第三章 切り拓くのは

黒猫国

黒猫、従属させる


 昨日の今日でやってきた魔王が、ヤブカラボーに土下座した。


「黒猫、お願いがあります!」


「……な、なんなのニャ!」


 びっくりするよ! 魔王は背が高いんだから、その位置からいきなりがばっと土下座とか心臓に悪いから!!

 魔王はちょっとだけ顔を上げて、こっちを見た。


「同盟を組みませんか。魔人国と黒猫国」


 黒猫国の呼び名に内心ニヤっとしたのは秘密。


「同盟ってどういうこと?」


 上体を起こして正座した魔王は、まじめな顔をした。


「昨日、町に連れていってもらってわかったんだけど、俺たちの国はこのままじゃだめだと思って。お金を稼いだり仕事したりして、ちゃんとした食材や道具を買いたいんだ。だけど、自分たちだけじゃどうにもできないから……」


 パンを泣きながら食べてるような状況じゃ、そりゃお察しってやつだよね。

 魔王も王らしくちゃんと考えてるんだと、ちょっと見直した。

 だから同盟がダメってことはないけど――――。


「具体的にどういう感じ? 何すればいいの?」


「………………どうしたらいいと思う?」


 魔王はテヘッと笑った。見直してソンした。

 そんなことじゃないかと思ってたよ。


「昨日の今日だし町のこととかわからないし、黒猫、助けてください!」


 また土下座してるよ……。

 私は黒猫国の王たるものとして威厳ある態度で答えねばならぬ。


「……フッ。そんな頼りない魔王に同盟なんて言葉は不要。従属国でいいんじゃないのニャ?」


 フフフ。黒猫のもとひざまずくがいい……。


「え! それでいいの?! それでお願いします!!」


「え! そこは『くっ……黒猫め……』ってなるとこじゃないの?!」


「なんで?」


 ニコニコと返されましたが。

 魔王としての自尊心はどこに。


 あれよあれよという間に魔人国へ連れていかれる話になって、それはまぁ従属させるなら一度はいかねばならぬだろうし? っていうか、一度は私が行って記憶石に[位置記憶]しないと不便だもんね。

 で、[筋力強化]の魔法をかけて、魔王の背中……というか腰のあたりに乗って飛んでいるなう。

 魔王はお姫様抱っこでって言い張ったけど、断固拒否だ。


「黒猫、見えてきたよ」


 前方には森が開けた場所があり、近づいてくるほどに遺跡が見えてきた……。


「……人、住んでるの……?」


「……うん。俺の他に一人だけだけど」


 二人…………。

 破壊された建物はまだ名残をとどめているものもあり、地に還りつつあるものもあり、無残で悲しい景色が広がっていた。


 これが、神様が言っていた魔素大暴風の爪痕なのかな……。

 領都には町全体を覆う結界があるって言ってた。だからあんな栄えたままで、大きな災害があったなんて気付かせないけど、確かにその災害はあったんだ。


 比較的壊れていないマシな塔の上で、長い赤い髪の人が手を振っている。

 魔王はすーっと高度を落とし、その塔の上へと降り立った。


「ただいまー」


「魔王様、おかえりなさいませ。そ、その方が、黒猫様……?」


 釣り目で明るい茶色の瞳が印象的なお姉さんは、顔をほんのり赤くして私を見た。


「あの、こんにちは、ミユナです。よろしくお願いしますニャ……」


 ちゃんと挨拶しようと思ったのに、緊張するとニャが出ちゃう!


「か、かわいい……ミュナ様ですね?! あたしはルベウーサですぅ! ああ、小さくてかわいいです、魔王様、どうしましょう……?!」


「え、名前……ずるい……。かわいいけど、なにそれ、ずるい……」


 …………よりによってこんなのんきな二人が生き残りとか………。このままじゃ魔人国が滅びる未来しか見えない…………。

 視察に出ようとしたところ、塔の一階にはいろんなヘビが住んでて階段もなくて下りられなかった。

 外にも何かがいる。黒いふわふわっとした四つ足の……ゲーム知識だと多分あれ、ヘルハウンド。それと、でっかい灰色の四つ足……あれは多分ダイアウルフだと思う。うろうろしているのが上から見えた。


「…………えっと……ずっと住んでいたところに愛着はあるかもしれないけど、とりあえずでも私のテントの方に引っ越す……?」


「異議なし! 永住希望!」


「同じくです!」


「え、住み慣れた町はいいの……?」


 言い出したこっちが引くほどの即答ぶり。

 ルベウーサさんはあははと笑った。


「だって、雨漏りひどいんですよぉ。いろいろ教わりたいですし、近くに住みたいです!」


 それならいいか。

 では、荷物まとめてきてね。と二人を部屋へ走らせて、その間に[位置記憶]と[転移]のことを考える。


 [位置記憶]は建物の外じゃないとできない。そして[転移]してきた途端に魔物にやられても困る。

 っていうことは、土台はいらなくて、魔物と動植物だけ除けて入れなくなればいいんだよね。


 しゃがみこんで札を書く。範囲を塔の周りぐるっと五十フィルドくらい、上下を十フィルドに指定して[無土・特殊]の札を作り、さくっと使った。

 うーん、さっぱりした! これで安心して塔の外で[位置記憶]の魔法が使えるよ。[筋力強化]かけっぱなしだったので、二階から飛び降りて外に出た。


 朽ちかけた建物が見えている。このさみしい感じ、キライじゃないんだけど。きっとずっと暮らしていたら、気持ちが暗くなりそうだもんなぁ。


 準備が整ったと言って外に出てきた二人が、魔物がいなくなって「ええ?! 何が?!」とすごい驚いてた。細かいことは気にしちゃイカンよ。

 私はローブを取り出し、魔王には昨日と同じ赤のローブを、ルベウーサさんには緑のローブを手渡した。

 そしてローブ姿の二人の腕をつかんだ。


同様動ダスチェフォロー][転移アリターン!」


 なにはともあれ、まずは腹ごしらえといこう。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る