黒猫、魔法札再発見


 師匠とちびっ子たちがやってきた。


「――――まぁ、ずいぶん開拓したもんだねぇ……」


 師匠の声に呆れが混じってる気がするのは、気のせいだよね!


「お姉ちゃん! こんにちは!」


 と駆け寄って来たのは、一番ちびっ子のヴェルペちゃんだ。コニーに脅されてもちゃんと主張していた勇気ある狐獣人の子。薄茶色の大きな耳に、ふさふさのしっぽが揺れている。


 そういえば私のしっぽはローブの中にいて、長らく日の目を見ていない。だって寒いし! ローブは脱げないよ!


「おじゃまします」


 礼儀正しくそう言ったのはヴェルペちゃんのお姉ちゃんのヴェラちゃん。さすが姉妹でよく似ている。

 二人は七歳と九歳だって言ってた。ちっちゃいのに、がんばっててえらい!

 もう一人の子は狼獣人の子のヨーティーちゃん。ヴェラちゃんと同じ年で、灰色の耳と髪がもふもふなの! なでなでしてみたいー!


 ヨーティちゃんは青い目を輝かせて、


「うわー! 広いっ!」


 と駆け出して行ってしまった。足、早っ。


 その上空をフレスがすーっと付いていく。それを見たヴェルペちゃんとヴェラちゃんも、駆け出していった。ペルリンが合流している。

 家も道もないところは雪原になっていて、三人と使役精霊たちが雪遊びを始めている。


「ああ、やっぱり子どもらが元気に遊んでる姿ってのは、いいもんだねぇ」


「そうですねー」


「……あんたも子どもだよ」


 そんなに子どもじゃないもんー。

 ルベさんが飛んで来て、師匠の前に降り立った。


「あ、あの、ミュナ様の師匠様でしょうか……」


 ルベさんが緊張している。

 大丈夫だよ! 師匠はたしかに、年季の入った紺のローブ着て大魔法使い風の貫禄あるけど、取って食いはしないから!


「……ミュナ様なんて立派な生き物は知らないし、師匠様なんて立派なもんでもないがね。そこのミュナには師匠って呼ばれてるよ。――――あんたが話にあった魔人の子かい?」


「はいぃ! ルベウーサと申します! いろいろお世話になり、ありがとうございましたっ!」


「いやいや、あたしゃなんにもしてないよ。そう固くならなくていいさね」


 ニッとトレッサ師匠が笑うと、ルベさんもつられて笑った。

 うんうん。師匠はね、髪がサーモンピンク色で見た目は大鍋グツグツの森の魔女だけど、怖くないからね!


「ルベウーサは[転移]の魔法は使えるのかい?」


「はい……まだ魔法スキルが少し足りなくて成功率が低いんですけど……」


「ああ、それなら魔法札でだいじょうぶだね。ちゃんと持ってるかい?」


「あっ、持ってないです……」


「こら、ミュナ。あんたの魔法札はなんのためのものだい?」


 ええと……その魔法を魔粒と呪文で使うには、魔法スキルが足りない人が持つんだったっけ……。


 は!!


 まさに! 今! こういう時に持つものじゃないか!!


「ごめんー!! ルベさん!! 魔法札持ってて!」


 あわてて背中の魔法鞄から魔法札と記憶石を取り出した。

 黒猫国の[位置記憶]がしてある記憶石は皮ヒモに通して、首から下げられるようにしておく。

 二つセットで持っていれば、万が一何かあってもワンチャンある。


「やっぱ師匠はさすがだニャー。弟子のことよくわかってるニャー」


「何が弟子だい。そんなもんは取った覚えないよ。あんたらが勝手に師匠って呼んでるだけだからね」


 師匠ってばそんなこと言って! 笑ってるくせにね!






「えー?! 使役精霊?!」


「この子たち、ミュナお姉ちゃんの魔法陣で作ったの?!」


「すっげー! かっこいいなぁ!」


 う。テレる。そんなまっすぐにほめられるとテレる!

 そろそろお昼ごはんだよと呼びに行ったらこんな目に合うとは!


「う、うん、そうなんだ。魔量は多く使うけど、魔法陣の組立て文はそんなにむずかしくなかったよ?」


 年上組の二人はあぁ……とがっくりしている。


「組立て文、ぜんぜんわかんないの……。形見ながらなんとなく写しているだけで……」


 それとは対照的に、わくわくとした顔で見上げるのはヴェルペちゃん。気に入ったのか腕にはペルリンを抱えている。


「わたし、魔法札書くの得意なの! いろんなもようがあって楽しいよね!」


 あ、そうか。古代精霊語がわからない人には模様に見えるのか。

 それじゃ、魔法陣はになるんだな。


「――うん、楽しいよニャ! ヴェルペちゃんは、いつもなんの魔法札書いてるの?」


「[創水]が多いよ。初級魔法でも冒険者さんたちが使うものは売れるんだって……コニーお兄ちゃんが言ってた……」


 目の前でシュンとなった耳。

 コニーお兄ちゃんなんて呼ばれるくらいには、めんどう見てたのかもしれない。脅したり腕をつかんだり乱暴なのは許せないけどさ!

 私はぽんぽんと頭をなでた。


「――そろそろお昼ごはん食べようニャ。まお……金髪のかっこいいお兄さんが用意しているよ」


「もしかしてケイシーさん?!」


 キャー! っと年上組ヴェラちゃんとヨーティーちゃんが声を上げた。

 魔王、魔法ギルドのアイドルか。ぷぷっ。


 みんなで師匠が待っている温泉宿の休憩所に向かった。きっとおいしいごはんが待ってるよ。魔王がはりきってたから。


 食材のお金はコニーが出したけど、それは言わないでおく。師匠にだけは伝えるけど、三人にはいつか話せる時がきたら、話せばいいと思うんだ。


 今は何も考えずに、ただおいしいって食べてもらいたいからね。





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