黒猫、魔法陣を支配する
ジョージさんコニーさんも部屋を出ていったところで、トレッサさんが棚の扉を開けて振り返った。
「――書写教えるのなんて久しぶりだねぇ、うれしいねぇ。魔法札はどこまで書けるんだい?
「……書いたことないで、す」
「おや、そうかい。じゃ、魔法札を使ったことはあるかい?」
ふるふると首を振る。
「ふんふん――――ほら、これが魔法札だよ。魔法が使えない者でもこの魔法札を使えば魔法が使えるのさ。だがまぁ、せいぜい自分の魔法スキル値より30くらい上の魔法までさね」
机の上に魔法札が置かれる。お高いトランプのような質感の札には『位置記憶』と浮かび上がっていた。
「こっちの空札に魔法陣を書いて、上から魔力を入れると魔法札ができあがるのさね」
魔法陣を書いた後に
「……私、魔法使ったことがないんですけど、大丈夫ですニャ……? 魔力入りますニャ?」
「……………………魔法使ったことがないのかい? 書写のスキルはあるんだね?」
「ありま、す」
トレッサさんはパチパチとまばたきをした。
そしてじっとワタシの顔を見た後、ふんふんとうなずいた。
「……そうかい。まぁ、大丈夫だろうよ。入れー入れーって念じれば入っていくさ」
非常に不安が残るアドバイスありがとうございます!
「さっそく書いてみようかね? 自分の魔法スキル値が、書く魔法の必要スキル値以上でないと書けないんだがね、魔法スキルは75あるかい?」
魔法スキルは確か80台だったはず。
「ありま、す!」
「…………そう、かい。そいつはよかったねぇ。それだと売れ筋の[位置記憶]の魔法札が作れるよ。この魔法は[転移]と対になった魔法だ。『記憶石』に[位置記憶]で場所を記録して、その場所へ[転移]するという流れで使われるのさ」
これが記録石だよと、机の上に五円玉のような形の茶色の石が置かれた。
「あとは書写スキル次第だけど、書けば書いただけ上手くなるからね。がんばってごらん」
紙とペンが机に置かれる。
「こっちは見本だよ。この魔法陣を見ながら書くといい。ちゃんと書けるようになったら空札の方に書いてみようかね」
見本と呼ばれたそれには二重円があり文字が書かれていた。
いかにも魔法陣! コレだよコレ! 魔法札に魔力を入れる前はこれが書かれているってことか。
よーく見ていくと、円と円の間に書かれているのはサラマンダー、ウンディーネ、シルフィード、ノームなどと書かれており、四大精霊・エレメンタルへのご挨拶文になってるみたいだ。
ふむふむ。で、中の文はどんなことが――――?
私は魔法陣の文の中へ引き込まれるように、見入った。
偉大なる四大精霊、力を貸してください。という文から、魔法陣は始まる。
円の内側には、
[位置記憶]
捧げるもの
シルフィードのささやき180量
ノームのあしあと160量
干渉する魔法陣がないかチェック。
ある場合は術解放否。
この札を放つ者が記憶を受け入れるものを持つ場合、術解放是。
この札を放つ者の位置を調べる。
この札を放つ者の記憶を受け入れるものにその位置を記憶。
記憶を受け入れるものの色を変える。
術終了
[札封]
なんてことが書かれていた。
位置を調べる時のシルフィードへの呼びかけ文と、位置記憶のノームへの呼びかけ文が少しややこしい文になっているけど、これなら書けそう。
ちょっとだけ勉強したプログラミングに似ているような気がした。
「――――書けました!」
「ずいぶん、すらすらと書いたもんだね。どれどれ…………うん、間違ってないね…………うん…………」
眼鏡をかけてじーっと見ていたトレッサさんは、すごくむずかしい顔をしている。
「…………もしや術組立て文が読めてるかい?」
もしやってどゆこと? 読めちゃまずいの?
「よ、読めますニャ」
「……………………そうかい。この古代精霊語はね、魔法の呪文にも組み込まれている言葉でね。今はもう魔法陣を研究して魔道具を作る者たちだけが知っているような言葉さ。術組立て文を書いて書いて書いてわかってくるもんだ。それまでは形を見て写し取るものなんだけどねぇ。どこで教わったんだい?」
えっえっ、普通に書いてあるのと同じに見えてますけど……?
同じに見えるから同じように書いてるけど、他の人には違うように見えてるってこと? んんん???
「……わかりませんニャ……」
私がそう言うと、トレッサさんはまたまばたきをパチパチした。
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