黒猫、魔法陣建築士


 金具と工具と食器と、魔王がフライパンを欲しそうに見ていたので、それも買った。トムじいがハチミツとジャムと山鳥の肉をもたせてくれたんだけど、買った以上にもらってる気がするよ。トムじい、もうけなくなっちゃうよね。


 戻ると、ルベさんは炊事場で魔コンロを使ってお湯を沸かして待っていてくれた。魔王が魔人国から持ってきたというテーブルセットを魔法鞄から出すと、キャンプのような雰囲気になる。前にテレビで見たグランピングとかいうやつだよ。

 さっき買ってきた食器も金属製だし、[清浄]をかけて三つ置くとより一層キャンプ気分だった。


「ミュナ様の買ってきたカップかわいいですねぇ。このまま火にかけられるんですね? ――はい、どうぞ。ミュナ様、魔王様、パルドム茶です」


 いただきますと一口飲むと、香ばしいゴボウ茶に似た味がした。


「おいしい。温まるニャー」


「そうなんですよぅ。飲むときに温かいだけじゃなく、体がポカポカするお茶って言われてます」


 ふむふむ、魔人の知恵袋ってやつだ。


「もう暗くなってきたし、俺が簡単な夕食作っていいでしょうか?!」


 魔王が無駄に笑顔を振りまいてそんなことを言うので、もちろんうなづいた。うむ、よきにはからえ。

 ルベさんはそのお手伝いをするみたいだ。

 あぁ、そうか。いつもそうやってごはん作ってたってことか。

 少ししか滞在しなかったけど、魔人国はずいぶんとひどいありさまだった。二人きりの魔人国を思うと少し切なくなる。いつか、話を聞かせてもらえる日がくるのかな。


 そっちは二人にまかせて、待っている間に丸太を[風刃]で切って[乾燥]をかけて扉用の板を作っておく。入口開いたままじゃ落ち着かないもんね。


 さほど時間はかからずに、できたよーと呼ばれた。

 テーブルへ着くと、すごいいい香りが漂ってますよ!!


「今日は簡単なものだけど……さぁどうぞ」


 照れくさそうに、でもちょっと得意げに魔王はお皿をテーブルへ置いた。

 これはアレだ! 牛肉とニンニクの芽の炒め物! おいしそうー!

 三人がテーブルに着いてから、手を合わせた。


「いただきまーす!」


 お肉とニンニクの芽をいっしょに口に入れると、ニンニクの芽のたまらない香りと香ばしい香りが広がる。ちょっとごま油にも似たオイルとの相性もいいねぇ。牛柔らかい。ウマー! 白飯が欲しくなるけど、木の実入りの黒パンに乗せて食べてもおいしかった。


「魔王、おいしい! すごいおいしい! こっちに来てから一番!」


「……こっち?」


「あっ……! マ、マルーニャから出て来てからってことニャ!」


「そっか、ありがとう。さっきいただいたジャム、ちょっと使わせてもらったよ。黒猫はあのすごい栄えた町から出てきたんだね。一人で切り拓いてきてすごいよね」


 孤高の黒猫にはいろいろと事情があるのだ。

 また一口食べてかみしめる。

 これ、ジャム入っているのかー。全然わかんないけど、なんとなく味に幅が出てるような。言うだけあって魔王は料理上手みたいだった。

 静かに食べているルベさんを見ると、やっぱり泣いていた。


「ずごいおいじいでずうぅ……」


「あはは……ありがとう。今までは食材なくて披露できなかったんだ。ごめんね、ルベウーサ」


 魔王は照れくさそうに鼻をかいた。


 食べ終えてから魔王が扉を取り付け、ルベさんの家がだいたい完成した。窓は明日にでもなんとかしよう。

 ちなみに私は[暗視]の魔法を使っているから、暗くても作業に困らないんだけど、魔人の二人は種族的に夜目よめがきくらしい。闇の住人ってこと? う、うらやましくなんかないんだから!






