黒猫、天才が有り余る


 家土台の魔法陣をアレンジして、魔コンロを置く下の台を作った。昔のかまどみたいな石造りで、小さいかまくらみたいな形。空間をあけて、鍋とかしまえるようにしてみた。


 その上に魔コンロを設置。展開してみると陶器っぽい質感だった。そうか、陶器って粘土からできるんだっけ。

 手前側に球体の石のつまみがついていて、オンオフ強弱を変えるようになっている。


 すぐとなりにはシンクも作った。粘土と樹脂でできた水が出る筒と、ぬるま湯が出る筒。将来的には温泉が出る筒も設置したいよね。


 あとは建物の魔法陣を作っておこう。

 これも見本帳にあるので、そのまま使うことにした。

 [建築・一般家屋(小)]一人暮らし用の小さい住宅と書いてあるこれでいいかな。


 必要資材は木をスライスして乾燥させたものとも書いてある。

 そういえばトムじいの家の床やった時は、材料を処理する魔法も混ぜ込んだことを思い出す。


 じゃ、切り倒された木を切って乾燥させてって記述も加えておけばいいんじゃないかな。

 あと――――漆喰! 漆喰の壁とかどうだろう。すごくいい壁だって、うちの父ちゃんが家自慢してた。たしか、呼吸する石がどうとか言ってた気がする。

 それも書き加えてみよう。だめならまた書けばいいだけだし。


 屋根部は見本帳に出ていた雨除けの結界をアレンジして使うようにした。雨自体が触れなければ傷みも少ないはずだよね。


 扉とかシンクとかトイレの細かいものは記述に含まれてなくて、後から設置するみたい。たしかにこれ以上は記述が長くなりすぎる。まずは家の外側だけ。これ以上複雑なのは無理!




 夕方になり、魔王が戻ってきて魔法鞄から木をドバッと出した。黒猫国、一気に木材加工現場になった。


「まだあったけど、とりあえずこれだけ拾ってきた」


「魔王様おかえりなさい!」


「魔王、ありがとう!」


 とりあえずと言うわりに、なかなかの量だよ。

 山になっている木の上へ、書きあがった巻物を開いたまま置く。すると、数本が消えていった。


「「「おおおっ!!」」」


 木を飲み込んだ巻物を手に取り、魔力を入れていく。

 そこそこ魔力を込めたところで巻物は光を帯びた。

 よし。とりあえずおかしなところはないってことだ。

 巻物は[建築・一般家屋(小)特殊]となっていた。


 先に作っておいた土台の前で、巻物をかざす。

 さぁ、どうかな――――?


「[解巻物マリリースクロール]」


 巻物は光となり土台の上で魔法陣を描いた。一瞬まぶしく光り、次の瞬間には白い壁のかわいい家が建っていた。


「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!」」」


 建った!!!! 家が建ったよ!!!!


「黒猫すごい!! 天才!! かわいくて天才なんてすごい!!」


「ミュナ様!! すごいです!! 魔法陣?! え、どういう才能です?!」


 見本帳の魔法陣をちょっとアレンジしただけだけど! ドヤ顔するよねー! 仕方ないよねー!


「どっちかの家にしていいよ。ルベさん住む?」


「ええええっ?! そんな魔王様とミュナ様を差し置いて、なんであたしですかぁ?!」


「え? 魔王は男の子だから後でもいいかなって」


「うん、ルベウーサは女の子だからね。先だよね」


「あっ! やっぱりもっと大きい家の方がいいかな? それだったらもう一軒建てて……」


「うわぁぁぁぁ!! いえ、住まさせていただきます! 十分です、ありがとうございますぅ!!」


 ルベさんはそう言って、土下座してしまった。

 魔人の人たちは土下座好きだよねー。


「細かいところはまだできてないし、窓も扉もまだなんだ。必要なものがあったら後でおしえてニャ」


「はぃぃ」


 うるうるしているルベさんを先頭にみんなで家に入ると、中も白いいい感じの漆喰風壁(実際は何壁なのかナゾ。精霊のみぞ知る)だった。

 床はトムじいのところと同じ、明るい色のフローリングが樹脂コーティングされている。二階がないので天井が高い。


 ルベさんは「ステキでずぅぅ」と泣いている。

 喜んでもらえたならよかった。


 魔王はずいぶん熱心にあちこち眺めていた。


「黒猫、扉はどういう形にするの? 開き戸? 引き戸?」


「開き戸っていうやつ、かなぁ? 左右じゃなくて前後に開くやつ」


 トムじいのとこもミネルバさんのとこもその形だったから、自然とそのタイプを想像していたよ。


「ドアの金具ってどうするの? ある?」


「ない……あ、ある! 買ってくる!」


 トムじいのとこに売ってた気がする!


「待って! 俺もいっしょに行く!」


「しょうがないニャ……。ルベさん、ちょっと行ってくる。すぐ戻るよ」


 私は魔王の腕をつかんでトムじいのお店の前へ[転移]した。

 窓からは明かりがもれていて、営業中を知らせている。


「こんばんはー! トムじいー、ドアの金具ありますかー?」


 扉を開けて入って行くと、トムじいは机から顔をあげて目を大きく見開いた。


「ミュナ! よく来たな! ……ん? そっちは、魔人の男……?」


 あ、魔王、ローブ着てなかった。


「こ、こんばんは……」


 おどおどした魔王をひっぱって、店の中へ入っていく。


「トムじい、魔人って連れて来たらダメだったニャ?」


「いやいや、全然そんなことないぞ。大歓迎だ。この辺りも二年前までは魔人の行き来があったんだぞ」


「そうなの?」


 二年前というと、私たちがこっちに来る理由となっている魔素大暴風のことだろう。


「ああ、そうだよ。魔人を見るのは久しぶりだなぁ。……そうだ、前に魔人の国に出入りしていた商人が、魔人国は壊滅的だったと言っていたな……。よく生き延びたな」


 トムじいの言葉に、魔王はうつむいている。


「……俺はその時魔人国にいなくて……」


「そうか。それでも魔人が訪ねて来てくれたのはうれしいぞ」


「もう一人魔人の女の子もいるので、今度いっしょに来ます」


 魔王がそう言うと、トムじいはにっこり笑った。


「楽しみにしてるぞ。――で、ドアの金具だったな? 蝶番のことか? 取っ手のことか?」


 トムじいは立ち上がって棚の方へ向かい、魔王もいっしょに向かった。


「どっちも必要なんです。いくつか必要で――――」


 金具は魔王にまかせておこう。

 私は食器コーナーから、いくつか選んだ。三人お揃いのやつ。

 魔王と二人だったら絶対にしないけどさ、三人お揃いとかなんかいいよね。

 なんか、仲良しグループみたいで!





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