黒猫、天才が過ぎる
マルーニャ領都マルーニャデン管理局にて、今日はルベウーサさんの登録手続き。またも担当してくれたフォリリアさんには軽くあきれられている。
次から次へとどこから拾ってくるの? だって。言い返せる言葉がないよねー。
色違いローブの三人組という目立つ集団で、ごはんを食べにいく。
ルベウーサさんことルベさんも未成年だったんだけど、あと数日で成人になるってちょっと暗い顔になった。そんな落ち込まなくても、それまで毎食食べにくればいいよ! そしてその後は、あの住民登録でもらった食事券をルベさんにあげよう。
ちなみに魔王も一か月半後には成人だそうだ。
この国の成人は十八歳。私は十五歳だから、二人ともちょっと年上。
その年上二人は、泣きながら焼き肉(猪)とパンを食べている。
おいしいならようございましたねぇ。
私は生暖かく見守りつつ、ソーセージと野菜スープをいただいた。
食べたらお決まりコースで魔法ギルドへ。ルベさんが魔法書と魔粒を引き換えている間に、〈存在質量〉のスキル軽いを最大で使ってトレッサ師匠の元へ行った。周りを見回したところヒヨコ頭はいないようだった。
「――師匠。空札と空巻物、欲しいんですけど」
「おや、ミュナかい。あんたはあちこち突然現れるねぇ。空札と空巻物だね。記憶石はだいじょうぶかい?」
「あっ、さすが師匠! 石もくださいー」
ギルド会員になったから一割引きで買い物できるんだよね。お得大好き。
しばらく買いにこなくてもいいように買い溜めした。やっぱりまだ来たいって、あんまり思えないんだよね……。
その後はそれぞれ必要なものを買って、ワスラ火山地区へ戻った。
「えっと、とりあえずルベさんは私といっしょのテントでいいかニャ……?」
「ふぇ?! そ、そんな恐れ多いです! 野宿で十分ですよぅ」
「じゃ、私と同じテントでヨシと。魔王はテント貸してあげる」
「ありがたく借ります! けど、黒猫。この敷地の向こう側に木がいっぱい転がってたよ。あれ拾って来て家建てた方がよくない?」
な、なんと!!
すごい建設的な意見が! 建設なだけに!
って、魔王がいきなりまともなことを言うからびっくりした!
「魔王、家を建てられるの?」
「俺ができることもあると思うんだけど、あのトイレとか作ったの黒猫だよね? あの技術があったらちゃんとした家作れるんじゃない? 木を薄く切って板にして、固めれば壁にならないかな」
それはいい!!
[風刃]をそーっと使えば板にはできると思う。[乾燥]させて魔法陣で組み立てればできそうな気がする!
「作れそう!! 木拾ってくる!!」
「黒猫、待って! 俺が行ってくるよ。飛べるから早いし」
「じゃ、魔王頼むニャ」
はーい! と元気よく魔王はリュック型の魔法鞄を担いで飛んで行った。
「あたしは?! ミュナ様、あたしは何しましょう?!」
引っ越してきた家の片づけをしてていいよと言いたいところだけど、家がない。やることもないし、なんにもないです黒猫国。
「ルベさん、スキルは?」
「魔法、書写、結合、料理、剣術がありますけど、魔法と結合以外はそんなに上手じゃないんですよぅ」
結合って、魔粒を作るスキルだっけ。
私は使わなくていいけど、他の人は魔法使う時に必要な素材だ。
「魔粒作って売る? 私の店の販売庫まだ空きがあるから、そこで売ってみる?」
「えっ! ミュナ様はお店も持ってらっしゃるんですか! すごいですねぇ……。ぜひ売らせてほしいです」
そうだよね、それぞれちゃんとお金を稼いで暮らしていけるようになりたいよね。
デガロン三叉は町から遠いし、魔粒はちょっと高くても売れるかもなぁ……フフフ……。
「……あたし、神官様に書写を習っていたんですけど、なかなか上達しなかったんですよねぇ。結合の方は好きでよく作ってたんですけど」
やっぱり好きは上達の近道ってことだよね。
「結合ってどうやるの?」
「こう、頭をぼーっとさせて風の音を聞くように探っていって、ふわっとくるっとすると――――はい。風の魔粒です」
ルベさんが差し出した手のひらの上には、黄色い粒が山になっていた。
「んーー?! どういうこと?! どういうしくみ??」
「自然との対話だそうですよぅ。あたしはそんなこと考えないで、なんとなくすくってるだけなんですけどねぇ。結合のスキルは向いている人と向いてない人がいるって話ですよぅ」
「そうなのかー、先天的な才能なのかー。すごいよ、ルベさん!」
「頭が悪い子じゃないとできないって、よくからかわれたもんですけどねぇ」
照れくさそうにルベさんは笑った。
魔粒ができたら店に置きに行くことになったので、ルベさんには魔粒作成をしてもらう。
その間に、[魔物除け建物結界]を二つ書いた。魔王のとルベさんの家用。この辺り一帯はすでに魔物除けしてあるんだけどね。家はやっぱり土台があったほうがいいもんね。
あと炊事場とかがいるのか。
魔王は料理得意って言ってたし、私は料理しないけどお茶くらい入れるのもやぶさかではない。うむ。
水場はトイレにも使った循環システムを使えばいいとして。
コンロ的なものを作ろうと魔法陣の見本帳をめくると、そのままずばり魔コンロっていうのを見つけた。
ふうん……。火の魔粒を補充して使うんだ。
火の精霊から気をもらう記述がないし、風で火を回すのと強弱を変えるだけだから、火の部分は簡単な記述。
ってことは、火の精霊に気をもらう記述と可燃性天然ガスなんてのを使う記述を加えれば、萌える……じゃなくて燃えるんじゃないかな? これで魔粒レスになる? 都合よく可燃性天然ガスなんてのが、あるかどうかはわからないけど。
あとは魔コンロの形を作る記述。見本によると土を使うようだった。
これはそのままでよしと。
とりあえず書いてみた。
そして魔力を込める。
きらりと光りできあがった金色のスクロールには、[魔コンロ・特殊]と書かれていた。
――――できちゃった――――!!!!
燃える気を使ってって書いたのが正解だったっぽい。それで精霊に通じるらしいよ!
私、天才が過ぎる。
有り余る自分の才能がコワイ……。フッ……。
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