黒猫、贄


 現在、『漆黒堂』は販売庫を三台置いている。

 私の魔法札を売っている小さくてちょっと古いやつ。小さくて最新型のは魔王の調合液売っているやつ。調合液は品質保持があるから、古いのが使えないのだ。あとは、一つの庫内が大きくて道具類を入れて売っているやつだ。


 ドワーフ製の道具を一つずつ販売庫に入れて、ルベさんの食器も入れていく。ルベさんらしい、優しさつまった小さくてかわいい食器。


 ――――魔人が召喚していたのだとしたら、向こう側にいるのは魔人だ。

 わけのわからない人とかエルフとかじゃない分、ちょっとはマシなのかなぁ。


 何人かの魔人が召喚しているのかもしれないけど、ルベさんが言う神官様というのはきっとそれなりに魔量があるだろう。

 そしたら、それよりも魔量が多い魔人が何人もいるとは思えないし、一人が召喚していると考える方が自然だ。


 召喚された人たちは、みんなそこにいるのかもしれない。


 ――――そしたらやっぱり、行きたいって行ってもいいかもって思うのかな……。 そしたらやっぱり、止められないよなぁ…………。







「――――というわけなんですよー、師匠ー」


 私は魔法ギルドのカウンターの中に入り込み、トレッサ師匠のとなりのコニーの席に座り込んでいた。


「そういえば、コニーってこの時間何してるんですニャ? あんまりここで見かけないですけど」


「ああ、コニーはね、昼間はギルド会員のところを回ってるよ。仕事のフォローしたり情報を仕入れたりね」


 なるほど……。それで街中で悪いことをする時間があったのか。

 副主任のジョージさんは他ギルドとの連絡役だとかで、王都の魔法ギルドに行くことが多いらしい。


「――――ミュナ。それで、魔人の話だがね、二年前の大暴風までは魔人も町で見かけたんだよ」


 ごく少数だったけれどね。と、師匠は続ける。

 そういえばトムじいも魔人が通ることもあったって、言ってた。


「魔素大暴風で国が心配になって、帰ったんだろうと思っていたもんだがね……。もしかしたら違ったのかもしれないねぇ……」


「召喚された……?」


「可能性で言えば、ないとは言えないだろう?」


 魔人たちは大暴風後に次々と召喚された。

 ――――なんで?

 保護? 種族を絶やさないように、魔人を集めてる?


「なんで、召喚するんだろう……?」


「そりゃ、必要だから召喚するんだろうよ。よくて結婚相手かねぇ。あとは労働力か、もっと悪けりゃ……………………にえとかかね」


 ににに贄?!


 イカーーーーン!!!! 断じてルベさんの召喚を許すわけにはいかぬ!!


 いきなり慌てだした私の手を、師匠はぎゅっと握った。


「落ち着きな。いいかい、魔人を召喚する魔法なんてのは、相当なものが必要になるはずさね。魔量を始め魔粒か他の魔核か、いろんな資源と複雑な魔法陣が必要だろうよ。それを用意してまで、召喚するってことだよ。――――ただの愛種族心ってことはないだろうね」


 言われてみればその通りだよ。さすが師匠だよ。年の功?


「……はい、師匠。すごくよくわかりました!! 帰って話します!!」


「どれ、あたしも行ってみようかね。明日の午前中でも子どもたち連れて行ってもだいじょうぶかい?」


「もちろんです! ちっちゃい子たち、がんばってますニャ?」


「ああ、がんばってるよ。今も書写室で魔法札書いてるだろうよ。真面目な子たちだからね、たまには外へ連れ出さないとねぇ」


 トレッサ師匠はにこりと笑った。

 そうだよね。たまには外で遊ぶのもいいよ。


 いつもがんばってるご褒美に、おいしいもの用意しないと! 魔王が! お金はコニーで!






 夕暮れ時の黒猫国。といっても、空は厚い雲が垂れ込めていて、夕焼け色のかけらもない。ただ薄暗く今にも降りそうな気配だ。

 でも、仕事終わりの住民たちが集まってくる温泉宿は、灯りに照らされて賑やか。


「あー、いい湯だニャー」


「お湯もいいもんですねぇ」


 今日は二人で露天風呂だけど、ルベさんもサウナ派だからわりとドワーフのお姉さんたちといっしょなんだよね。

 なんで、みんなそんなにサウナが好きかね。


「……ルベさん、あのね、召喚魔法なんだけど……召喚され――」


「ミュナ様、あたしも少し考えたんです」


 私の言葉をさえぎって、ルベさんは話し始めた。


「もしかしたら、召喚された向こうに、神官様とかみんながいるんじゃないかって」


「うん……。そうだよニャ……」


「でも、あたしはここがいいですよぅ。ここにいたいんです。ミュナ様と魔王様といっしょに黒猫国で暮らしていたいです。だめですか?」


「全然ダメじゃない! いい町になるようにがんばるから、いてニャ!」


「がんばらなくていいんですよぅ」


 ふふふ。とルベさんが笑うので、私も笑った。


 ――そのうちね、こっちにお客さんに来てもらえるようにしたいよニャ。

 ――ああ、いいですねぇ。買いにきたくなるような物を作らないとですねぇ。

 ――ルベさんの食器も売れてるよ?

 ――いえ、師匠を超す物を作るのが目標ですよぅ!(キリッ)


 お風呂トークに夢はふくらむ。

 どこにも行かなくても困らないし楽しいように、いつか黒猫国を大きくしたいものだよねぇ。







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