、黒猫国の住民たちは物少ないもんなー。

 魔王はふわふわと笑いながら、またごはんに没頭しだした。




 本日も快晴なり! でも寒いっ! 日当たりのせいなのか地熱があるのか、三叉の『漆黒堂』よりは暖かいんだよね。 でも寒いけど! ルベさんのプレゼント暖かい上着にしようかな?


 日課になっている穴チェックで、ツッチーの横に立ち穴を覗く。だいぶ深くなってきた。

 ありがとねーとツッチーの頭をなでなですると、小さい泥の体がふるふるした。


「ルベさーん、店行こー」


「はーい、今行きますぅー」


 今日も二人で『漆黒堂』へ。補充する作業もだいぶ慣れた。ルベさんが補充している間に、私は砦に納品。戻ったら補充する。


「ルベさん、誕生日もうすぐだね。なんか欲しいものとかある? あんまり高いものは無理なんだけど」


「いえいえ! もう十分いろんなものいただきました! 気持ちだけでうれしいですよぅ」


「えー! 困るー! 何かプレゼントしたいのにー」


「それより! ミュナ様の家を早くなんとかしてください。あたしたちだけ家で、土地の主がテントとか収まりが悪いんですぅ」


「テント、落ち着くよ?」


「またそんなこと言ってぇ。猫人だからですかねぇ? いっそ、城でも建てます? 黒猫城」


 あっ……それ、そそられる! 難攻不落の黒猫城。黒き我が居城は何人たりとも陥落おとすことはできぬ。フハハハハ。

 ニヤーっと笑うと、ルベさんも笑った。そしてちょっとだけ、寂しそうな顔をしたような気がした。


「――ルベさん、どうかした?」


「何がです? どうもしないですよぅ?」


 その時は気のせいかなと思って流したけど、日を追うごとにルベさんは元気がなくなっていった。




「ミュナ、ちょっといいか」


 ルベさんを『銀胡桃』へ迎えに行くと、トムじいに呼ばれた。ルベさんはまだ作業しているらしい。


「ルベウーサが元気ないんだが……。何かあったか?」


「やっぱり……。聞いても答えないんですよ。どうしたんだろう」


「そうか。ミュナがいれば大丈夫だと思うが、大事な弟子だから心配でな」


 振り返って見る先には、長い赤い髪を一つに結んで作業をしている姿があった。

 なんとなく誕生日が引っかかっているような気がする。

 後でまた聞いてみる。そうトムじいに答えた。


 黒猫国へ戻りルベさんが入れてくれたパルドム茶をいただく。うん、ほっとする。


「……あのね、ルベさん。明後日、誕生日だよね……?」


 目の前の肩がびくりと揺れる。


「何か心配があるのかニャ……?」


 いつもはごまかしていたルベさんは、とうとううなだれて「実は……」と口を開いた。






 それはひどい話で悲しい話だった。

 成人を迎えた魔人は召喚されてしまうだなんて。


「……可能性があるというだけで、絶対ではないんですよぅ……。その魔法を知っている者が魔法を使うとは限りませんし、魔量があたしより多くないと成功しませんし……」


 でも、実際にルベさんよりも魔量が多い、神官様が召喚されてしまっている。そしてルベさんもわかっている。私を心配させないように、そう言ってるんだ。


 魔素大暴風があり、前の魔王の具合が悪くなり結界が維持できなくなった時。まだ仕事に就けない子どもたちは、母たちと共に飛んで他の集落に避難していったのだと言う。


 孤児であり、神殿で小間使いをしていたルベさんに避難という選択肢はなかった。魔人国で一番若い魔人となり、ただ国から人が減っていくのを見ていたそうだ。


 最後まで残っていた神官様が召喚されてしまってから一年、魔王がふらりと現れるまで一人で魔人国にいた。


 そんな話を聞いて、泣かない人なんている? 向こうの穴のところにいるツッチーもおんおん泣きながら掘っている。


 私は滝のように流れる涙を止められずに、ルベさんに抱きついた。


「……大変だったニャ……怖かったよニャ! ルベざん、がんばっだ!」


「ミュナ様ぁぁぁぁ!! 怖がっだでずぅぅ…………!」


 二人で抱き合ってわんわん泣いた。

 泣いて泣いて落ち着いたら、考えないといけない。


「……早く言ってくれればよかったのに」


「あたしのことで、お二人にお手数かけさせるわけには……」


「あっ、そう言えば、魔王は? 魔王は知ってるの?」


「……いえ……。無駄に怖がらせてもいけないと思って……。それに魔王というのは、魔人で一番魔量が多い者に付く称号なのですぅ……。魔王様は簡単には召喚できないと思います……」


 魔王は悪くないけど、一人安全とかなんかムカっとする。

 っていうか前の魔王が結界を維持していたってことは、結界が守っていたってことで…………。結界なら、私が書けばいいんだ!


「魔王国の結界、どんなだったかわかる?!」


「いいえ……。残った者たちで復元しようと手がかりを探したんですけど、何も残ってませんでした……」


 そうか。あっ、じゃ他の集落の結界を見れば……って、明日までに他の集落なんて探せないよ!

 でも、きっと何かできることはあるはず――――。


「ルベさん! 私が結界を書くよ。だからちょっと待ってて」


 絶対にルベさんを見知らぬところに召喚なんてさせないから。


 ――――黒猫国の住民を好きにさせるなぞ、黒猫の目が黒いうちは許さぬ。黒くなくても許さぬ。神から与えられしこの力、存分に知らしめてやろう!


 私はツッチーにルベさんを守るように命令し、[転移]を唱えた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る