黒猫、あの時の真相


 テーブルの上はソーセージパーティですよ!

 魔王が前日に作ったソーセージと、ドワーフのみなさんが作ったソーセージが山となってお皿に盛られている。


「はい。いっぱい食べてね」


 魔王がにっこりお皿を差し出すと、ちびっ子たちから「キャー!」という歓声が上がった。

 ソーセージに対してか魔王に対してかは、ナゾ。


「オイラたちが作ったのも、食べるだっす! ワイルドボアと豚が黄金の割合だすよ!」


 ダースタさんが負けじとソーセージをお皿に乗せていく。

 猪と豚肉のソーセージだって!


「この時期の猪は脂がのっておいしいんですよぅ」


 ルベさんもにんまりしているくらいだ。きっとおいしいに違いない。

 さっそく一口パリッとかみ切るとジュッと肉汁が出た。ジューシー! 猪って変な臭みとか全然ない!


「ウマ! 肉汁あふれるー!」


「黒猫! こっちも食べて! トマトソースも」


 魔王がお皿にソーセージと赤いソースを乗せてくれる。

 トマトソースって……どう見てもケチャップですけど! ケチャップ!!

 まずは何も付けずに一口。


 ――――?! ぜんぜん違う!!

 管理局とかデガロン砦のとかのとは、味が違うの! 香辛料のせい? 複雑な味に燻製の香り。

 パリッとして中は柔らか。日本で食べてたのよりもおいしい! 


 トマトソースを付けてみれば、安定のケチャップ! 酸味が肉をひきたたせるのか?! こっちもなんか甘味とか複雑な味がする。ウマー! ウマー!!


 ドワーフ秘伝のソーセージもトマトソース付けるとよりウマーですよ!


「猪おいしい!」


「どっちもおいしいけど猪おいしいね!」


「どっちもウマイ!」


 ちびっ子たちはドワーフ製のソーセージの方がお気に召したようだ。魔王敗退。ダースタさんがニヤニヤしている。猪の方が肉肉しいもんね。


 代わりにドワーフのみなさんが魔王のソーセージを大絶賛中。あ、昼間っからお酒飲んでるよ。お酒に合うらしい。

 師匠も、大人味の魔王のソーセージがお気に召したもよう。


「……これは、多分回復力があるね。ソースの方も。調合に使う材料が使われているのかい?」


「はい、師匠! いいものがいっぱい調合屋に売ってました!」


 元気に返事をしている魔王に、師匠はふむふむとうなずいている。


「――調合液からだけじゃなく、食事でもより回復できるならおもしろい研究ができそうだねぇ」


 師匠はいっつもそんなむずかしいこと考えてるのかー。さすが師匠だな。


「ミュナお姉ちゃん! ごはんおいしいね!」


「こっちの燻製卵もおいしいよ。いっぱい食べてニャ」


 ヴェルペちゃんがにこにこしている。

 みんなで食べるごはんはおいしい。ちびっ子たちがうれしそうでよかったな。


 自慢のお風呂にも入って、師匠たちは帰っていった。

 ヴェルペちゃんは最後まで抱いていたペルリンをそっと地面に降ろして、名残惜しそうに手を振っていた。




 今度はお泊りで来てもらってもいいんじゃないかな。

 寝るところは温泉宿でいいとして、書写室とかあったら何日か泊まれるのかなと思って、作ることにした。

 場所は、私が長らく寝床にしてた場所だ。今はテントもないし、ただの土台になっている。


 魔法札は、魔法札を使った時に魔法が発動するから、書く時も魔力を入れる時も魔法の扱いにはならない。だから[無魔法結界]の中で作れる。

 でも、試しに使ってみたり魔法の練習をするなら、やっぱり魔法が使える場所の方がいい。


「ツッチー!」


 土の使役精霊、ゴーレムのツッチーを呼ぶと遠くから走ってくるのが見えた。向こうで温泉を掘ってくれているドロシーのところにいたみたい。


「ツッチーごめんね。あのね、火を使わずに家を暖かくできるかな?」


 ちっちゃい子たちがいる場所で、なるべく危ないもの使いたくないなと思ってさ。

 ――できるって? ふんふん、温泉を床下に通すと。おお! 床暖房ってやつだ。レンガを敷いて溝を作って、その溝を樹脂でコーティングして温泉を流すとな? 樹脂の管を作る感じだ。すばらしい!


 それでお願いしますと言うと、ツッチーはこくこくとうなずいて資材置き場へと走っていった。

 床はやってもらえるから、私は壁と屋根の魔法陣を書く。テントで使われている、温度の上がり下がりを緩くする魔法陣も組み込んでおこうかな。多分、見本帳に載ってるはず。ルベさんの家と魔王の家の分も書くか。


 あれこれ考えながら土台のあたりに立っていると、魔王が走ってきた。そういえば、魔王はあんまり飛ばないな。ローブ着ちゃってて羽根を出してないからかな。


「黒猫ー。買い物行かない? 魚の種類選ばせてあげるよ」


 む。それ魅力的。


「うん、行くー」


 そう答えると、魔王は私の腕を取った。


「[同様動ダスチェフォロー][転移アリターン]」


「?! ま、待っ――――て――――……」


 いきなりだったから慌てて止めた――――――――のに、[転移]は実行された。

[同様動]の魔法は、相手に抵抗されたら魔量勝負。私の魔量は高過ぎる異常値。

 ということは。


 ということは――――――――!!


 あの[無魔法結界]の巻物の魔量がおかしかったのは、魔王のしわざか!!!!





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