 次の日も忙しく、魔王が作った目玉焼きトースト(美味)をささっと食べて、作業に入る。


 二人には魔法陣の見本帳を見せてあげた。覚えられるなら覚えた方がいいよね。特に[位置記憶]と[転移]。[位置記憶]は二人とも覚えられるスキル値で、[転移]は魔王は大丈夫、ルベさんはもう少しだった。覚えれば一人で自由に移動ができるから、この二つは絶対に覚えた方がいいよ。

 魔人は独自の魔法を使っていたという話で、魔法書や魔法陣の見本帳などもなく口伝くでんで弟子に教えていたのだそうだ。

 [転移]の魔法っていうのは知らなかったとルベさんが言う。


「……これを覚えれば……されても帰って来れる……」


「ん? ルベさん、どうしたの?」


「な、なんでもないですぅ。絶対に使いたいと思って」


 えへへと赤髪の美魔人が笑った。


「うんうん、ホント便利だからニャ。結合のスキル使ってもでも魔法の数値上がるんだっけ?」


「はい、上がりますぅ。でも、上り方は悪いんですよねぇ」


「それじゃ、作った魔粒使って魔法の練習した方が早く上がっていいかも?」


「でも、お金も稼ぎたいので、適当にやりますよぅ。ミュナ様ありがとうございます」


 稼げるようになるまでは食費くらい持つって言っても、二人とも聞かないんだもんなー。じゃんじゃん稼げるようになってから、黒猫に貢いでくれてもいいんだよ?

 そういうわけで、なるべくマルーニャデンの管理局のごはんにお世話になりつつ、三人で出し合う共用のお財布から食費を出すことになったんだよね。


 二人が魔法陣を見ている間に、私は魔王の家を建てた。昨日の魔法陣を写しておいたから、書くの早かったよ! ルベさん家と全く同じで芸がないんだけど。


[位置記憶]を覚えた二人に、空の記憶石アンカーストーンをいくつかあげる。

 そういえば、真ん中に穴が開いているのは、ヒモを通してベルトとかにつけられるようにだって師匠が言ってたな。黒猫国の記憶石だけリュックに付けておこう。


「黒猫、黒猫。俺、調合のスキルが高いんだけど、魔法ギルドで調合って教えてくれるのかな?」


 魔王が目をキラキラさせている。なんというか希望と好奇心に満ちた目? 髪も無駄にキラキラしているのに、まぶしいが過ぎるんですよ。


「教えてくれると思うよ。私もギルドで書写教わったし」


「用事のある時でいいんだけど、魔法ギルドに連れていってくれる?」


「いいよー。この後送ってあげるよ。私とルベさんはその間に店に商品置きに行こう」


「はい! ミュナ様のお店に行くの楽しみです!」


 全員色違いローブを着て、まずはマルーニャデンの魔法ギルドへ[転移]。魔王を置いて、二人でデガロン三叉へ。

 先に砦に納品してから、我が拠点『漆黒堂』へ行った。


 それにしても……うちの店って建物もないし、見れば見るほど自動販売機だな……。


「……お店っていうほどのものじゃなくて、悪いんだけど……」


 雨ざらし状態の販売庫を、ルベさんはものめずらしそうに見ている。


「お店に人がいなくても売れるんですね? すごい技術ですねぇ……」


「あ、そうだ。買う時も、商品の補充も身分証明具を使うから、住民登録しておいてもらってよかったニャ」


 商品を販売庫に入れるやり方を教えて、ルベさんの魔粒を入れてもらう。金額? 高めでいいよ! きっと売れるよ!

 私の魔法札も売れていたので、補充した。大目に入れておこ……。


 販売庫では八個売ることができるんだけど、現在[転移]と[位置記憶]の魔法札と記憶石、魔粒四種類が置いてある。残りの一個は、魔王が調合できるようになったら、調合液ポーションを置いてもらおうかな。

 黒猫国、偶然にも魔法系生産職が三種が集まったんだよね。魔法店としては最強だよね?


「ルベさん、ルベさん! 魔法の館『漆黒堂』拡張しちゃうのはどうかニャ?! もっと販売庫増やしちゃう?!」


「……ミュナ様、お言葉ですが、まずは建物が先かと思うんですよぉ?」


 ……うん。ごもっともでございます。

 私はその場で巻物に魔法陣を書き付け、全面が開いたお堂のような建物を建てたのだった。





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